なぜ撤退した「G'zOne」が復活したのか KDDIとカシオに聞く「G'zOne TYPE-XX」誕生秘話

2月27日(日)8時5分 ITmedia Mobile

なぜ撤退した「G'zOne」が復活したのか KDDIとカシオに聞く「G'zOne TYPE-XX」誕生秘話

「G'zOne TYPE-XX」

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 G'zOneケータイが、熱いファンの声を受けて復活を果たした。G'zOneブランド20周年記念モデルの4G LTEケータイ「G'zOne TYPE-XX」が2021年12月10日にauから発売された。 G'zOne TYPE-XXでは、KDDI、カシオ計算機、京セラの3社がコラボレーション。携帯電話製造から撤退したカシオがデザインを担当し、京セラが製造するという異例の体制で開発された。その仕掛け人となったKDDIの企画担当者近藤隆行氏と、カシオ計算機のデザイナー井戸透記氏に開発秘話を聞いた。●カシオとしてもタフネスケータイを続けたかった—— 今回の「G'zOne TYPE-XX」では、カシオは2013年末に携帯電話事業から撤退して以来のG'zOneブランドの復活となりましたね。井戸氏 まずはこのインタビューの場をお借りして、カシオのユーザーさんにおわび申し上げます。私はカシオでデザイナーとして、携帯電話の初号機モデル「C303CA」からほぼ全てのモデルのデザインディレクションに携わっていました。 2013年のカシオの携帯事業撤退は、ユーザーさんにとっては唐突に思われた方も多いかと思います。シェアの少ない一メーカーが撤退しただけといえばそれまでですが、2000年の初号機モデル「G'zOne C303CA」以来、熱いファンを大切にするという思いで、製品開発に熱意を持って取り組んでいました。カシオの参入当時は日本メーカーのケータイが全盛期でした。カシオは最後発で参入しただけに、存在意義を問われる立場でもあったのです。 タフネスケータイのG'zOneはまさにカシオらしさを突き詰めたモデルですし、他にもデジカメメーカーとしての知見を生かしたEXILIMケータイだったり、普及期に対しても「Heart Craft」というコンセプトで、今でいうジェンダーレス・エージレスといった価値観を取り入れていたりと、少数かもしれないけど、コアなファンが多いんですね。カシオの携帯には。 そんなカシオが撤退したときに、ユーザーさんは「次の機種変更はどうしようか」と困られていた方もいらっしゃったようです。特に、G'zOneは仕事で使われる方も多かったので、本当に申し訳ないことをしたなぁと思っていました。 その後、近藤さんが京セラさんと新しいタフネスシリーズのTORQUEを出すようになりました。個人的な心情としては、カシオのタフネスケータイを続けたかったというのはもちろんありますが、救っていただけたとも思っています。—— 一度スマホから撤退したブランドを、他のメーカーの製造で復活させるというのは、なかなかチャレンジングな取り組みだったのではないでしょうか。製品化に至った背景をお聞かせください。近藤氏 製品化のきっかけは、お客さまの声でした。KDDIでは製品展開の参考として、お客さまへのアンケートやグループインタビューで声を聞くというのは常に検討しているのですが、最近では「フィーチャーフォンのラインアップが少ない」というご指摘を多くいただいていました。 スマホシフトが進む世の中ですが、われわれとしてはフィーチャーフォンも継続提供していますが、とにかく多くのお客さまが手に取っていただけるように、特徴が薄い、一般的なモデルが多くなっているラインアップ構成になってきていました。お客さまから、「ラインアップがつまらない」「昔のようにもっととがったフィーチャーフォンが欲しい」といったお声や、さらには「フィーチャーフォンをないがしろにしているのではないか」といった厳しいお声もいただいておりました。●G'zOneユーザーの98%が次もG'zOneを希望—— auでは特に3G時代に多種多様な携帯電話を投入していますが、今回、G'zOneブランドに白羽の矢を立てたのはなぜでしょうか。