トラッカー内蔵とは思えない薄さ「三井住友カードTile」徹底レビュー
エンガジェット読者のみなさま、はじめまして。スマートフォン関連製品の企画・開発・販売を行なっているトリニティ株式会社の星川 哲視と申します。
今回、三井住友カードTileの発表を見て、仕事上デジタルガジェット関連の最新技術に触れる機会が多い私から見ても群を抜いたその革新性と新しい体験に感動を覚え、数量限定での募集開始と共にすぐに申し込みをしました。(現在は応募を終了しています)
幸い抽選に当選し、普段は自社メディアでブログを書いているものの、今回特別に機会をいただきエンガジェットにて使用レビューをすることとなりました。本職のメディアライターではないため拙い文章ではありますが、よろしくお願いいたします。
本製品はエンガジェットでも発表時のニュースとして既報の通りです。下記は私がその後に書いたブログ記事です。すでにご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、改めてTileの説明から今回ご紹介する三井住友カードTileまで網羅した形で書いていきたいと思います。
落とし物を見つけるスマートトラッカーシステム「Tile」
Bluetoothとメッシュテクノロジーを駆使して身の回りのものを見つけることができるスマートトラッカーTile。世界中で独自のネットワークを構築しており、トップシェアを築いています。日本ではベンチャー企業のMAMORIO(マモリオ)や2021年にはAppleがAirTagとして同様の製品を展開しています。
Tileの基本的な機能はスマートフォンにインストールしたアプリ(iOS/Android対応)から、Tile本体を探すことができるもの。マップに位置情報が表示されたり、Bluetooth圏内の近くにいる場合にはTileを鳴らすことで場所を突き止めることができます。また、前述のMAMORIOやAirTagにはない機能として、Tileからスマートフォンを探すことができるのです。
スマートフォンとのBluetooth圏内から離れた場合には、Tile独自のメッシュネットワークにより、各種Tile製品やTile機能が内蔵されているヘッドフォンなどのプラットフォームパートナー製品と相互に通信をして位置情報を共有する仕組みです。最近ではタクシーや東京メトロなどと連携して、駅の落とし物窓口に届くとわかるようなアクセスポイントという取り組みも進めています。このようにTileが普及すればするほど見つけやすくなるという仕組みなので、ユーザーは使っているうちに落とし物を見つけることがどんどんと容易になっていきます。
アプリで簡単セットアップ
Tileアプリさえダウンロードすれば、ものの数分でセットアップが完了して使い始めることができますので、あまりテクノロジーに詳しくないという方でもまったく問題ありません。
三井住友カードTileが提供する「世界初」とは
さて、今回の三井住友カードTileはこれまでのスマートトラッカーとはまったく異なる特長があります。それはクレジットカードに Tile機能が内蔵されているということです。Tileも含めてカードタイプというのはいくつかありますが、本物のクレジットカードそのものであるということが「世界初」だということなのです。
三井住友カードは世界ブランドであるVISAの日本展開を行なっており、今回の三井住友カードTileはVISAカードとして使用できるクレジットカードです。クレジットカード自体の仕様は三井住友カードのウェブページを参照してください。
これまでは、クレジットカードを無くしてしまったり、クレジットカードの入った財布を無くしてしまったりした場合、不正使用されるだけでなく、再発行なども含めると大きな損失になっていましたが、Tile機能を内蔵することにより、見つけることができるようになります。(当然ですが、見つけることを保証するものではありません)
クレジットカードへのスマートトラッカー機能内蔵は、誰もが空想したことがあるでしょう。私自身も「そうなったら良いのに」と思っていましたが、実際には技術的な高いハードルがありました。
真のクレジットカードサイズを実現
クレジットカードにスマートトラッカー機能を内蔵させるための最大の困難は、そのサイズです。皆さんの手元にあるクレジットカードはすべて同じ規格で作られていて、どのブランドであってもサイズは同じです。
クレジットカードは53.98 x 85.60 x 0.76mm(縦 x 横 x 厚さ)以下という規格があります。特に問題なのがその1mm以下の厚み。世の中にはカードサイズをうたっている製品はあるものの、実際に0.76mmという厚みを実現しているスマートトラッカーはありません。
Tileの競合であるChipolo CARD spotという製品がCES 2022で発表されていましたが、縦横サイズは確かにクレジットカードと同等ながらも、厚みは2.4mmです。ちなみに、Tile自身も2022年10月にリリースしたカードタイプのSlim(2022)でも54 x 86 x 2.5mmとなっていますので、カードサイズと言っても真のクレジットカードサイズとは言えませんでした。
なお、AppleのAirTag は31.9 x 31.9 x 8.0mm。ボタン電池の交換式であるということもあり、かなり厚みがあるため、財布に入れるのはかなり困難です。
