これからの脱炭素・電動化、日本の道筋…ReVisionモビリティサミットで識者が語る

「ReVisionモビリティサミット モビリティの未来像を見据え、ビジネス最適解を探る」が3月2日、開催された。初日の基調講演は、各界から識者3名がそれぞれの講演を行い、最後にパネルディスカッションを行った。

◆電動化技術が面白くなってきた

基調講演に先立ち、国際自動車ジャーナリスト 清水和夫氏がカーボンニュートラルに関する課題と道筋、企業の方向性を示すプレゼンテーションがあった。清水氏はパネルディスカッションのモデレータも務め、基調講演全体を差配した。

清水氏は、自身の周辺の動きとして、年明けから国内各社によるBEV、PHEV、HEVの試乗走行会が相次ぎ、メーカーの取り組みが、技術面だけでなくドライビングプレジャーにも寄ってきたと感想を述べる。低重心、モーターダイナミクスは走行性能や雪道などでの制御にも長けている。たとえば同じスタッドレスタイヤでも、エンジン車とモーター車ではトルクの掛け方が非常に細かく可能なため、スタッドレスのサイプの能力を最適化しやすいという。電動化は車両技術としてもおもしろい時代に入ったとする。

しかし、モーターダイナミクスも万能ではないとも釘を刺す。とくにバッテリーに関する課題はまだあるので、当面はPHEVがトータルでゼロエミッションの近道だとも述べた。エンジンについては、さらに先の技術として水素やe-Fuelの可能性を指摘した。

◆上空・低空・地上:自動車産業はどこでどう戦うか?

次に登壇したのは、早稲田大学の藤本隆宏教授。「2020年代の自動車産業:上空・低空・地上の3層モデルからCASE進化、CO2削減への道筋を描く」と題し、業界が目指す道筋のひとつを提案した。

藤本氏の主張は、客観的なデータの積み上げだと、各国、各社が提唱している2030年前後のカーボンニュートラルの目標数値は、EVだけでは達成しえないということが前提となる。そのため、各国、あるいは世界は総力戦でこれにあたる必要があるとする。では、国内自動車産業はどうすればいいだろうか。藤本氏は現在のグローバル経済を「上空」「低空」「地上」の3層にわけて、それぞれの戦略を展開した。

藤本氏は「日本の製造業は局地戦で負けておりこの30年成長していない。だが、依然として110兆円規模の市場価値を持つ国であり、勝ってはいないが負けてもいない」状況だとする。世界では、GAFAと呼ばれるような企業が市場、経済を握っている。彼らはモジュラー型経済を実践している。プラットフォームの上にビジネスや市場、技術をモジュールのように構成するビジネスだ。日本は市場や技術を「すり合わせ」によって製品やサービスとして統合する「インテグラル型」だとする。

現在モジュラー型で成功しているのは米国と中国だ。3層でいう「上空」に相当する。付加価値の多くはクラウドやサイバー上にあり、重みのない世界ともいえる。しかし、それは同時にビジネスの制空権を押さえることにもなっている。日本の強みはインテグラル型にある。いまからプラットフォームを構築するのは現実的ではないので、すり合わせを活かした技術、製品で「低空」「地上」でのビジネスを展開する。「地上」は既存の製造業ビジネスだ。高度な設計、高い生産性、緻密な工程管理による品質や信頼性の世界。「低空」はリアルな製造業とIoT、クラウドを結びつけた「サイバーフィジカル」の世界とする。Indutory 4.0はここに相当する。

地上戦を得意とする日本は、今後どうすべきか。藤本氏は次のように指摘する。

「地上戦略は、スマート工場などでサイバーフィジカルによって、変量、変種、変流の生産能力を強化することが重要。低空戦略では、製品を売りっぱなしにしないデータ活用、上空戦略では、低空・地上で強化した付加価値を差別化要素としてプラットフォーマーに自社標準・製品を売り込むこと」

各階層をプロダクツやサービスで分類すると、次世代パワートレイン、ECU、組み込みソフトは地上戦略となり、自動運転は地上から上空まで幅広く対応する戦略が必要となる。インフォテインメントとモビリティサービスは上空となる。