近藤氏 おっしゃる通り、KDDIではau design Projectを始めとして、デザインにこだわったケータイの製品化を続けてきました。カシオさんですとEXILIMケータイのような他のブランドもありますが、G'zOneに限っては特別な事情がありました。 auでは継続的なユーザー調査を実施していまして、その一環として、ユーザーさんが次に買い換えたい機種のリサーチも行っています。そうした調査を分析する過程で、興味深い結果が浮かびあがりました。現在G'zOneシリーズのフィーチャーフォンをご利用中のユーザーは、次も「同じメーカー、同じブランド」を希望される方が非常に多かったのです。「G'zOne TYPE-XX」の発売直前のデータでは、実に98%もの方が「次もG'zOne」を希望されていました。—— auではタフネスモデルの選択肢として、京セラ製の「TORQUE」シリーズを継続的に販売しています。2018年にはフィーチャーフォン型の「TORQUE X01」も投入していますが、あえてG'zOneブランドを復活させたのはなぜでしょうか。近藤氏 そうですね。タフネスモデルというカテゴリーはauとして、G'zOneの撤退後も京セラのTORQUEブランドに引き継ぐ形で投入し続けておりまして、過去にG'zOneシリーズを使われていた方からも一定数はTORQUEシリーズへ移行していただいております。 その一方で、フィーチャーフォンタイプのG'zOneは、コアなカシオファンが多くいらっしゃいまして、3G時代のフィーチャーフォンを長年に渡ってお使いいただいています。 以前の機種をお使いの方でも「G'zOneを3G停波まで使いたい」というお客さまもいらっしゃいますし、中にはタフネスモデルにもかかわらず「何かあったときのためにG'zOne TYPE-Xの予備を持っています」とおっしゃるユーザーもいらっしゃいました。 そしてauでは2022年3月に、他社に先行して3Gサービスを停波する予定となっています。つまり、3G時代のG'zOneケータイは利用できなくなる状況ですが、現にお使いいただいている熱いG'zOneファンの方がいらっしゃいます。その待望にauとしてもお答えしたという思いがあり、カシオさんの門をたたきました。—— 2021年12月の発売前後には大きな話題を集めました。発売後の手応えはいかがでしょうか。また、どのような方が購入されているのでしょうか。近藤氏 2020年8月に発売をアナウンスした段階から多くの反響をいただいています。実際に購入されたというお声も多くいただきました。購入者は40代、50代で、男性が圧倒的に多いですね。やはりG'zOneが20周年ということで、20年前を知っている方となると、それなりに上の世代になりますね。—— スマホ時代にフィーチャーフォンを単独で使っている人も減っていると思うのですが、それでも求める声があるのでしょうか。近藤氏 そうですね。もちろん、スマートフォンとの2台持ちの方もいらっしゃいますが、私がインタビューさせていただいた中では、「ノートPCとフィーチャーフォン」という2台持ちの方もかなりいらっしゃいました。そういった使い方をする方は情報感度も高く、インターネット上の情報収集、発信はノートPCを使われている。それでも、連絡を取り合うときはフィーチャーフォンが一番ということで、フィーチャーフォンを好まれているようです。 また、ボタン形状のケータイを好まれる方には、お仕事で使われている方も多くいらっしゃいます。農作業や水産業のような現場仕事に従事されている方からは「やっぱりボタンタイプがいいんだよね」とご好評をいただいています。●「むちゃ振り」でコンセプトデザインは2カ月で開発—— auがG'zOneのデザイン制作をカシオに打診したのはいつ頃でしょうか。近藤氏 私が井戸さんのところに久々に訪問したのは、2017年の年末でした。ただ、そのときは「復活版のG'zOneモデルを作りたい」という正式な提案をもっていったわけでもなく、ちょっとモヤモヤっと現状をお伝えしただけでした。 