そんな中、三井住友カードTileは真のクレジットカードサイズを実現したのです。三井住友カードTileの公式ページでは「約54 x約86 x 約0.8mm」と表記されていますが、これは公差(製造上の許容範囲)が多少あるからだと思われます。
いずれにせよ、約0.8mmの厚みにTile機能とそれを駆動させるためのバッテリーが搭載されているというのは驚きとしか言いようがありません。それだけでなく、スピーカーまで内蔵されているので、他のTile製品と同様に音を鳴らして探すことができるのです。
真のクレジットカードサイズを実現するためには多くの技術的ハードルや、クレジットカードの発行元である三井住友カード、メーカーであるTile、それらを繋げたSB C&S社の不屈の情熱がなければ成し遂げられなかったものと思います。
Tile機能を内蔵しただけでなく、使い続けられる充電機能
クレジットカードにスマートトラッカーを内蔵するということ自体にも高い技術的ハードルがあるものの、さらに驚きなのは充電ができるということです。
そもそも非常に困難な仕組みであることから、Tile機能は提供するけれども充電することはできないということも選択肢としてはあったと思います。過去のTile製品でも同様の仕様がありましたので、世界初のクレジットカードにTile搭載というインパクトから考えると「今後の課題」としてもおかしくなかったと思いますが、開発された方々はそれを良しとしなかったのです。
それはこの三井住友カードTileを単に技術を見せびらかすというものではなく、ユーザーに新しい体験を与え、これまでとは違うデジタルライフを送ってもらおうという強い意志があるからだと想像します。
将来的にクレジットカードの有効期限(今回の場合でいえば2026年12月)になった場合の更新時に果たしてTile内蔵タイプを使い続けられるのかはわかりませんが、6か月程度使用できて、フル充電するとさらに6か月程度使えるということなので、これから約5年の間に10回ほど充電する機会があるかと思います。
小さくも大きなこだわりが感じられる充電器
小さいことではあるものの、同じくものづくりを生業としている身として、開発チームの大きなこだわりを感じられたのが、充電器のケーブル・コネクター収納構造です。
前述の通り、クレジットカードにTile機能を入れたというだけでなく、Tileの提供するフル機能を搭載し、なおかつ充電もできるようにしたことは、たかが充電器、されど充電器というように、そこにも開発チームはこだわりを込めたようです。
USBハブや各種アダプターを思い出していたければわかると思いますが、それぞれの目的としては達成しているのでケーブルの収納は考えられていないものばかりです。ただ、この三井住友カードTileの充電器はしっかりとケーブルとコネクターが収納できるのです。
残念なことに、USB Type-C原理主義者である私にとって、USB Standard-Aコネクターであるのは微妙かつ、私の持つMacBook Proでは充電できないのが気にはなるものの、それでもまだ市場の許容度はUSB Standard-Aの方が高いということもあって、ここは仕方がない選択肢であり、決して間違いではないと思います。
カードサイズでも妥協しないTile機能
それでは、実際に届いた三井住友カードTileを使ってTileの機能をチェックしていきましょう。前述の通り、クレジットカードサイズながらも元々Tileに備えている機能はすべて網羅されています。まずは基本的な機能についてはビデオで紹介してみましたのでご覧ください。
音を鳴らして三井住友カードTileを探す
スマートフォンにインストールしたアプリから、Bluetooth圏内であれば三井住友カードTileから音を出して場所を探すことができます。
Bluetooth圏内に三井住友カードTileがある場合には、その電波強度から距離を表示することができます。しかし、それだと最終的に探し出すまでに時間がかかります。家の中にはあるのだけれども、どこに行ったかわからないということは日常的によくある話です。そこで、スマートフォンから呼び出して音を鳴らすことで場所を明確に知らせてくれることができます。
動画を見ていただくとわかりますが、小さなサイズながらも大きな音が出るため、財布に入れていてもちゃんと音を聞き取ることができます。競合製品であるMAMORIOは音を鳴らすという機能自体がありません。AirTagは音が出るものの、かなり小さい印象です。そこから考えると、近くにあるけれども見つけるには三井住友カードTileは最適だといえます。
三井住友カードTileからスマートフォンを探す
スマートフォンから探すのとは逆に、三井住友カードTileからスマートフォンの音を鳴らして見つけることができます。
スマートフォンを呼び出す機能は競合2製品にはありません。Tileの他の製品では鍵やバッグに付けている場合もあり、そこからスマートフォンを呼び出すことができるのは便利な機能と言えます。ただ、三井住友カードTileでは基本的に財布に入れていることを考えると、取り出してまでスマートフォンを探そうとするかと考えると、あまり活躍する場はないかもしれません。
なお、iPhoneとApple Watchを使っている場合には、Apple WatchからiPhoneを呼び出すことができるので、とても便利なので覚えておくと良いでしょう(暗い部屋などではフラッシュを光らせることもできます)。
Tile Premium機能
