メルセデス・ベンツの新型Sクラス発表 2021年に自動運転実現
メルセデス・ベンツは2020年9月2日、11代目となる新型Sクラス(W233)のデジタル・ワールドプレミアを行なった。世界で最も売れているフルサイズのラグジュアリーカーであり、メルセデス・ベンツのフラッグシップ・サルーン新型Sクラスは、エモーショナルさと先進的なインテリジェンスとの融合を目指し、最新のテクノロジーを投入している。
新型Sクラスの概要
その全容を細部まで紹介すると膨大な項目になるので、ここでは主要なポイントを紹介することにしよう。
W223型Sクラスは、第2世代のモジュラーMRAプラットフォームを採用しており、フロントは4リンク・ダブルウイッシュボーン式、リヤはマルチリンク式サスペンションを組み合わせている。エアサスペンションが標準装備され、安定性を高めるために160km/h以上で自動的に20mm車高がダウンされるシステムとしている。
またオプションとして後輪操舵が設定され、リヤの操舵角は最大10度ときわめて大きく設定されている。これにより高速走行時の安定性と、低速時の旋回半径の縮小を実現しており、3mを超えるホイールベースながら最小回転半径は5.2m、ロングホイールベース・モデルでも5.4mとかつてない小回り性能を実現している。
新型Sクラスはが従来通りショートボディとロングボディが設定される。ショートボディは、全長5179mm、全幅1921mm、全高1503mm、ホイールベース3106mmだ。従来型に対して、54mm長く、22mmワイド、10mm背が高い。ホイールベースは71mm延ばされた。
ロングボディは、全長が5289mmで、ホイールベースは3216mmとなる。従来型に対して、全長は34mm、ホイールベースは51mm長い。グローバル市場ではロングホイールベース・モデルが販売の主流になっている。
では、次に新型Sクラスの注目点をピックアップしよう。
ヒューマン マシン インターフェース
新型Sクラスは、世界最高のクルマでなければならないという信念のもと、次世代のパーソナルモビリティ上の概念を提案している。その思想は主として最新のドライバー支援システムや、ヒューマン マシンのインターフェースに色濃く反映されている。
ヒューマン マシン インターフェースの代表が第2世代のMBUX(メルセデス ベンツ ユーザーエクスペリエンス)と最大5枚の高精細・有機ELディスプレイだ。メーターディスプレイ部は、ボタンを押すだけで最新の3Dディスプレイ表示となり、アイトラッキング(ドライバーの視線追跡)により本物の3D効果でドライバーが空間認識ができるようになっている。
それに加え、拡張現実のコンテンツを表示するオプションの大型ヘッドアップディスプレイも採用され、例えばナビゲーション時には、アニメーション化された進行方向を示す矢印が仮想的かつ正確に車線上に投影されるようになっている。実画像の上に様々なアイコンを重ね合わせて表示できるのだ。
音声アシスタントの「ハイ、メルセデス」は、スマートフォンアプリでのオンラインサービスも可能になり、学習、対話の範囲が拡張されている。また「ハイ、メルセデス」では車両の機能や一般的な知識に関する質問にも回答できるようになり、リヤシートからも音声アシスタントを使うこともできるようになっている。
新世代のMBUXは音声による操作だけではなく、MBUXインテリア・アシストの機能を統合しており、オーバーヘッド・コントロールパネルに搭載されたカメラと学習アルゴリズムを使用して、乗員の希望や意図を認識し、予測することが可能になっている。
つまり音声だけでなくドライバーの体の動きで特定の操作が行なわれるのだ。頭の向き、手の動きなどボディランゲージをシステムが解釈することで、例えばドライバーが肩越しにリヤウィンドウの方を見ると、インテリアアシストが自動的にサンブラインドを開くようになっている。
またインテリアでのアシストは、ドライブ開始前でも、助手席のチャイルドシートをカメラが検出し、例えばシートベルトが装着されていない場合は、ドライバーに通知する機能も持っている。