その後、年明けて2018年初にカシオさんに最初の試作機デザインを作っていただきました。ただ、そのタイミングでも商品化はもちろん、京セラさんが製造するといった体制が決まっていたわけでもなく、まずは「もし、今のデザインでG'zOneを作ったらどうなるのでしょうか」というテーマで、外観のデザインモックを作っていただきました。—— そのとき、カシオとしてはどのように受け止めたのでしょうか。井戸氏 カシオとしては携帯電話事業から一度撤退した立場で、G'zOneのユーザーさんもTORQUEへ移行していただく流れができていたので、役割は終えたのなと思っていました。 しかし、近藤さんから数万人G'zOneに残っているという現状を聞きまして、それは何とかしてあげたいなと思い、デザイン制作に関わることになりました。2018年の前半には、コンセプトデザインを制作して、KDDIさんにお渡ししました。—— 2018年時点のコンセプトデザインも洗練されていて、製品版と遜色ないデザインに見えますね。近藤氏 パッと見ても、背面のサークルディスプレイがG'zOneらしい象徴的なアイコンになっているのがお分かりになるかと思います。G'zOneの初号機にあたる「C303CA」をモチーフとした丸形のテンキーを採用すうなど、細部にわたってG'zOneらしさをデザインに盛り込んでいただいたので、20周年記念としてふさわしい仕上がりになっていると思います。井戸氏 実はこのとき、ひどい話で「2カ月で作ってください」というオーダーだったんです(笑)。近藤氏 あのときは失礼いたしました(笑)。最初のデザインモックは2018年初頭に、TORQUEケータイをお渡しして、同じようなサイズ感のデザインモックを作っていただきました。当初は製品化というよりも、調査用の参考として実物大のモックアップを出して、ユーザーさんの興味を知りたいという意図で作っていただきました。 こういった製品デザインはポッと出てくるものではなく、コンセプトの策定からアイデアの検討まですごく時間を使うものだと分かってはいたのですが、われわれの調査計画ありきで、かなりのむちゃ振りをしていただくことになりました……(笑)。井戸氏 一般的にこういったデザインモックを作る場合、外観のデザインだけを図面上で作るだけで2カ月はかかるので、形にするまでに最低でも3カ月はかけて作るものですが、断ってしまったら終わりなので特急仕上げて作ることになりました。—— なぜ2カ月で形にできたのでしょうか。井戸氏 むちゃ振りに対応できたのは、実はカシオの社内でケータイのデザインを継続していたからなんです。ケータイに再参入したいという意図ではなく、携帯電話はデザインの良い教材だったからです。 携帯電話って、複合的な要素を詰め込んだ“こってりとした”プロダクトデザインで、新人デザインナーの通過儀礼として非常に適しているんです。特に最近のデザイントレンドはシンプル・ミニマム路線なので、美大卒の若い人もなかなかこういうデザインができる人がいないんです。伝統芸能ではないですが、カシオにはG-SHOCKもあるので、こういうデザインは絶やしちゃいけないんですよね。 結果的に携帯電話のデザインを続けていたことで、引き出しの中のネタがたまっていて、近藤さんの要望にも対応できたというわけです。●「モノの力」で京セラを口説く—— 今回、設計・製造は京セラが担当していますが、どの時点から加わったのでしょうか。近藤氏 2018年末〜2019年初のあたりだったと思います。当初、カシオさんにコンセプトモデルのデザインを作っていただいたものの、あくまでコールドモックを作っただけで、商品化まではKDDIの社内的な合意も含めて何段階かのハードルがありました。2018年は、デザインモックを元にリサーチを積み重ねて商品化の可能性を探る年でした。 まずはメーカーさんへのお声がけということで、私としては、もちろん最初から、TORQUEシリーズを作っていただいている京セラさんに技術力からもご参加いただけると良いと思っていたのですが、違う課題もありまして……。—— 京セラさんの反応はいかがでしょうか。 