Tile Premiumは基本機能に追加機能として有料のサブスクリプションサービスとして提供されているもので、月額税込360円と年額税込3600円となっており、アプリ内で申込・決済することができます。追加機能としてスマートアラート、共有無制限、ロケーション履歴、延長保証が含まれています(2022年1月30日現在)。
ユーザー目線で言うと、残念なのはスマートアラート機能が有料であること。この機能は三井住友カードTileをどこかに置き忘れてしまった時にスマートフォンに通知が来る機能です。
たとえば、オフィスから三井住友カードTileの入った財布を置き忘れて駅まで歩いて行ったと仮定し、テストしてみたところ、約5分ほど歩いたところで通知が来ました。私はAirTagも使用しているのですが、その通知とほぼ同じタイミングで通知されていましたので、似たようなアルゴリズムを使用しているのかもしれません。
この機能は、オフィスや自宅だけでなく、レストランや店舗などで三井住友カードTileの入った財布を忘れてしまったり、その財布を入れたバッグごと置き忘れてしまったりした際にとても有効な機能ですから、是非とも標準で対応してほしかったところです。競合のMAMORIOやAirTagと比べても大きく劣ってしまっているところですので、プランの再考をお願いしたいところです。
それ以外のプレミアム機能については、ユーザーの使い方によって必要になるかもしれないので、30日間のトライアルを試してみても良いでしょう。
真のクレジットカードサイズを実現したからこそ、広がる可能性
ここまでに長々と書きましたが、Tileの優れた落とし物を探すスマートトラッカーの機能が世界初でクレジットカードに搭載されたという三井住友カードTileは、すべての機能をしっかりと網羅し、妥協をしない製品に仕上がっています。
クレジットカードや財布、それらを入れたバッグなどを忘れたり無くしたくないというユーザーにとっても、財布の中にしまっておけるサイズと、音を鳴らして見つけることができるという素晴らしい機能はテクノロジーの力を使って、これまで困っていたことを解決できる素晴らしい製品となりました。
今後は可能な限り、他のクレジットカードにも内蔵していくよう展開を広げていってほしいと思います。また、クレジットカードにこだわらずとも、SuicaやPASMOなどの交通系ICカードや社員証などのカードタイプのものにも対応していくことができると思います。
さらに、この薄さを実現しつつも、Tileのすべての機能を網羅しているので、PCやタブレットに貼り付けて管理するなど、用途を広げていくこともできると思います。これまでの貼り付けタイプはどうしても厚みがあり、なかなか使われることがなかったのですが、この問題を一掃することができましたので、アイデアはさらに広がると思います。
Tileネットワークはユーザーが増えれば増えるほど見つかりやすくなる性質がありますので、この三井住友カードTileのテクノロジーを使って多くのユーザーの困りごとを解決しながら、他のユーザーの利便性も高めていってもらいたいと思います。
三井住友カードTileの企画を主導したSB C&Sからのメッセージ
最後に、今回のレビューにあたってSB C&S株式会社IoT・サービス事業本部 IoT事業推進本部トラッカービジネス推進室 室長 辻英一氏にいくつかメールにて質問をさせていただき回答を得たので、その内容を紹介します。
余談ですが、かなり昔に私がJawboneというBluetoothヘッドセットやスピーカー、ウェアラブルリストバンドブランドを輸入していたときに、一緒にサンフランシスコの本社に訪れたのですが、それ以来ご無沙汰だったのですが今回の記事化に当たって丁寧に教えていただきました。
Q. 企画からリリースまでの開発期間はどれくらいかかったのでしょうか。
A. 企画の構想から3年ほどかかりました。当初SMCC様でTileをポイント交換の商品として採用頂いていましたが、とある商談でクレジットカードにこの機能が入ったら面白いねという話しが出たのがきっかけとなります。
Q. 今回、1500枚限定ということでしたが、応募総数はどれくらいでしたか?
A.総数は非開示となりますが、反響がとても良く、抽選になりました。
Q. 今後、ブランド提携カードなど発行を増やしていく予定はありますか。
A.世界初のTile搭載のVisaカードになりましたので、ユーザー様の市場の反響をみながら今後の展開を検討していきます。
Q. クレジットカードサイズを実現されたので、Suicaカードなどにも広がられそうですし、PCなどに貼り付けタイプも可能になりますが、今後の展開について回答できることはありますか?
A.今回技術的なチャレンジが沢山ありましたが、0.76mmの薄さで製品化ができました。更に用途の拡大や別の形状にできないかなど社内で検討しています。
Q. 充電器のコネクター収納まで気を使っていることに感動しましたが、プロダクトデザインは社内で行なわれましたか?
A.プロダクトデザインは弊社で行いました。SoftBank SELECTIONなどプロダクトデザインなどのノウハウもあり、社内のリソースをフル活用いたしました。充電器の機構やカードの機構も行い、特にカードの機構はカードの強度確保のために、何度も部品の配置箇所を変更し試験を行うなど苦労しました。
Q. 三井住友カードなのにiDが使えない仕様ですが(別カードとの案内でした)、Tileの機能と競合したのでしょうか?
A.カード自体にはiDはついておりませんが、Apple Payに登録すればiDをご利用いただけます。Tile機能と競合したわけではございません。