カリフォルニアでターボ、フィンランドで4S。ポルシェ初のEV「タイカン」に乗った
いかにもポルシェならではのプロポーション
ポルシェ初の量販ピュアEVである、2019年に発表された「タイカン」。それは、自身の歴史に新たな1ページを加える社運を賭けた存在であることを、ことさらにアピールするかのように、歴代「911」が生み出されてきたのと同じ創業地での生産にこだわったことも話題の最新ポルシェ車だ。
実は、ポルシェ車の中でも「カイエン」を筆頭に「マカン」や「パナメーラ」といった4ドアモデルが生産されているのは、旧東独地域であるライプチヒに位置する、このブランドにとっての第2の工場。一方タイカンは、911や「ボクスター」「ケイマン」などの生産で手狭となっていた本社地区を、区間整理まで行なうことでスペースを捻出した後に新設された、ドイツ南西部はシュトゥットガルト郊外の工場で行なわれる。
結果、このモデルは911やボクスター/ケイマンという2ドアモデル以外では、唯一この地で生産されるポルシェ車ということに。そうした点も、「2022年までに60億ユーロを超える投資を行なう」という発表と共に、このブランドの電動化に対する本気度の高さを示すストーリーの1つと紹介していいはずだ。日本の道を走り始めるのはまだしばらく先になると目されるそんなタイカンを、ひと足先にテストドライブした。
舞台は冬でも陽光が眩しいアメリカはカリフォルニアの地と、夏の白夜とは逆に冬になると日中でもほんの数時間しか空が白むことのないフィンランド北極圏内という2か所。アメリカでは「ターボ」グレードを街中やフリーウェイ、ワインディング・ロードなどで。フィンランドでは追加設定された「4S」グレードで、雪上/氷上路面をチェック走行することとなった。
新型「タイカン」では「ターボS」「ターボ」「4S」の3種類のグレードを設定し、アメリカでターボグレードを、フィンランドで4Sグレードに試乗した。4Sのボディサイズは4963×1966×1379mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2900mm。最高出力は390kW(530PS)とし、航続可能距離は333~407km。なお、ターボは500kW(680PS)、ターボSは560kW(761PS)というスペックタイカン 4Sのエクステリア。ポルシェの伝統的なワイドフェンダー、抑揚のあるボンネットなど、ひと目でポルシェと分かるデザインを採用した。マトリックスビームを内蔵する4灯式LEDヘッドライトなどを備えるほか、フロントフェンダーに充電口を用意標準採用されるホイールのサイズ/デザインやブレーキキャリパーの色、さらにはボディ細部への挿し色の違いなどから、見た目上からもある程度は識別が可能なタイカンのグレード。
とはいえ、そもそもグレード間での見栄えの差は大きいものではなく、しかも数多く用意されたオプションの選択次第では、そうした識別点もたちまちオブラートに包み隠されてしまう。いずれにしても、間違いなく言えるのはそれがいかにもポルシェならではのプロポーションの持ち主で、かつ昨今のサルーンとしては「際立って低い」という印象だ。
剛性の高さと軽さを両立させるべく、冷間/熱間プレスされたスチールやアルミニウムなど、さまざまなマテリアルを適材適所で採り入れながら構築された新開発の4ドアボディには、昨今のピュアEVでは常套手段でもある「駆動用バッテリーは床下に敷き詰める」というレイアウトが採用されている。
ただし、ポルシェが「フライライン」と呼ぶ911 クーペ由来の強い後ろ下がりのルーフデザインを後席の豊かな居住空間と両立させるため、リアシートに座る人の足下部分にはバッテリーを配置せず、「フットガレージ」と名付けられた空間を確保しているのは他車では見られない特徴だ。
インテリアでは初代911に通じるデザインを採用するとともに、ホリゾンタルなデザインを強調させ、インパネをドライバー中心にレイアウト高い走りのパフォーマンスをイメージさせるターボ/ターボSと名付けられた上位2グレード用には、93.4kWhという特に大容量の駆動用バッテリーを搭載。一方で、それから2か月ほど遅れて追加設定された4Sグレードには、ターボ/ターボS用と同様のアイテムが「パフォーマンス・バッテリープラス」という名前でオプション設定されると共に、79.2kWh容量と小振りのアイテムを「パフォーマンス・バッテリー」として標準搭載する。
さらに、ポルシェが「新たなエントリーモデル」という表現で紹介するこの4Sでは、同じ4WDシャシーの持ち主でありながら後輪用モーターがデ・チューンされているのもハードウェア上の特徴。245mmという有効径は同様ながら、有効長を210mmから130mmへと短縮することで軽量・コンパクト化が図られているのだ。