当然といえば当然ですが「今もTORQUEシリーズがあるのに、なぜG'zOneを作らなければならないんだ」とご意見いただきますよね。スマートフォンをTORQUEシリーズからG'zOneシリーズに戻したいということでは全くありませんとご説明しても、すんなりとはご納得いただけませんでした。京セラさんに関わっていただくためにいろんなデータを見ていただいて、かなり上層部の方までご説明に伺って、何とかご賛同をいただきました。—— 口説き落としたのですね。近藤氏 実はG'zOne TYPE-XXには「裏テーマ」があります。「TORQUEを食わず嫌いしている方にこそ使っていただきたい」という思いです。 auではカシオさんの撤退後もタフネスモデルの後継機としてTORQUEシリーズを投入しつづけていまして、一定数のユーザーはTORQUEに移行していただきました。 それでもG'zOneをお使い続けていただいているファンの方々も、まだいらっしゃいます。私もG-SHOCKを愛用しているので「タフネスといえばカシオ」というファンの方々の思い入れには共感するところも多分にあります。イメージだけではなく、実際にカシオさんのタフネス設計に対する技術力の高さがあったからこそ、20年前からタフネスケータイを作れたのだとも思っています。 一方で、企画担当者の立場としてはやはり「どうしてTORQUEを使っていただけないんだろう」という葛藤がありました。今回の「デザインはカシオ、中身は京セラ」というG'zOne TYPE-XXをきっかけとして、京セラさんのタフネスモデルにも使っていただきたい、というのが私の中で裏テーマとするところでした。井戸氏 今回、カシオは外観のデザインとグラフィックを中心に関わっていまして、製造は京セラさんなので、ある意味、「中身はTORQUE」ともいえるんですよね。 それにカシオがデザインしてG'zOneという名前をつけていいのかという話はあるのですが、ユーザーさんの声を聞くと「カシオのG'zOneのデザインのファン」の方が多く、TORQUEは食わず嫌いという方もいらっしゃったようでした。TORQUE×G'zOne×auという3社のコラボモデルをお届けすることで、京セラのタフネスケータイの良さも知っていただけるのではないかと期待しています。—— 開発に当たって、京セラの設計チームの反応はどうでしょうか。井戸氏 実は、京セラの中でも設計チームの皆さんには、かなり前向きに取り組んでいただきました。 「モノの力」というのでしょうか。モックアップを手に取って「作りたい」という思いになられたようです。カシオの方からも細かい部分でかなりの注文を入れさせていただいたのですが、ちょっとびっくりするくらい丁寧にご対応いただきました。モックアップを作ってから製品化までに長い時間があったので、かなり時間をかけてデザインを練り直すことができました。近藤氏 今だからこっそり言うと、京セラさんとはビジネス交渉をしている段階、つまり製造・開発で参加すると決まる前から、ちょっとフライング的に事前検討を進めていただいていました。 京セラさんの設計部署の方からは「この企画はぜひやりたいので、他社には持ち込まないでください」とおっしゃっていただきました。時間をかけて練りあげたからこそ、モックアップとかなり近い形で製品化まで行き着いたのでしょうね。●京セラとのタッグでデザインを改良—— 京セラとのやりとりの中で、磨き上げていったのですね近藤氏 コンセプトデザインにはなかった形状の変更や機能を追加もありました。京セラの設計チームと密に連携してデアインしました。 例えば、前面の「プロテクター」と呼ぶ6箇所の突起を付けています。これを付けることで、落下した際に金属の部品に直接衝撃が伝わらず、ダメージが与えられないようになっています。井戸氏 これは京セラさんから「サブ液晶の上にさらに高い場所に、別の部品を付けてほしい」というリクエストがあり、カシオ側でデザインを改良した部分です。見た目を損ねずにブラッシュアップさせるのはなかなか難しい試みでした。近藤氏 また、背面にはダクト風に空気が抜けるデザインにしていますが、ここも京セラの設計チームに頑張ってもらったところです。実はこのダクト、単なるダミーではなく、空気の通り穴として機能しています。