スーパー全体を安心が包み込む ショーケースと室内機から空気が変わる
<この記事を要約すると>
生活に直結する空間であるスーパー。だからこそ、その環境は利用者にとっても、そこで働く従業員にとっても安心・安全なものでなければならない。生活協同組合コープやまぐちが2021年2月にリニューアルオープンした店舗では、「ナノイー X」を店内に全面配置してニューノーマルを見据えた環境づくりに正面から向き合った。今後のスーパー業界にとってもヒントが詰まった好事例を、当事者の言葉から明らかにしていく。
特需に浮かれず、ニューノーマルへの適応をめざす
外出自粛を余儀なくされたコロナ禍の中で、ライフラインとしての存在感を高めた食品スーパー。内食増加による巣ごもり需要も重なり、総売上が前年を超えたスーパーも多い。
中でも、宅配と店舗を2本柱とする生活協同組合(生協)はその傾向が顕著だ。日本生活協同組合連合会の資料によれば、全国65主要地域の生協は2021年2月度まで13カ月連続で宅配、店舗ともに供給高(売上高)が前年を超過。2021年度に入り徐々に特需は落ち着きを見せているものの、個人宅への宅配を中心に堅調さを維持している。
主要地域生協の2020年度供給高 (=売上高) 前年比推移※下記資料を元に作成https://jccu.coop/info/up_item/release_210421_01_01.pdf山口県全域をカバーするコープやまぐちでも、2020年度は過去最高益を記録した。供給高(=売上高)は228億5300万円で前年比113.6%、経常利益は9億6800万円で前年から約2.5倍へと急伸。2020年3月末時点の組合員数は21万3684人で、山口県内の世帯数に対して35.6%が加入するまでになった。
事業に追い風が吹いた1年だったが、今後はニューノーマルを見据えた活動に軸足を移さねばならない。コロナ関連のみならず、人口減少や高齢化の加速、買い物弱者の増加といった課題も山積しているからだ。そこでコープやまぐちでは、10年先の展望を「2030ビジョン」としてまとめた。「生涯にわたる心豊かなくらし」「安心してくらし続けられる地域社会」「より多くの人がつながる生協」など5つの方針を定め、ビジョンに沿った取り組みを推進していく。
そうした中、山口県宇部市にある「コープここと 宇部店」(以下、宇部店)では2021年初めに店内の全面改装を実施。同年2月26日にリニューアルオープンした。さらにリニューアルにあわせてパナソニック独自のクリーンテクノロジー「ナノイー X」搭載のショーケースと空調の室内機を日本で初めてスーパーとして採用し、組合員や従業員に対して安心・安全な空間を提供している。これもまた、2030ビジョンに即した新たなチャレンジと言える。
「コープここと 宇部店」外観店舗全体を「ナノイー X」で包んでしまうような今回のプロジェクト。改装を主導した開発担当者、そして現場管理に携わったパナソニック担当者は、日本初の偉業をいかにして成し遂げたのか。快適な環境と食の安心を追求する取り組みについて話を聞いた。
徹底した安心空間の提供で競合と差別化
山口県宇部市は県下第3の都市で、大手化学メーカー、宇部興産の企業城下町として知られる。宇部店は車が頻繁に往来する生活道路のそばに位置する、典型的な地方のロードサイド店舗である。
「コープここと 宇部店」内観この場所に新規開店した1997年当時は競合も少なかったが、近年は周辺に大型スーパーやドラッグストアが進出。地域密着型のスーパーが撤退するなど競争が激化していた。コープタウン開発 開発部長 松本敏男氏は「スーパー自体も飽和状態にあり、食品を取り扱うドラッグストアも増えてきた中で競争を勝ち抜くためには、リニューアルによるテコ入れが必要だと考えました」と語る。
コープタウン開発株式会社開発部長松本 敏男 氏もともと中期計画ではリニューアルは2021年度に予定されていたが、結果的に1年前倒しとなった。その理由を、生活協同組合コープやまぐち 開発企画担当マネジャー 佐崎晃秀氏は次のように話す。
「これまでも小規模な改装はありましたが、1カ月以上休業して店内全体を改装したのは初めて。新型コロナで来店客が増加し、従来の動線を見直す機運が高まったことに加え、エアコンやショーケースの不具合なども踏まえて一気に全面改装することにしたのです」(佐崎氏)
生活協同組合コープやまぐち開発企画担当マネジャー佐崎 晃秀 氏「ナノイー X」を採用しようと思ったきっかけは、スーパーが密になりやすい状況が続いたことが大きい。「清潔な空間を提供することで、足を運んでいただく安心材料の1つになれば」との思いから導入に踏み切った。
「当初は店内の空調機だけに搭載する予定でした。しかし、直前でショーケースにも搭載可能と提案いただき、ぜひにとお願いしました」(松本氏)
松本氏は、競合には負けないコープこことの特色を「青果・鮮魚・精肉といった生鮮食品の充実」と分析する。店舗を訪れた組合員から「野菜コーナーは畑、水産コーナーは市場のようだ」と言われたこともある。鮮魚売り場には近郊の漁港で水揚げされた丸魚や刺し身がずらりと並び、野菜や青果、肉も新鮮なものばかりだ。取材陣が訪問した際も、朝9時の開店直後から近隣住民が数多く来店し、食材を吟味する姿があちこちで見られた。
コープこことの精肉コーナー、鮮魚コーナーそれゆえ、松本氏はショーケースへの「ナノイー X」搭載による菌の繁殖抑制効果にも期待を寄せる。「ナノイー X」は様々な物質に反応しやすいOHラジカル(高反応成分)を含む微粒子イオンで、OHラジカルがニオイや菌に付着して脱臭・除菌などの効果をもたらす。「菌の抑制で『ナノイー X』の効果を最大限活かせるのであれば、それも他店との差別化につながります」と松本氏は言う。
パナソニック産機システムズが業界初となる「ナノイー X」搭載のスーパーショーケースの受注発売を開始したのは2020年10月30日のこと。1963年から培ってきた同社の冷凍・冷蔵ショーケースのノウハウを活かし、昨今の衛生意識の高まりを受けて開発した。
コープこことの日配コーナー、惣菜コーナーリニューアルした店内には、売り場とバックヤードに「ナノイー X」を標準搭載した室内機が18台、青果、鮮魚、精肉、日配(牛乳など)、惣菜コーナーほかに「ナノイー X」搭載のショーケースを配置。「ナノイー X」発生装置はショーケース下部に設置され、冷気とともに「ナノイー X」を庫内で循環させている。現場管理を担当したパナソニック産機システムズの稲田正憲氏は、宇部店での取り組みをこう振り返る。
「今回は『ナノイー X』搭載スーパーショーケースを採用した日本初の事例です。それがモチベーションになったことは間違いありません。松本様、佐崎様ともに『ナノイー X』に興味を持たれてチャレンジしていただいたことに感謝しています」(稲田氏)
パナソニック産機システムズ株式会社中四国支店山口営業所所長稲田 正憲 氏「世の中の認知度向上が後押し」