猫がなりやすい病気:乳腺がん…胸にしこりを見つけたらすぐ病院へ[リアニマル]
どんな病気?
今の時代、悪性腫瘍すなわち「がん」でなくなる猫は、病気で亡くなる猫の3分の1と言われている。その中でその中で1番多いのは乳がん。人と同じで99%がメスで発生するが、まれにオスでも罹ることがある。
リスクが最も高まるのは10-12歳の高齢未避妊メス猫だ。猫の乳腺腫瘍は80%以上が悪性の乳腺癌であるといわれているので胸にしこりがある場合は1番に悪性の腫瘍が疑われる。猫の胸にしこりを見つけた場合はすぐ動物病院に連れて行ってもらいたい。
かかってしまったら?
病院で乳腺がんが疑われたら、腫瘍のサイズの計測と転移しやすい所属リンパ節である鼠径リンパ節や腋窩リンパ節の腫れがないかを触診してもらう。診断に必要な検査としては、まず腫瘍自体の細胞診だ。猫の乳腺がんは細胞診では確定診断できないので、手術によって切除した腫瘍の病理検査により確定診断になるが、悪性の可能性が高いかどうかや、まれに乳腺の部分にある皮膚腫瘍であることもあるので、鑑別のために不可欠な検査である。
それと同時に、ガンのステージを把握するために所属リンパ節の超音波検査で腫れがないかを確認し、腫れが見られたらこちらも細胞診を行い転移がないかの確認をする。また、遠隔転移しやすいのは肺なので胸部レントゲン検査も必須だ。その他の検査として手術を望むのであれば、全身状態の把握のため血液検査、尿検査、腹部や心臓のエコー検査も随時行う。
乳腺がんのステージとしては4段階あり、どの段階かによって予後や治療法が変わってくる。ステージ1はリンパ節転移なく、腫瘍直径2cm未満。ステージ2はリンパ節転移なく、腫瘍直径2-3cm。ステージ3はリンパ節転移あり、または、リンパ節転移の有無にかかわらず腫瘍直径3cm以上。ステージ4は肺などに遠隔転移している場合である。
予後は腫瘍サイズ、転移の有無、術後の病理学的グレードの総合評価で行うが転移や3cm以上の大型腫瘍は予後不良因子である。ステージ4は手術適応外であるので、自宅で酸素室を設置したり、痛み止めを服用したりといった緩和ケアによる治療になるが1か月程度で亡くなってしまうことが多い。ステージ2.3の症例は乳腺片側全摘出手術が適用になる。手術した場合の50%生存日数は約421日、手術しなかった場合は100日というデータがあるので手術による治療をおすすめする。
乳腺がんは多発することがあり反対側の乳房にも腫瘍ができている場合は1度には手術はせずに1か月後に、片側も全摘出する。1度に手術できない理由としては、かなりの広範囲の手術になるので炎症反応がかなり強く、サイトカインストームと言われる免疫細胞の過剰産生状態になりショック状態に陥ることがあるからだ。
手術自体は入院管理のもとに行われ、1週間程度の入院になることが多い。リンパ節転移の有無にかかわらず、所属リンパ節も一緒に摘出するので本来リンパ節に流れ込んでいたリンパ液が行き場を失いリンパ液が溜まったり、炎症性の漿液が溜まったりするのでドレーンという排出管を入れることもある。その場合はドレーンが抜去できるほどの漿液量の減少が見られたら退院の目途が立ってくる。
また、術後化学療法としてドキソルビシンというがん細胞のDNAを切断して、がん細胞を殺す抗がん剤を3週間ごとの頻度で30分ほどかけての静脈注射を3-4回行うことで、50%生存期間が800日になり、外科単独の414日よりはるかに予後が延びることが分かっている。副作用としては、骨髄抑制や消化器障害、腎毒性が多く、犬ほどではないが不整脈といった心毒性が見られることもある。また、薬剤が皮下に漏出すると皮膚壊死を起こすことがあるので細心の注意を払って投与される。抗がん剤は有効な治療ではあるが費用が高かったり、抗がん剤投与後2.3日は糞尿から排泄されるので人にも発ガン性を示したりと影響がある。小児がいる家庭では要相談であり、きちんと管理できるか獣医師や家族としっかり話し合って治療を開始する。
予防法は?
この疾患は早期の避妊手術で予防が可能だ。生後6か月以前に避妊手術を行った場合の発症率は91%以下、1年以内では86%以下に下げることができる。24か月齢以降では避妊手術の効果はないとされている。乳腺腫瘍のリスクを下げる効果も期待するのであれば、初回発情が来る6か月齢以前の避妊手術が有効。
あとは日々猫の体をよく触ってあげることだ。乳腺腫瘍が発見されるのは飼い主が胸にしこりがあると言って動物病院に連れてくることが一番多い。前述したように2cm以下で発見する方が、予後が良いことが多いので、早期の発見も重要になってくる。