ソニー「wena 3」ってどんなスマートウォッチ? 開発者に聞いてきた
wena 3開発チームのメンバー。左から、電気設計の小川恵太氏、商品企画の對馬哲平氏、機械設計の松永健太朗氏
誕生から5周年を迎えたwena
筆者のまわりには、自分の健康状態をチェックしたり、あるいはジョギングなど身体を動かすアクティビティを始めるために、スマートウォッチを初めて購入したという人が増えています。
wena 3の作り手である對馬氏も、スマートウォッチが一段と注目されていることを実感するそうです。「スマホに届いた通知やメッセージを手元ですばやく見られるショートカット的な使い方も、スマートウォッチの魅力としてとらえているユーザーが多いのでは」と對馬氏は話します。
2015年にソニーのクラウドファンディング「First Flight」で産声を上げた「wena wrist」は、5年目の2020年に第3世代へと進化を遂げました。初代機は、ペアリングしたスマホから通知を受ける、電子マネー(FeliCa)、活動ログ、この3つを柱としていました。最新モデルのwena 3は、待望のSuica対応のほか、視認性の高い大画面タッチディスプレイを搭載しています。
筆者もwena 3の実機を借りてSuicaの使い勝手を試してみました。Suicaの発券とチャージはiOS・Android対応の「wena 3」アプリで実行。Suicaの残高は、wena 3に搭載する有機ELタッチディスプレイにも表示されます。ボタンを押してSuicaを起動したり、前準備をしなくてもバンドをICリーダーにかざすだけで駅の改札を通過したり、買い物の支払いがすばやくできます。
おサイフケータイ対応電子マネーサービスを使う場合、wena 3もほかのwena端末と同様に、「おサイフリンク」アプリを使って電子マネーサービスの初期設定をするために、iOS端末が必要になります。現状(2020年12月上旬時点)、おサイフリンクアプリがiOS版のみ提供されているため、Android端末だけでは、wena 3で電子マネー機能を設定できないので注意が必要です。
ただし、iOS端末でおサイフリンクの初期設定を済ませて、wena 3アプリ(iOS版・Android版あり)のPayment設定と連結すれば、以降はAndroid端末でもwenaの電子マネー機能が利用できるようになります。
メタル・レザー・ラバー、それぞれのマテリアルやデザインへのこだわり
wena 3のデザインやマテリアルへのこだわりについて、機械設計担当の松永氏に聞きました。
「誰でも手首に自然なフィット感が得られるように、形状を緩やかにカーブさせています。タッチディスプレイのカバーガラスには耐衝撃性能の高いゴリラガラスを使っていますが、これも20を超える工程を重ねて少しずつ曲げています」(松永氏)と、途方もない手間をかけてこの独特なデザインのwena 3を完成させた経緯を振り返ります。
wena 3は通常使用で約1週間のバッテリー持ちを実現しています。さらに予備電力で約24時間も動くので、バッテリーが切れた後もSuicaで改札を通ったり、買い物の電子決算にも使えます。松永氏はwena 3に大容量のバッテリーセルを載せるため、さまざまな工夫を凝らしたと説明を続けます。
「2018年に発売したwena wrist activeというモデルでは、長い本体の中央にバッテリーセルを配置して、両側に基板を分ける特殊な構造にしています。wena 3は本体が湾曲しているので、形状に合わせてバッテリーをカスタマイズしました。メインモジュールは第2世代のwena wristよりも小型化しつつ、バッテリー容量は2倍に増えています」(松永氏)
メタルバンドは、腕に密着させて心拍を正確に測れるようにコマを小さくしました。ラバーバンドのエンドピースコネクタには、手首に装着したまま腕時計のヘッドを着脱できるスナップ機構が設けられています。
レザーバンドはヘッドを取り付けやすいように、バックルの留め位置を決めてから余ったバンドを後ろに折り返して手首に固定するスタイルとしました。ブラックとブラウンの2色ともに、18mmから24mmまで2mm刻みで4種類のサイズを用意。女性もスタイリッシュにwena 3を着こなせそうです。
活動ログから生活ログへ。毎日wenaを身に着けると見えてくるもの
wena 3の本体には加速度センサーがあり、緑色・赤色LEDで構成されるデュアル光学式心拍センサーも搭載しています。血流に加えて筋肉の動きもとらえる緑色LEDのデータから、筋肉の動きだけをキャッチする赤色LEDのデータを「引き算」することによって、正確に血流を把握。精度の高い心拍数データを取得します。
心拍数データを元に睡眠サイクルやVO2 Max(最大酸素摂取量)の測定、およびストレスレベルとその日のエネルギー残量の推定など、健康的な生活を送るためのライフログを記録できます。ヘルスケアデバイスとしてwena 3を身に着けるのもアリでしょう。
ただし、取得したデータの分析や評価、コーチングの機能は設けていません。ユーザーが参照すべき情報が過多になると、活動ログとしての利便性が損なわれてしまうからです。wena 3が取得する活動ログは、ソニーのR&Dチームが独自に開発したアルゴリズムをベースにしています。小川氏によると、wenaの新製品(世代)ごとにアルゴリズムの少しずつチューニングしているそうです。