進化するHMI
さらに新たにMBUXスマートホーム機能も追加され、Sクラスは自宅のコントロールもできるようになった。通信を使用し自宅のエアコン温度や照明、ブラインドの上下、電化製品などをリモートで監視、制御できるのだ。
オプションのアクティブアンビエント照明は、約250個のLEDを装備し、運転支援システムに統合されており、システムが発する警告を視覚的に強化する。例えば、空調コントロールシステムや「ハイ、メルセデス」の音声アシスタントを操作する際にも光によるフィードバックが可能になっている。
また最新世代の運転支援パッケージには、ドライバー用ディスプレイには、運転支援システムの動作状態が全画面表示され直感的に分かるように表示される。
オプションのデジタル ヘッドライトは、前方の道路に各種マークや警告を投影するまったく新しい機能を備えており、他車、歩行者などに注意喚起のメッセージを送ることが可能だ。これは先進安全実験車で採用されていた技術を実用化したものだ。
運転支援システム
新型Sクラスは、事故ゼロというビジョンに向け大きな一歩を踏み出した。新しいシステムや拡張された運転支援システムにより、日常の運転負荷が軽減され、快適かつ安全に運転できるのだ。危険が迫ると、支援システムは状況に応じて差し迫った衝突に対応でき、駐車する際のアシストも行なわれる。
日常の運転では、状況に応じて支援システムがドライバーのストレスを軽減する。これには、車速の調整、車間距離のコントロール、ステアリング、車線変更などが含まれる。これにより、ドライバーはより長い間警戒を怠らず、より安全かつ快適に目的地に到達でき、危険が脅かされる場合、ドライバーの不注意や注意散漫が原因で事故のリスクがある場合、運転支援システムは状況に応じて対応し、起こり得る衝突の深刻さを軽減するか、回避することができるのだ
新型Sクラスは静電容量ハンドオフ認識機能を備えた新世代のステアリングホイールを装備している。ステアリングホイールのリムには2つのゾーンのセンサーがあり、ドライバーの手がホイールの上にあるかどうかを記録する。
ドライバー用ディスプレイの新しいアシスタンスディスプレイには、運転支援システムの動作状態がフルスクリーン表示で表示され、ドライバーがクルマの抽象的なビュー、走行車線、車線のマーキング、その他の道路利用者(車両、トラック、自転車など)を見分けることができる。
新型Sクラスは運転支援システムのために以下のようなセンサーを搭載している。・フロントマルチモードレーダー:開口角130度のレーダーセンサー×2・フロント長距離レーダー:開口角90度/9度のレーダーセンサー×1・フロントステレオ多目的カメラ:開口角70度・リヤマルチモードレーダー:開口角130度のレーダーセンサー×2・360度カメラ(至近距離):180度の開口角を持つカメラ×4・超音波センサー(至近距離):開口角120度のセンサー×12
高速道路、田舎道、街中などあらゆるタイプの道路で、このシステムは前走車との距離を自動的に維持できる。新機能としては最大130km/h(以前は60km/h)での静止物への衝突防止応答が可能だ。
精度が上がったADAS
ステアアシストは最高210km/hの速度まで走行車線をトレースできる。新たに360度カメラによるレーン認識や、田舎道のカーブでも可用性となっているのだ。
アクティブレーンキープアシストは、60〜250km/hの速度範囲でカメラを使用して道路標示または道路が交差していることを検出し、ドライバーが意図せずに車線を逸脱しないように制御。このシステムは、隣接する車線で認識されている車両との衝突の危険がある場合にも介入する。また道路の路肩や芝生ゾーンなども検知してステアリング介入することができる。
アクティブ緊急停止アシストは、ドライバーが交通状況に長時間反応しなくなったことをドライバーモニターで認識すると、自動停止する。新型Sクラスでは、ステアリングアシスト付きアクティブ・ディスタンスアシスト ディストロニック(ACC)がオンになっていない場合でも機能する。
