若年層で顕在化し始めた、スマートウォッチ需要の変化
2014年にAndroid WearやApple Watchが登場してもうすぐ5年になろうとしている。
昨年eSIM対応のApple Watchが発売され、今年、Android Wearが「Wear OS by Google」に変わるなど、少し新しい動きが見えはじめている。
そんな中、2014年当時に比べると注目度は下がっているが、生活者においてもスマートウォッチに対する需要の変化が確認できた。
現在のスマートウォッチ普及率は約4%程度で、AIスピーカーの半分程度の普及率である。マジョリティ普及の指標と言われる16%(普及曲線理論のキャズムと言われる分岐点の数値)には程遠い状況だ。
私自身もスマートウォッチを何台か利用してみた経験があるが、結果的に利用をしなくなってしまった。
黎明期のスマートウォッチはサイズが大きく、デザインや装着感の課題や、省電力化のためディスプレイがスリープしてしまうことで、スマートウォッチを見た瞬間に時間がわからないという致命的な問題があった。
腕時計としての基本機能が劣る状況で、日々充電が必要ということや、常にスマホとbluetoothで繋がるため、スマホの電池の消耗も増えることもあり、自動巻きの機械時計で、いつでもすぐに時間がわかる状態に戻した。つまり、毎日腕時計をしている人からすると、腕時計の基本機能である、いつでもすぐに時間がわかるという当たり前のことが満たされなくなると、新しい機能が複数追加されていたとしても日常には耐えられないということだ。
このような課題を抱えていたスマートウォッチだが、現在、電池問題や時計表示問題含めた、様々な課題が解決されてきている。
実際、スマートウォッチの利用意向を聴取すると、現時点では4人に1人が使ってみたいと回答し、若年層になるほど高い。特に10代男性では約半数が利用したいと答え、10代女性でも30%を超える利用意向がある。
注目したいのはその意向理由だ。
AppleWatchを欲しがっている学生になぜAppleWatchが欲しいのかを聞くと「スマホを見なくても時間がわかるから便利」と答えた。
腕時計をしていない人にとってみれば、スマホで時間を確認することが当たり前になっていたのだ。
もちろんこのことは認識してはいたが、きちんと着目していなかった。
スマホの大画面化や高機能化、そして提供機能のリッチ化のもで、単純かつ頻繁に使う、「単に時間を確認する」ということや、「メッセージの内容を見る」といった機能の利便性は変わっていない。
「ゲームをする」、「買い物をする」のと同じように、「時間を確認する」ために、鞄からスマホ出して、画面をONにするというアクションが面倒と感じるようになるのは必然である。
特にスマホ利用頻度が高く、さまざまな機能を利用している若年層からすると、時間くらいは、わざわざスマホを見ないでも確認したいと思うのだろう。
もちろん、スマートウォッチを欲しがる理由はそれだけではない。
スマホの利用実態を調べていく中で、メッセージがたくさん届く人たちがどのようにやりとりをしているか確認した際に、様々な工夫をして効率的に処理していることがわかった。
例えば、女子高生は、iPhoneの3D touchを使うと既読にならずにメッセージが確認できるということで、すぐに返信すべき内容かどうかを通知と3D touchで確認し、後でも良いものは既読にしないという「捌き方」をしている。
社会人がメールをフォルダに振り分けたり、後で再度返信するものを未読に戻すようなことと同様のアクションだ。
ここで、スマートウォッチも既読にならず、メッセージの通知である程度内容を把握できる。つまり、いちいち通知が来るたびにスマホで内容を確認する必要が無くなるのだ。
時間確認もメッセージ通知もスマホに触れずに済むようになることが、スマホ依存度が高い若年層にとって魅力的に感じる要素ということだ。
つまり、スマートウォッチは腕に装着する「ミニスマホ」であるとともに、腕時計の選択肢の一つになっているといえる。
特に腕時計を習慣的に着用していない人からすると、最も高機能な腕時計がスマートウォッチということになる。
ガジェットとして見ていたスマートウォッチが、スマホネイティブな世代では腕時計の1つになっていることから、販売方法次第では急速に普及することもあり得るだろう。
ガジェッターではない若年層における、生活実態と利便性の視点から、理に適ったスマートウォッチニーズを顕在化させている。スマホで当たり前だった機能が、切り出されていく流れで見えた、ポストスマホ時代を感じる兆しの1つでもある。
調査概要
記事内でご紹介した調査データはIoTNEWS生活環境創造室メンバーの自主調査によるものです。
調査項目
吉田健太郎未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。