ニュース おしっこの音をスマートウォッチで録音し、排尿障害を診断 スペインの研究チームが開発
取得した音はスマートウォッチからPCに無線で転送する
スペインのデウスト大学とスペインのOsakidetza Cruces University Hospitalの研究チームが開発した「UroSound: A Smartwatch-based Platform to Perform Non-Intrusive Sound-based Uroflowmetry」は、患者が自宅で音による尿流量測定を行うための非侵襲プラットフォームだ。【画像】UroSoundアプリのユーザーインタフェース 排せつ物が便器内にたまる水に衝突する際に発生する音をスマートウォッチの内臓マイクで記録することで、尿流量測定を行う。排尿量や排尿時間、中断回数など、日夜問わず家や外出先で24時間の計測を可能とし、排尿障害(下部尿路機能障害)の診断や治療、病態生理を判断する上でより有用で客観的な情報を得ることができる。 加齢と共に急に尿意をもよおしたり、何度もトイレに行きたくなったりする過活動膀胱を発症する人は多い。このような排尿障害の診断方法の一つに、尿流動態検査がある。排尿しているときの状態を観察し、この時の膀胱の機能状態などを調べ、診断や治療に役立てるものだ。 尿流パターンや排尿スピード、排尿時間、排尿量などを評価パラメーターとし、前立腺肥大、過活動膀胱、尿失禁、神経因性膀胱などの程度を客観的に示すことができる。 しかし、この検査は簡易便器などで構成する特殊な検査器を必要とするため、本人が病院やクリニックに出向き検査器に向かって排尿しなければならない。患者の状況的なストレスが流量に影響するため、検査ごとに大きなばらつきが生じることも知られている。 ストレスなく気軽に家で計測する代替アプローチとして、音を利用した尿流測定が考えられる。これは尿流が便器内の水位に達したときに発生する音を捉えることで、尿流パターンの特徴を明らかにするというものだ。 検査器をトイレへ設置する方法やスマートフォンの音響システムで捉える方法などが考えられるが、前者は携帯性に欠け外では計測できず、後者はスマートフォンをポケットから出して持ちながら測定しなければならない。どれも最適な方法とはいえないだろう。 今回はこの課題に対し、常に患者に装着している状態で放尿時の近くにあるスマートウォッチを採用した。スマートウォッチはポケットから出す必要もなく、家でも外出先でも昼夜問わず楽に収録できるからだ。 提案するプラットフォームは、スマートウォッチを使って排せつ時の音を録音する開発したUroSoundアプリケーションと、録音した音響信号から排尿パラメーターを抽出するための処理システムで構成する。取得した音声ファイルは、Wi-Fi経由でUroSoundアプリからリモートのWebサーバにワイヤレスで転送して、信号を処理して特徴を抽出する。排尿以外の音はノイズになるため、深層学習モデルを使って分類し無音にしている。 抽出する情報は、排尿時間や排尿量、中断回数、尿流音量の変化曲線などになる。既存の尿流動態検査による細かい単位での詳細な計測は難しいが、日中と夜間の両方で排尿形状の変化を検出し分析が行えるなどメリットも多い。 この研究では、異なる市販のスマートウォッチ(Suunto 7、Fossil Gen 5E、Oppo、TicWatch C2+、TicWatch E、AppleWatch Series 5)のオーディオ機能を比較した。その結果、スマートウォッチで音による尿流測定を行うには、振幅のキャリブレーションに誤差が生じないように、一定の音量になるように音声を自動調整する「AGC機能」を導入していないスマートウォッチを選択する必要があると分かった。 実験では、Oppo社製のスマートウォッチを3日間使用し評価した。AGC機能を搭載していないこと、バッテリー持ちが良く低価格なことがOppo社製のスマートウォッチを選択した理由だ。着用者は、スマートウォッチへのボタンやタッチ操作でUroSoundアプリを制御し、録音や停止、保存、削除といった一連のタスクを実行する。 試験開始前に充電を100%にし、72時間の録音を終えた後には電池残量が30%に達していた。この状況で、1日に平均6回、それぞれ40秒の排せつの収録に成功。提案する処理システムで収集した音から関連する排尿パラメーターを抽出することにも成功した。 このテストで録音した音声ファイルは22MBのストレージを必要とし、市販のスマートウォッチの総ストレージ容量よりも大幅に少ないものとなった。これらの結果は、Oppo社製のスマートウォッチにおいて、充電なしに3日連続で放尿音を収録し、抽出した排尿パラメーターからデータ化できることを実証した。研究チームは、排尿障害などの評価にスマートウォッチを使用することで、特に泌尿器科専門医へのアクセスが困難な農村部や開発途上国において、時間と資源の無駄を省き、より個別化した効果的なヘルスケアを自宅で実現できる遠隔医療の可能性につながることを望んでいる。Source and Image Credits: L. Arjona, L. Enrique Diez, A. Bahillo Martinez and A. Arruza Echevarria, “UroSound: A Smartwatch-based Platform to Perform Non-Intrusive Sound-based Uroflowmetry,” in IEEE Journal of Biomedical and Health Informatics, doi: 10.1109/JBHI.2022.3140590. ※テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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