アテンション・アシストは、眠気や運転者の不注意の典型的な兆候を認識し、休憩を取るように促す警告メッセージを表示する。さらに新しいマイクロスリープ警告はモニターカメラによるドライバーのまぶたの動きの監視し、居眠りを警告する。
アクティブブレーキアシストは、搭載されたセンサーを使用して、前方、交差点、または対向車との衝突リスクがあるかどうかを検知。衝突が差し迫っていると思われる場合、ドライバーに視覚的および音響的な警告を発し、ドライバーのブレーキ応答が弱すぎる場合はシステムは状況に応じてブレーキ圧を上げることでアシストし、ドライバーが応答しない場合は自動緊急ブレーキを開始することも可能だ。
アクティブ・ブラインドスポットアシストは、約10〜200km/hの速度範囲で横方向の衝突の可能性があることを警告する。ドライバーが警告を無視し、それでも車線変更を開始する場合、速度が30km/hを超えるとシステムは最後に片側ブレーキ介入による進路修正を行なう。
また車両が停止している場合、他の車両(自転車も)が危険区域内を通過していると警報する。この機能は、車両が停止している場合、イグニッションをオフにしてから最大3分間使用可能で、アクティブな周囲照明による警告も行ない、MBUXインテリアアシストのカメラにより、運転手または助手席の乗客がドアハンドルに向かって手を動かすだけでも危険警告が表示される。
危険回避ステアリングアシストは、静止している横断歩道の歩行者だけでなく、縦走する歩行者やサイクリストを含む車両も認識し、速度範囲が108km/h以下でこれらを回避するようステアリングが作動する。
プレセーフ・インパルスサイドは、前面衝突と後面衝突に対する従来からのプレセーフ・プロテクションコンセプトと同様に、側面衝突を検出するとすぐに、影響を受けるドライバー、助手席を緊急危険ゾーンから遠ざけるためにフロントシートのバックレストのサイドボルスターのエアチャンバーが一瞬で膨張し保護する。
また、他車との側面衝突の恐れがある場合、E-アクティブ・ボディコントロール・サスペンション(オプション)により、車体を数十分の一秒以内により高く持ち上げ。これにより、衝撃力が車両下部構造に向けられるようにすることができる。
パーキングシステムはMBUXへの統合により、操作がより速く、より直感的になっている。オプションの後輪ステアリングはパーキングアシスタントに統合され、それに応じて軌道の計算が行なわれる。ドライバーは、リモートパーキングアシストを備えたスマートフォンを介して、駐車および駐車解除ができる。
またインテリジェント・パークパイロット がインストールされている場合、Sクラスは自動バレーパーキング(レベル4)に対応している。国の法律がそのような操作を許可する場合は無人自動パーキングが可能になるのだ。
このように運転支援システムは、従来の想定より格段に幅広いシーンでドライバーをアシストする能力が高められていることは注目すべきだろう。
レベル3の自動運転
新型Sクラスは「ドライブパイロット」がオンになるとドライバーではなく車両のシステムが運転コントロールを行なう。もちろんこれは従来の概念を覆すものだ。このレベル3の自動運転は拡張されたセンサーセットが必要で、そのセンサー類はLiDAR(距離と速度の光学的測定)、追加のリヤカメラ(後方から来る緊急車両などを検知するため)、高精度の車両位置の検出のための3次元マップ(高解像度品質のデジタルマップ)、そしてマイクである。
新型Sクラスのレベル3の低速自動運転は2021年からドイツに限定して提供される予定だ。ここで、世界の自動運転に関する法的な整備状況を見てみよう。
自動運転の法的整備状況
自動運転の実用化に向けた法整備では、日本が世界の先頭に立っている。2020年4月に型式認証を受けた市販のレベル3自動運転車が日本の公道を走ることが認められた。これは世界初となる。日本での自動運転レベル3の解禁に続き、2020年6月には国際基準が成立している。