ダクトの奥には気温計用の温度センサーが入っていて、外気温を表示できるようになっています。井戸氏  G'zOneシリーズはモータースポーツをモチーフとしていますが、ここはスポーツカーのミッドシップエンジンのようなイメージでこのダクトを付けました。このデザインを見た京セラの設計の方から「このダクトを何かに使えないでしょうか」と提案をいただきまして、改良した部分になります。 他にも、背面の円形ディスプレイのリングに時計のインデックスのような刻みを付けたり、随所に三次曲線を取り入れ、滑らかな形状にしたりと、量産設計に移行する前の段階で時間があったもので、細かい部分でいじり倒しています。—— サブ液晶に時計やコンパスを表示できるのはG'zOneらしいところですね。近藤氏 サブディスプレイではG'zOneとして初めて完全な円形のディスプレイを搭載しています。背面には時計やコンパス、気圧、高度などの情報を表示できます。井戸氏  ディスプレイを照らすように通知LEDを仕込んでいまして、充電時や着信時に光ります。暗い中で見るとカッコイイんですよね。—— テンキーは丸形で押す時に指が迷わない印象を受けました。近藤氏 今回、初号機「303CA」のエッセンスを取り入れて、丸型のキーを採用しています。隣のキーと誤操作しづらく、軍手をつけていても押しやすいという、タフネスモデルにすごく向いているデザインになりました。井戸氏  丸形のキーを単純に配置すると、見た目がパラパラとばらけてしまうような印象になってしまいます。そこで、各キーにキリッとエッジを効かせて、見た目の凝縮感を出すようにしています。 こういうデザインは以前からやりたかったのですが、当時のカシオの設計ではできなかったんです。G'zOne TYPE-Xの頃は、防水エリアを確保するためにキーピッチを狭める必要がありました。京セラさんの設計は、キーピッチが広く、デザインのしがいがある素材でした。●ソリッドブラックには「12色の黒」を使い分け—— カラーバリエーションは「リキッドグリーン」と「ソリッドブラック」の2色ですね井戸氏 グリーン系色の「リキッドグリーン」は、10年前の「G'zOne TYPE-X」を継承する色として、カシオから強く要望して、カラーラインアップに追加しました。この外装の緑色は発色が難しい色でした。10年間の技術の進化によって、ようやくこの明るい色が実現できるようになりました。 旧世代のG'zOne TYPE-Xでは緑がかったシルバーに薄い緑色にコーティングしているのですが、今回のTYPE-XXでは、薄い緑色の生地に2種類のパール塗装を重ね合わせて、光が透き通るような緑色にしています。下地に使っている生地の改良が進んで、良く発色するようになったために、この色味を実現できました。近藤氏 もう1色は「ソリッドブラック」です。タフネス系ではやはり黒も根強い人気がありまして、定番としてやはり入れておきたい、と選びました。井戸氏 見た目のインパクトはグリーンですが、人によっては使っているうちに飽きてしまうかもしれません。飽きが来ない定番色として黒は捨てがたいですね。 ただし、普通の黒を作っても面白くないので、今回のソリッドブラックはかなりのこだわりを詰め込んでいます。外装のパネルで使っている黒塗料は色選定の担当者に言わせると「日本で初めて使う塗料」だそうで、細かな粒子が入っていて、さらっとした手触りに仕上がっています。差し色にはカッパー(銅色)を入れて、ただ単に黒に沈めず、ラグジュアリーな雰囲気を出しています。 よく見ていただくと、黒は黒でも光沢の黒があり、シボの黒があり、ザラザラの黒がありと、パーツによって質感が違うのが分かると思います。実はソリッドブラックでは、「黒」と名の付く色を12色も使い分けているんです。デザインを磨きあげる時間はたっぷりあったので、こだわりました。 これまでのG'zOneでは、黒系色を使うのはせいぜい3〜4色ですから、12色も黒を使うのはほぼ前例がないと思います。京セラの設計担当の方も「ここまで使い分けるのか」と驚いていました(笑)。