◆戦略の要はPHEVだが軽自動車はEV

2番目は三菱自動車執行役員EV・パワートレイン技術開発本部の白河暁本部長が、世界的なカーボンニュートラルにおける同社のPHEV戦略を語った。

白河氏は「CO2削減はいますぐ対応しなければならない問題」とし、各国の動向からカーボンニュートラル車両の必要性を解く。三菱自動車は国内で最初にリチウムイオン電池による量産乗用車を開発・発売したメーカーだ。その知見を活かし、この問題に取り組むが、LCAと同社がターゲットとする市場エリアのエネルギー事情を考えるとEVはまだ課題が多いという認識だ。

次世代パワートレインをHEV、PHEV、EV、FCVとする。これらが抱える課題をCO2排出量、航続距離、給油(充電)時間、コストの4つに絞るとする。HEVはCO2排出量で他3種にかなわないものの、それ以外の課題はこの中でほぼクリアされている。しかし、世界的な趨勢は中長期でエンジン(内燃機関または化石燃料)の廃止に向かっている。

これからの脱炭素・電動化、日本の道筋…ReVisionモビリティサミットで識者が語る

三菱自動車が出した答えは「当面はPHEVが国内、東南アジアにおける最適解」という結論だ。LCAを含む環境問題は、各国、各地域のエネルギー事情、政策にも深くかかわる問題だ。たとえば、火力発電の多い中国(日本も)ではEVのメリットが活かしきれない。PHEVを現状の解としたのは、これらの事情の将来的な変化も見据えての判断とする。

しかし、最終的に目指すのはBEVであるとする。バッテリーコストや市場などの問題がありながらも、小型車、軽自動車については物理的なボディサイズからPHEVを経由した進化は難しいとの予想もしている。

EV化が進むと、同社のS-AWCというヨーモーメントのアクティブ制御技術の性能をさらに高めることができるという。すでにモーター駆動型のPHEVに採用されているが、制御スピードはエンジンの10倍、精度(解像度)は2~5倍になり、きめ細かい制御が可能だとする。

また電動車のバッテリーは保冷車の電源、V2Lといった付加価値もつけられるとする。同社ではすでにコロナワクチンの輸送車に電動車を投入している。V2Lのアウトレットを利用すれば、災害時の電源や、呼吸器や医療機器の電源としても利用可能。電動車のメリットを強調した。

◆2030年が戦略切り替えの屈曲点

3番目は住商アビーム自動車総合研究所の大森真也代表取締役社長の「カーボンニュートラル時代のモビリティビジネス戦略」だ。

大森氏は世界のカーボンニュートラル戦略をタイムラインで分析する。今から2030年までの戦略と2030年から2050年までの戦略を2段階で考えるやり方だ。ビジネスの攻め口を考えるとき、2030年がひとつの屈曲点となり、戦略も大きく変わる可能性があるからだ。そのため、現在、次の10年の戦略に加え、2030年以降の戦略も重要となってくる。

「現段階は電動化とシステム化のフェーズであり、2030年以降はクリーン化と価値創出のフェーズにある」といい、とくに第2フェーズではエネルギーのクリーン化、水素技術など未確立のイノベーションがキーファクターとなるとする。ここでは、テクノロジーのイノベーションだけでなく、人々の行動変容が必要になってくるとした。

その上で、電動化、システム化、クリーン化、価値創造という4つの象限に分けてそれぞれを解説する。

まず、電動化では、カーボンニュートラルにBEVは必須の技術とするが、新車販売が増え続けても、既存車両の置き換えは2030年では終わらないことは明白だ。BEVを増やす努力は必要だが、カーボンニュートラル目標達成にはBEV以外の手当も必要とする。

システム化はその鍵を握る。モビリティシステムの発達は移動の効率化、資源の節約にもつながる。CASEに代表される車両技術の進化、シェアリングなどによる移動や所有概念の変化との合わせ技でCO2削減を複合的に目指す必要がある。当然新車BEVだけではなく既存車やHEV、PHEVなどの対応も必要となる。実現するにはコネクテッドは不可欠であり、マルチモーダルMaaS、循環型経済、DXといった変革が加速するはずだと予想する。