「wena wrist activeの活動ログはどちらかというと、運動を伴うアクティビティを記録するためのものでした。wena 3はユーザーの皆さまに、運動していなくても日常使いの中で得られる活動ログも役立ててもらえるよう、機能を作り込んでいます。
スマートウォッチは長く使い込むほど、普段の自然な自分の活動ログによって、コンディションが可視化されます。自身の健康状態などを把握できるようになり、wenaを長く身に着けたくなるという良い循環が生まれます」(小川氏)
對馬氏は今後、wenaに本格的なトレーニング記録機能を追加したいとも話しています。たとえば、メタルバンドは常に肌身離さず身に着けるには少し重いので、運動中には別のスマートバンドやスポーツ系スマートウォッチを着用して、wena 3で取得した活動ログをiOSの「ヘルスケア」アプリやAndroidの「Google Fit」アプリに集約できる機能などを、アップデートで追加することを計画しているそうです。
大型タッチディスプレイの操作性も快調。Amazon Alexaのボイスコントロールにも対応
ユーザーが必要とする機能にすばやくアクセスできるように、wena 3は視認性の高い大型有機ELディスプレイを備えています。画面は上下左右方向にスワイプする操作で、タッチ操作の感度は良好。モノクロの画面表示は明るさを自動で調節できる機能もあります。
また、カーブした形状のディスプレイでも表示が見やすいように、wena 3専用のフォントが制作されました。「操作性を高めることには徹底してこだわり抜きました」(對馬氏)
ホーム画面には、ユーザーがよく使う3つの機能を選んで配置できます。側面の電源ボタンは、ダブルクリックと長押しの操作に機能を割り当て可能。こうしたカスタマイズ設定はwena 3アプリから行います。
wena 3はまた、Amazon Alexaの音声操作に対応するスマートウォッチです。ウェイクワードを発声する代わりに、電源ボタンを長押ししてAlexaを呼び出してから、きょうの天気を聞いたり、単語の外国語翻訳などに使えます。wena 3本体に内蔵するマイクのレスポンスも悪くなく、手首を近づけて小声でAlexaを操作できるので、より積極的に使いたくなってきます。
wena 3は多機能なスマートウォッチですが、ユーザーがアプリを自由に追加できる仕様とはしていません。對馬氏は、スマートウォッチとはひたすら多機能ならばよいというものではないと考えているからと理由を語ります。
「スマートウォッチはいつも手首に装着されていて、ポケットやバッグから取り出さなければならないスマホよりも、ショートカット的な機動力が優れていることがひとつの魅力だとすれば、載せる機能をできる限りシンプルにして、ショートカットしながらアクセスできることも大切」(對馬氏)
時計メーカーとのコラボも加速
wena 3の発売に合わせて、インダストリアルデザイナーの山中俊治氏、イタリアのカーデザイナーであるGiugiaro Architettura氏がデザインを手がけたウォッチヘッドも登場します。加えて、時計メーカーとのコラボレーションにも多様性が生まれることを對馬氏は期待しています。
時計メーカーにとってwena 3とのコラボレーションは、スマートウォッチと周辺サービスを自社で開発する負担が軽くなることが大きなメリット。ヘッド部分の拡販やブランド認知の向上といった利点もあるでしょう。
ソニーとしては時計メーカーと組むことによって、wenaのモジュールを搭載する多彩なスマートウォッチを世に送り出せます。現在はwenaのモジュールと関連アプリ、カスタマーサポート、サーバーをソニーが提供する形になっていますが、アプリやサーバーは時計メーカーが開発したものを使うというスタイルも有り得るそうです。
その一例として、シチズンが提供するIoTプラットフォームの「Riiiver(リィイバー)」に、2021年夏ごろをめどにwena 3が対応する計画が発表されています。Riiiverのプラットフォームからトリガーを起動して、wena 3に対応するQrioロック(スマートロック)を動かしたり、wena 3を搭載するスマートウォッチからRiiiverのサービスにアクセスしたりすることも可能になり、それぞれのプラットフォームに広がりが生まれます。
對馬氏は「wena対応の腕時計から、既存のアナログ腕時計とスマートウォッチのどちらにもない体験をユーザーに届けたい」と意気込みを語ります。「衣服や靴、メガネのように腕時計も他人と違う個性的なものを身に着けたいという欲求に、これから多くの時計メーカーと連携しながら応えていくこと」がwena開発チームの目指すところだと、對馬氏、松永氏、小川氏は口をそろえます。発売後もwena 3の進化からは目が離せません。
著者 : 山本敦
やまもとあつしジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。
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