近藤氏 つやの見せ方などを変えるために黒を使い分けるというのはよくある使い方ですが、12パターンの黒を使うというのは異例ですね……。—— 真ん中のリングが引き立つような黒使いになっていますね。近藤氏 黒としての塊感もあるのですが、立体感もきちんと感じられますし。井戸氏 ただの真っ黒じゃないんですよね。—— G'zOneシリーズではグリーンと並んで赤色も印象的なカラーですが、今回のラインアップでは含まれていませんね。井戸氏 そうですね。「なぜ赤がないのか」というお声もかなりいただきました。 ここでちょっとした小ネタをお話すると、実は、この外装のパネルはただのカウル、つまり装飾部品なんです。この外装を引っぺがしても、防水性能もタフネス性能も確保されています。あくまで自己責任でと前置きしますが、カスタムの腕のある方は、パネルを外してお好みの色に塗装するような楽しみ方もできるかもしれません。ぱっと見、ビス留めしているように見えますが、このビスは装飾ビスで、実際には接着剤で止めつけられていますが、パネルを外すときに力を入れると割れてしまうこともあるので、気を付けて作業してください。近藤氏 ただし、塗り替えは製品保証の対象外となりますし、auとしては推奨しませんので、ご容赦ください。●卓上ホルダは伝統の縦型を採用、3台を購入したユーザーも—— 周辺機器も充実していますね。井戸氏 近藤さんはこういうアクセサリーにこだわんですよね。ネックストラップ1つとっても、さりげなくG'zOneロゴがあしらわれていて、工夫を凝らしています。近藤氏 オプションでは、交換用のバッテリーや、2Wayストラップ、卓上ホルダを用意しています。2Wayストラップはカラビナを付けてかばんやベルトに装着したり、ネックストラップとして首から提げたりできます。付属のストラップケースには予備の電池やイヤフォン、イヤフォンジャック用アダプターを収納して持ち歩けるようになっています。—— 卓上ホルダは縦置きできるタイプですね。井戸氏 実はこれ、卓上ホルダに挿すと、充電LEDが見えにくいんですよ。これ、私のせいです……(一同笑)。近藤氏 G'zOneシリーズの卓上ホルダは、斜めに置くタイプでしたね。井戸氏 今回のモデルを製造した京セラが展開するTORQUEケータイでは、横置き型の卓上ホルダを採用していました。今回、カシオから「縦置きで状態で充電できるようにしたい」と要望して、このホルダを開発しましたが、G'zOne TYPE-XXがTORQUEケータイと同様に横に充電端子を備えていたのがネックとなったのです。 側面の充電端子をそのままにして、垂直に立たせる設計にしてしまったため、サブ液晶を下向きに照らす通知LEDの表示が見づらくなってしまいました。デザイン設計者としては修正するべき点でしたが、見逃してしまいました。この場をお借りしてユーザー様にはおわびさせていただきます。近藤氏 卓上ホルダを縦型にしたこと自体は、ユーザーからも「G'zOneらしいよね」と好評をいただいています。中には3つもお買い上げいただいたという方もいらっしゃいました。自宅用、職場用に加えて、クルマのドリンクホルダーに挿して使われているそうです。井戸氏 ホルダ自体の幅がやや太くなってしまったのも、本来なら直したかったところです。当初の試作した卓上ホルダはお餅をつく臼のように太かったので、これでもかなりスリム化していますが、側面の充電端子をそのままに卓上ホルダを設計したため、どうしても太くなってしまいました。●「あのペンギン」も特別出演—— アプリの方はカシオで選定されているのですか。井戸氏 カシオが関わった部分は外観のデザインの部分が中心で、アプリやUI(ユーザーインタフェース)に関しては、一部のグラフィックのみ提供しています。Outdoor Appsをはじめとした各種機能は京セラの「TORQUE X01」に準じたものとなっています。 10年前のG'zOne TYPE-Xでは「G'zOne Gear」というツールアプリを搭載していましたが、いかんせんカシオは携帯電話製造から撤退していますので、当時のものをそのまま搭載するわけにもいきません。