ニュース ホームの冷めた空気を一掃 マジョルカ久保、劇的決勝OG誘発が縮めたピッチとスタンドの“心の距離”
【スペイン発コラム】選手と観客の距離を縮めるマジョルカのスタジアム改修計画
ビルバオ戦で勝利に貢献したMF久保建英【写真:島田 徹】
マジョルカのMF久保建英は2月14日のリーガ・エスパニョーラ第24節アスレティック・ビルバオ戦で事実上の決勝点(公式記録はウナイ・シモンのオウンゴール)を決めた。ユニホームを脱ぎ捨て、北側ゴールからテレビカメラも追いつけないほどの猛スピードでピッチ半分を駆け抜け、自軍ベンチ前も通過。メインスタンド下の試合前に選手たちが入場するあたりで自身の得点を祝った。【動画】マジョルカ久保が決勝ゴールを誘発! ビルバオ戦、角度のない位置からのシュートシーン 試合後のインタビューで久保は、「頭が真っ白になり、スタンドに飛び込もうかと思ったけど、すごく高かったからできなかった」と話した。 実際にはピッチからメインスタンドまで高さがおよそ4メートルあり、スタンド最前列は前方にせり出していて両者を直接つなぐ階段などはない。その状況を考えれば、得点時の選手の高揚感と、ちょっとおどけた心境になっていたことが分かる。普段は淡々としている久保が我を忘れ、興奮状態でウイニングランを見せたことでチームや選手とファンの距離はこの時一気に縮まり、両者は一緒になって盛大に勝利を祝った。 マジョルカの本拠地ビジット・マジョルカ・エスタディはスペインで数少ない陸上トラックのある会場だ。ピッチとスタンドまでの距離がライブ感を損ね、冷めた空気感がある、との指摘が古くからある。ただ、今年元旦にマジョルカがスタジアム改修案の概要を発表し、ピッチとの一体感が生まれるのでは、との期待が膨らんでいる。 計画によると、陸上トラックが取り除かれ、ピッチサイドまでスタンドが近づく。現状はメインスタンドとバックスタンドからピッチまで25メートル、両ゴール裏からピッチまでに至っては42.4メートルもの距離があるが、新たに8.5メートルまで迫ることになる。
順調なら今季終了後に着工、2024年に終了
改修工事後のビジット・マジョルカ・エスタディの想定図【写真:(C) RCDマジョルカ】
そのほか、バックスタンド側にも6656人分をカバーする屋根が設置され、太陽光発電のLEDライト、椅子全席のリニューアル、試合日以外の活動を想定してスタンド下のイベントスペース確保といった改善も盛り込まれている。 この施設は1999年ユニバーシアードのために建設されたもので、パルマ・デ・マジョルカ市が所有している。現在は各政党からの賛同を得るべく根回しをしているところだ。費用はおよそ2000万ユーロ(現在のレートで26億3000約万円)で、順調に行けば今季終了後の6月に工事着工、2024年中に終了することになっている。 マジョルカのホームスタジアムについてはこれまで何度も議論がなされており、「(1)以前のホーム(現在は空き地)に新スタジアムを作って戻る」「(2)現スタジアムのピッチを90度回転させる」などの計画が上がっては頓挫した経緯がある。これまでに簡易スタンドの設置などマイナーチェンジはいくつかあるものの、本格的なモデルチェンジはなされていないだけに、今回の計画が具体化するか今後の動向を見守る必要がある。 もっとも久保にとっては2年後の“新スタジアム”完成のことを考えるよりは、次の試合、今季残り試合に目を向けるというのが現実的な目標だろう。 さらなる得点を決め、ゴールパフォーマンスの機会を増やすことでホームの冷めた空気を一掃することができるか――。そうなった時、久保は本当の意味でシーズン当初から期待されていたチームの顔になり、スタジアムの盛り上げに貢献することになる。[著者プロフィール]島田徹(しまだ・とおる)/1971年、山口市出身。地元紙記者を経て2001年渡西。04年からスペイン・マジョルカ在住。スポーツ紙通信員のほか、写真記者としてスペインリーグやスポーツ紙「マルカ」に写真提供、ウェブサイトの翻訳など、スペインサッカーに関わる仕事を行っている。
島田 徹 / Toru Shimada
最終更新:FOOTBALL ZONE