イギリス、石炭火力発電停止から2カ月 再生可能エネルギーに押され
ジャスティン・ロウラット、環境担当主任編集委員
石炭火力発電を2025年までに全廃しようと目指すイギリスは、10日午前0時に石炭火力発電を停止してから丸2カ月となる。
10年前にはイギリスの電力の約4割は石炭火力によるものだった。石炭火力の使用停止には新型コロナウイルスの感染拡大を受けたことも関係しているが、それだけではない。
イギリスが今年3月にロックダウンを開始すると電力需要は急減した。英送電会社ナショナル・グリッドは、石炭火力発電所を同社ネットワークから外した。
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残っていた4つの石炭火力発電所を最初に閉鎖し、4月9日午前0時に最後の1カ所のシステムを停止した。それ以降、電力供給のために石炭は燃やしていない。
ナショナル・グリッドは北アイルランドに電力を供給していないため、石炭火力の使用停止はブリテン島に限った話だ。
しかし、過去10年間でイギリスのエネルギー供給システムがどれほど劇的に変化してきたのかがうかがえる。
かつてイギリスの電力供給網を支えていた石炭火力が同国で必要ではなくなったのは、過去10年間の再生可能エネルギーへの大規模投資のおかげだ。
洋上風力発電
次の2つの例が、イギリスのエネルギー・ネットワークがどれほど変化したのかを示している。
10年前、イギリスの電力のわずか3%が風力と太陽光発電だった。当時は高価な発電方法だというのが大方の見方だった。
現在では、イギリスの洋上風力発電産業は世界最大で、昨年にはヨークシャー沖に世界最大の単一の洋上風力発電所が完成している。
木質ペレット
その一方で、イギリス最大の電力会社ドラックスは再生可能エネルギーの活用に向けて、別の道を進んできた。
ドラックスもヨークシャーに発電所を構えている。そこではイギリスの電力の5%をまかなっている。
ドラックスは10年前はイギリスで最も大量の石炭を消費する存在だった。しかし最近では、圧縮された木質ペレットを使った発電に切り替えている。
「我々ドラックスは、石炭にはもはや未来はないと判断した」と、同社のウィル・ガーディナー最高経営責任者(CEO)は説明する。
「これは大規模事業だった。その結果、年間2000万トン以上だった二酸化炭素(CO2)排出量をほぼゼロにまで削減することができた」
ガーディナー氏によると同発電所では現在、年間700万トンのペレットをアメリカの商業用森林から調達しており、同社は2021年3月までに完全に石炭を廃止するという。
石炭以外も減少
再生可能エネルギーによって影を潜めつつあるのは石炭だけではない。
今年は今のところ、再生可能エネルギーによる発電量はすべての化石燃料を合わせた発電量を上回っている。
その内訳はというと、イギリスの電力供給のうち37%は再生可能エネルギーが、化石燃料が35%を占めていた。
イギリスの気候科学情報サイト「カーボン・ブリーフ」のデータによると、原子力発電が約18%、輸入電力が残りの10%を占めていた。
「今年は今のところ再生可能エネルギーの発電量が化石燃料を上回っている。こんなことは、これまでなかった」と、カーボン・ブリーフのサイモン・エヴァンス博士は言う。
「ガス発電も減少している。2020年中に再生可能エネルギーが化石燃料全体を追い抜く可能性は大いにある」
今年の背景を示すデータを見てみると、どれほどあっという間に状況が逆転したのかがわかる。
再生可能エネルギーによる発電量が化石燃料を初めて上回ったのは、2016年12月だった。
今年以前は、再生可能資源を使った複合発電が化石燃料の発電量を上回った日数は、計154日だった。
カーボン・ブリーフは、このうち91日は2019年のことだったとしている。
化石燃料全般、とりわけ石炭の役割の低下は今後も続きそうだ。
イギリス国内に残る石炭火力発電所3カ所は、5年以内に閉鎖される予定だ。実現すれば、2世紀近く前にここイギリスで産業革命に火をつけた燃料は、過去のものとなる。