ただし、京セラのOutdoor Appsも気温やコンパスのサブ表示などに対応しておりますので、ある程度のG'zOneユーザーさんの用途に答えられているかなと。—— グラフィックではカシオは、どのような部分で関わっていますか。井戸氏 壁紙はG'zOneのテーマであるモータースポーツをモチーフとしたものなど、10数枚を収録しています。この他にも主要なアプリでグラフィックデザインを提供しています。—— ストップウォッチに「あのペンギン」がいますが、どういった経緯で入ることになったのでしょうか。井戸氏 カシオのペンギンですね。近藤さんの趣味です(笑)。 本来は2005年発売の「A5512CA」のデザインコンセプトだった「ハート・クラフト」から生まれたキャラクターで、正式な名称はありませんが、「カシペン」と呼ばれて愛されていました。G'zOneシリーズとは関係ないキャラクターですが、近藤さんたっての希望もあり「特別出演」してもらいました。近藤氏 全面的には出さず、「隠れキャラ」的な位置付けにしています。ストップウォッチ以外にも出てくる場面があるので、探してみてください。●スマホが主流の市場で開発に難航—— 開発期間について確認させてください。2018年初に最初のデザインを作って、発売は2021年12月と、ずいぶん間がありますね。井戸氏 カシオとしての作業は、製品開発の最初と最後の期間に凝縮されています。最初2カ月にぎゅっとデザインコンセプトを詰めて、その後長い間京セラの設計チームと一緒とともに、機能の作り込みなどをじっくりと進めていました。 その後しばらくはKDDIとのやりとりがなく、量産化をしないものかと思っていました。2020年に入って、首をひねっていたところ、2020年初に製品化が決定して、最後のグラフィック制作を一気に進めて、製品化といった流れです。—— G'zOneの20周年は2020年でしたから、20周年を過ぎてしまったということですね。近藤氏 ユーザーにはお待たせして、大変申し訳ありませんでした。2020年の時点でKDDIとしてはまったく毛色の違う課題に直面しており、量産化をためらいました……。スマートフォン時代ならではの難しさとして「プラットフォーム選定」の課題があります。プラットフォームとは、チップセットとOSを組み合せた、携帯電話の基盤となるパッケージです。 チップセットはスマートフォンが主流となって以降、長期間に渡り安定供給される製品がかなり限られる状況となってきています。一方で、OSにもバージョンごとにデバイス開発向けのサポート期間が設定されており、この組み合わせがプラットフォーム選定を困難にしていました。 Androidスマートフォンであれば、毎年のように最新のチップセットが入手でき、OSバージョンアップもそのチップセットに合わせた構成にできます。一方で、ケータイ型端末、つまりフィーチャーフォンでは「長く使えること」も価値であるため、製品の発売後に、どのくらい安定供給できるかも重要な点となっています。となると、必然的に選べるチップセットとOSの組み合わせは限定されています。 もともとG'zOne TYPE-XXの発売目標としていた2020年はちょうどKDDIの現行フィーチャーフォン向けのプラットフォームの端境期にあたり、新しいチップセットとOSの組み合わせを選定する必要がありました。その当時の現行機種と同じプラットフォームで発売すると、チップセットの供給が途絶えてしまう可能性がありました。一方で当時、長期間に渡る供給が見込めるチップセットを選んでいたら、対応するOSのサポート期間が短くなってしまうとジレンマがありました。 一時期はKDDI社内で、ケータイ端末そのものを作れなくなるのではないかという議論にもなっており、G'zOne TYPE-XXだけでなく、「GRATINA」や「かんたんケータイ」のような製品も終了せざるを得ないのかという状況にありました。 プラットフォーム選定に関する課題の検討に1年以上を要してしまい、その間はカシオさん、京セラさんにはお待ちいただくことになってしまいました。—— その課題が解決したのが2021年ということですね。近藤氏 はい。デザインもメーカーも決定したところで、プラットフォーム選定という新たな課題が生じてしまったのが、発売が遅れた要因でした。