CAが出会ったコミュ力の 高い乗客の共通点、 何気ない会話に宿る「品位」とは

 「会話」といっても、相手が初対面なのか何度も会ったことのある人なのか、近い関係なのかそれほどでもないのかなど、相手との関係性で選ぶ言葉も話す話題も異なります。

 プライベートで親しい友人と会話するときはいいのですが、ビジネス上のオフィシャルな場面においてまず大切なのは、相手がどんな間柄であろうと基本的には丁寧語を使うことです。

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 よくありがちなのが、相手の興味を引こうと、極端に砕けた言葉遣いをする人が見受けられます。その場の緊張はほぐれるかもしれませんが、相手によっては無礼で失礼な人と受け取られてしまうことがあります。特に初対面の相手に第一印象でそのような印象を持たれてしまうと、その印象を払拭するのはとても困難です。それだけで、ビジネスパーソンとしての品位が失われてしまうことになりかねません。まずは、普段の言葉遣いを見直してみましょう。

 言葉遣いが丁寧だと、初対面で「この人、苦手!」と思われる確率は下がります。最初に持たれた悪い印象はビジネスにとって悪影響でしかありません。

 基本的なことを言えば、「うん」や「ええ」ではなく、「はい」と返事をすること。そして、きちんと「です」「ます」で話すなど丁寧な言葉遣いを徹底することが重要です。

 丁寧な言葉遣いはビジネスマナーの一つ。これは、他者への思いやりだけではなく、自分の身を守る術でもあります。言葉遣いに気をつけるだけで、一気に品位ある人に感じられますし、こんなに簡単にできるマナーはありません。

 さらに、会話は「始まり」が肝心です。商談やプレゼンの始まり、また普段の会話においても「アイスブレーク」という手法がしばしば使われます。これは用件を唐突に話し始めるのではなく、世間話のような軽い話題から本題に入っていき、お互いの緊張をほぐし次に続く会話をスムーズに進めるという基本のビジネススキルです。

 私がJALの国際線でチーフパーサーをしていた頃、機内でビジネスクラスの通路を歩いているときにお客様に呼び止められ、唐突に話しかけられたことがあります。

「きみ、チーフなの? 随分若いね~。何年飛んでるの?どこ出身? 旦那さんパイロット?……」

 唐突に話しかけられただけでなく、立て板に水のごとく、質問攻め。今のご時世であれば、かなりきわどい内容です。

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 ご本人は全く悪気はなく、ただ楽しく会話を交わしているだけの認識だと思うのですが、これでは会話を楽しむどころか、相手に嫌悪感と不信感をいだかせることになります。私もこのときばかりは、「随分なれなれしい人だなあ。近づかないようにしよう」と思ったほどです。

 親しみやすさとなれなれしさを履き違えたコミュニケーションは、相手を不快にさせてしまうのです。

CAが出会ったコミュ力の
高い乗客の共通点、
何気ない会話に宿る「品位」とは

 これは極端なケースかもしれませんが、このようなやりとりは、普段の生活の中でも見受けられることがあります。一方的に自分の聞きたいことだけを矢継ぎ早に質問する人、またその逆で、自分の話したいことだけを一方的に話し、すべての話題を自分に振り向け、相手に口を挟ませない人…。本人は気が付いていないのでしょうが、これでは会話をする相手はうんざりしてしまいます。

 会話は、一人で成立するものではありません。相手と言葉を投げ合い、双方向のやりとりが適切にできて初めて成立するのです。

 よくキャッチボールに例えられますが、キャッチボールは初球から相手を目がけて、いきなり超速球は投げません。相手が受け取りやすいよう加減をして投げ始め、お互いが慣れてきたころに、変化球や少し相手が取りにくいようなボールを投げて楽しむものです。

 会話も、いきなり言葉の直球を投げてしまうと、相手は戸惑い、時に心を閉ざしてしまいます。アイスブレークはいわば会話を始める前の、ウオーミングアップなのです。緊張をほぐすだけでなく、たわいのない世間話や時候の挨拶などで相手の気持ちを探り、コミュニケーションを円滑に進めるための円滑油でもあります。

 飛行中はさまざまなお客様と会話をする機会があります。特に国際線の長距離フライトでは、時間を持て余すお客様とつい話し込んでしまうこともあります。今やファーストクラスだけでなく全クラス、座席には個人用テレビが装着されエンターテインメントは充実しているのですが、CAとの会話を楽しみたいお客様は意外と多いのです。

 会話の上手なお客様には、ある共通点があります。それは、会話の「始まり」と「終わり」がスマートなことです。

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 まず、話しかけるタイミングです。ビジネスシーンに限っていえば、相手の状況をおもんばかり、話しかけてもいいかどうかを見極めたり、「今、話しかけてもいいですか?」と直接確認することができるかどうかで相手の印象が変わります。

 機内で話が弾むお客様も、こちらの状況に配慮したタイミングで話しかけられる方が多いのです。「今、ちょっといいですか?」。この言葉があるだけで相手も唐突感を感じることなく、快く会話に応じることができます。

 そして、話を切り上げるタイミングも重要です。友達同士であれば、時間を気にせず心ゆくまで話し込むのは楽しいことなのですが、ビジネスにおいては、注意が必要です。

 話の内容にもよりますが、会話が弾み、つい長話になってしまうようなときでも、相手の様子を察し、適度に話を切り上げることです。会話中、相手がそわそわしだしたり、時計を気にするようなそぶりを見せ始めると、退屈で話が長いという相手からのメッセージです。いつまでもダラダラ話し続けるのではなく、「お引き留めして申し訳ございません」や「話が長くなってしまいました」と相手に伝え、タイミングよく切り上げるのがスマートです。

 このように会話の「始まり」と「終わり」を意識するだけで、相手の立場を尊重した礼儀正しい人という印象を与えることができるのです。

「会話」は人間関係の基本です。プライベートでもビジネスシーンでも、言葉一つで、人を癒やしたり、元気づけたりすることができます。その一方で、心ない言葉で人を深く傷つけたりすることもできます。

 言葉を丁寧に扱う「会話」からは、信頼が生まれ、コミュニケーションはうまくいくものです。まずは、相手に「この人と話していると心地よい」と思ってもらうことが大事です。それが積み重なっていくと、「この人が言うのだったら間違いない」「この人の言うことなら素直に聞ける」という信頼に変わっていきます。

「会話力」を磨くというと、話す内容や話し方のテクニックばかりを気にしてしまいがちですが、会話のタイミングや丁寧な言葉でやりとりをするという「言葉のキャッチボール」を意識するだけで相手に好印象を与えることができます。相手が心地いいと思う「会話力」は、高いコミュニケーションスキルなのです。

※この記事は2021年7月6日に公開されたものです。Related Stories「落日の小池百合子」は国政に向かう、都民ファ“健闘”でも前途多難ひろゆき氏の電話不要論に大賛成、電話は「不愉快で不適切」な5つの理由まん防の「飲食3つの制限」を即刻解除せよ、根拠も責任もぐずぐずの日本
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