2030年以降はクリーン化と価値創造のフェーズだ。クリーン化はテクノロジーによるCO2削減も重要だが、水素など未確立の技術はハイリスクでもある。リスク分散のため、多くのステークホルダーを巻き込んだリスク分散とリターンの適正配分のしくみづくりも整備する必要があるとする。このような発想は、純粋な製造業からはでにくいものだ。

これを新しい価値へと転換する必要があるわけだが、これには制度を通じた転換と事業を通じた転換の2本建てで考える。IFRSがカーボン排出量の報告を義務付けるという動きがある。カーボンクレジットや排出権取引も新しい価値転換の例である。事業的には、効率化によるコスト削減、政策補助金、生産性向上、投資によるキャッシュフローの増大を狙う。

◆日本は正論で行動すればよい

パネルディスカッションでは、もデレタータの清水氏が、講演内容から「藤本氏はCO2対策は、目の前の火事を消すことが重要」という発言についての質問から始まった。

「EUなどのいう2050年の目標は2年後に火を消しますといっているようなもの。CO2削減は目の前で起きている火事を消化していく必要があるということ。積み重ねで削減していくしかないので、日本のように多様な技術での取り組みを国際的に合意形成していくことが重要と考える。彼らの戦略は、CO2削減という大義はあるものの、各論では各国の軍師が戦略を打ち立てているはず。もちろん各国が自国に有利なゲームチェンジを画策するのは当然だがが、日本は道理にあう行動と戦略をしていればいい。賛同する国はついてくる」(藤本氏)

これに対し白河氏は次のように応じた。

「LCAの議論でも国際的な定義はない。この状態では議論がただの言葉遊びになってしまう。自工会ではLCAの基準づくりも作業も行なっているが、基準があれば公平な評価ができるようになる」(白河氏)

強調領域と競争領域の議論では、清水氏が「SIPのレベル3自動運転では官民がうまく動けたが、競争で強くなった日本は、じつは協調領域が弱いのでは? 例えばドイツは、排出権取引に実車の排出データを計測して利用する動きがある」との疑問を投げかける。

「データ連携については、B2Cプロダクツに強い日本、その自動車はよりリーチポイントになり得る。日本車ブランドや信頼性を活かせばデータ活用が開けるのではないか。たしかに日本製造業は商売仇と組まない傾向があるが、プロレスのようにうまく立ち回るのもよいのではないか」(藤本氏)

「強調領域は大きなテーマ。社会課題に対して、リスク分担と公平なリターンのためのしくみづくりができれば、未確立領域のイノベーションやブレークスルーが進む。海外では大学との連携でうまくビジネスに繋げている」(大森氏)

◆構造改革とエネルギー問題に対峙する日本

清水氏が「日本は強いサプライチェーンを持っているが、ここの構造改革は必要か、改革は進むのか」という質問では、大森氏は「ソフトウェア領域が強くなり、ソフトウェアファーストが進んでいる実感はある」と答え、藤本氏は「BEVは上空よりのプロダクツだが、物理的な存在でもあり地上のすり合わせ技術は避けられない。この意味では、自動車はPCやスマホにはならないと思っています。それにBEVの有効需要を増やすには魅力的なBEVをどうやって作るかがポイントです」と述べた。

白河氏は「EVはEVなりの難しさがある。熱交換、バッテリーやモーターの温度管理だけでも内燃機関とは違ったアプローチが必要です。軽量化とあわせてEVに生かすべき基礎研究分野も多い」と補足した。

最後に会場からの「欧州エネルギーのガス依存は今後どうなるか?」という質問に対して、藤本氏は「当然変化に対応する必要がある。来年あたりに各国の本音がでてくるのではないか」と答えた。

カーボンニュートラルは共通の課題でだれも逃れることはできない。先が読めない状況で各国も厳しい選択を求められている。資源のない日本はさらに知恵を絞る必要がありそうだ。

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