2020年末にようやく最適なプラットフォームを設計できる見通しが立ち、2022年3月の3G停波のタイミングにあわせて、開発を加速化させました。G'zOne TYPE-XX で採用したOSとチップセットの組み合わせは、今後長期間、安定して供給する体制としてはベストな組み合わせだと考えています。●カシオが携帯事業に再参入する考えはない—— auでは2022年3月に3Gが停波し、しばらくは4G LTEメインのネットワークになります。今後は5Gへの移行も進んでいく中で、折りたたみ型ケータイはどのように続けていくのか、お考えをお聞かせください。近藤氏 フィーチャーフォンの5G化などで、具体的に決定している方針はありません。現段階では、採用しているディスプレイサイズやチップセットの組み合わせから、4G LTEケータイとして設計するのがベストだと判断しています。ただし、今後のネットワークの進化や部品調達の状況によっては、5G化の可能性もゼロではありません。井戸氏 5Gはかなり高機能になってきますから、仮に現在調達できる部品で構成すると、10万円を超えるような価格になってしまうかもしれません。少数でもフィーチャーフォンを欲しいという方はいらっしゃるとは思いますが、10万円超の価格でビジネスとして成り立つかというと、難しいでしょう。—— カシオは約9年ぶりでG'zOneブランドを復活していますが、携帯電話とどう関わっていきたいか、今後の方針はありますか。井戸氏 カシオとして、携帯電話事業に再参入するという考えは全くありません。今回のG'zOne TYPE-XXもあくまで「京セラ製」で、カシオは商標許諾と製品デザインという立場で参加しています。ただし、もし、G'zOneが非常に好評で予想以上に売れて、第2弾のデザインをお願いされたら、それはお受けするかもしれません。—— カシオのスマートウォッチやTORQUEと連携するといったコラボレーションの可能性があると面白いと思うのですが、今後の方針はありますか。井戸氏 実現すると面白いですよね。現時点ではカシオとして具体的に決まっていることはありません。とはいえ、今回のG'zOne TYPE-XXをきっかけとして、KDDIさんや京セラさんとのいろいろなコラボレーションへと発展していく可能性もないとはいえません。いろいろな夢がこの機種で広がりましたよね。近藤氏 お願いしたKDDIの側の人間ですが、異例のコラボレーションだったと思いますね。—— G'zOne TYPE-XXの開発に当たっての興味深いお話をいただき、ありがとうございました。「モノの力」という言葉が強く印象に残りました。最後に、開発を終えての実感を改めてお聞かせください。井戸氏 モノの力で集結したのは、カシオのデザインチームや京セラの設計チームだけではないんです。 今回、コロナ禍という事情もあったのですが、携帯部品メーカーも国内メーカーの部品を多く使っています。中には既に携帯電話向け部品から撤退していた会社が、数年ぶりに再登板してこの製品のために起こしていただいた部品もあります。いろんな技術者の方が「ぜひこのモックアップを形にしてみたい」と塗料を作ってもらったり、金属を加工してもらったり。塗料、成形、加工メーカーといろいろなところからベテラン技術者が再結集して、G'zOne TYPE-XXを作り上げました。近藤氏 国産の折りたたみケータイが主流だった3G時代は、国内でもボタンやヒンジのようなパーツを作れるメーカーさんがたくさん存在しましたが、スマホシフトが進んだ現代では、部品メーカーさんも携帯電話向けの製造から撤退していたり、そもそもメーカーさん自体が無くなっていたりするような状況となっています。 折りたたみ機構やサブ液晶もある折りたたみケータイは、部品点数で言えばスマートフォンよりも圧倒的に多く、複雑な構成の製品です。こうしたデザインを形にして、モノを作りきるという点では、困難な時代に入ってきたなと、製品化を通して実感させられました。

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