国際連合欧州経済委員会(UNECE)傘下の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」の専門分科会の1つ「GRVA(自動運転専門分科会)」は20年3月に「自動車線維持システムに関する車両の認可に関わる調和規定」という新たなUN規則の提案を行ない、6月のWP29の会合で国際基準としてUN規則になることが決定した。
国際基準は21年1月に発効する見通しだが、もちろんヨーロッパ各国内での法的な承認が必要だ。ヨーロッパ諸国の中でドイツのみ2017年にレベル3の自動運転に対応する道路交通法を採択しており、2021年にWP29の決定を受けて法的な整備を完了する予定になっている。
こうした背景があって、新型Sクラスは2021年にドイツでレベル3の自動運転を投入することを決めたわけだ。
自動運転レベル3の国際基準は、高速道路での同一車線内の低速走行を対象としたものになっている。新型Sクラスに導入予定の自動運転機能「ドライブパイロット」もそれに従い、渋滞などによって混雑した高速道路上で、60km/h以下で同一車線内でブレーキやステアリングなどの運転操作を車両が担うシステムとしている。
ドライブパイロットがオンで、高速道路上で60km/h以下の場合は自動運転となり、ドライバーは交通環境の監視義務から解放され、スマートフォン、タブレットでインターネットを使用したり、新聞を読んだり、ビデオを見ることが許される。Sクラスの場合なら、シートのマッサージ機能でマッサージを楽しむこともできる。
ただし、ドライバーは常に制御を取り戻す準備も必要で、システムから指示されたとき、またはドライブパイロットでの運転が困難な条件となった場合は、直ちにドライバーは運転を引き継ぐ必要がある。
つまりドライブパイロットに適した高速道路のルートが終わりに近づいた時や、長いトンネルに入る時、または天候の急変や渋滞が解消され車速がアップした場合は、ドライバーは 適切なタイミングで運転を再開するよう促される。
基本的にドライバーは10秒以内に手動で車両を運転し続ける準備ができていなければならないのだ。したがって、睡眠や長時間後方を向いたり、運転席を離れることは許されない。ドライバーが確実にコントロールできることを確認するため、ドライバーモニタリングのカメラとMBUXインテリアアシストは、頭とまぶたの動きを監視する。
ドライバーが運転コントロールを再開できない場合は、ドライブパイロットにより、適切な減速を行ない、車両を停止させ緊急通報システムが作動。ドアと窓のロックが解除されて、第3者がその車両に簡単にアクセスできるようになる。
なお新型Sクラスのドライブパイロットの前提として、上記の追加センサー類以外に、電動ステアリングシステムとブレーキシステム、車載電気システムはいずれも冗長システムとなっており、電気的な失陥が生じても車両は安全に操作して停止できるようなフェイラー・オペラビリティ、フェイルセーフ・システムが装備されている。そのため、電源などのシステムは2チャンネル構成となっている。
また新型Sクラスは、ドライブパイロットによるレベル3の自動運転以外に、レベル4の無人自動バレーパーキングシステムにも対応している。これは自動バレーパーキングに対応した駐車場では自動駐車、自動出庫が可能になり、目視できる駐車ではリモート駐車が可能になっている。
新型Sクラスの受注は9月からドイツで開始されており、12月にはデリバリーが開始される予定だ。
レベル3の自動運転は、この新型Sクラス以外では、ホンダのレジェンドがレベル3の自動運転システムを搭載し、早ければ2020年内に発売される予定で、レクサスLSは新型Sクラスと同時期にレベル3の自動運転システム搭載モデルを発売すると予想されている。
市場投入のタイミングが早ければよいというものではないが、日独でのレベル3の自動運転の実用化の競争が行なわれるという見方もできなくはないだろう。
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