電通報 ビジネスにもっとアイデアを。 プロジェクト実例に学ぶ、サーキュラーエコノミー実現の方法
2021年11月9・10日、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通TeamSDGsは、オンラインセミナー「サーキュラーエコノミーを実現する新たな連携とビジネスの可能性」を開催しました。
サーキュラーエコノミーの実現に向けて、さまざまな企業・自治体が共同で実施した実証実験や事例などをもとに、今後の連携やビジネスの可能性を紹介した本ウェビナー。ウェブ電通報では3回にわたってその内容をダイジェストで紹介します。最終回は、電通グループと企業が共創した3つのプロジェクトについて、トークセッションの内容をお伝えします。
これまでの記事はこちら・「サーキュラーエコノミー」で、消費や社会はどう変わる?・企業がサーキュラーエコノミーに取り組むべき4つの動機
植物由来100%のプラスチックを開発。素材から始めるサーキュラーエコノミー
最初に紹介するのは、事業革新パートナーズ代表取締役社長・茄子川仁氏と、電通テック・虎渡慎吾氏のトークセッションです。MCは電通テック・石澤元氏が務めました。事業革新パートナーズは世界で初めてヘミセルロースを原料としたバイオプラスチック材料の開発・製造に成功した企業です。ヘミセルロースは木材に約20%含まれる多糖類で、世界の木材生産量年間18億トンのうち、産出量は約5億トンも存在します。しかし有効活用することが難しく、利用率は1%未満で、ほとんど廃棄されている素材です。一方、海中での生分解性が非常に高いのも特長。CO2排出削減に寄与することから、同社が開発したヘミセルロース由来のバイオプラスチック材料を活用することにより、大きな環境効果が期待できます。
電通テックは電通グループ内における製造を含めたものづくりを担い、近年はサステナビリティに対するクライアントニーズの高まりを受けて、リサイクルや環境に配慮したプロダクトを多く手掛けています。
今回、この2社がタッグを組み、オリジナルの環境対応プラスチックの開発に挑戦しました。
事業革新パートナーズの茄子川氏は提携の理由について、「樹脂材料メーカーは技術が強みなので、どうしてもプロダクトアウト的な発想をしがちです。一方、電通テックは顧客起点のマーケットイン発想に長(た)けているので、私たちの製品の顧客ニーズを深く掘り下げることで新しい活路が開けると考えました」と説明。
電通テックの虎渡氏も「素材開発は川上から川下のサプライチェーンに流れていく過程で、コストや汎用性の問題が起きて採用されないケースがあると認識しています。電通グループは市場や生活者のニーズ起点によるマーケティング、あるいは多数のクライアントからの課題やインサイトから、どのような製品・技術・素材であれば採用されるかという、まさに川下領域からのアプローチを得意としています」と述べました。
こうして両社の協業から生まれた素材が「PLANEO™️」(プラネオ)です。「PLANEO™️」は高い製造汎用性を持つ100%植物由来のプラスチックです。従来の植物性100%のバイオプラスチックと比べて流動性が高く、成形スピードやデザイン転写性が向上することで細かい意匠の再現だけでなく、製造コスト低減も実現します。
虎渡氏は「射出成形(インジェクション成形)と呼ばれる方法で作られているものは、PLANEO™️でもある程度製造が可能であることが分かっています」と話し、例えば食器類やカトラリーなどはもちろん、フィギュアをはじめとする玩具など、従来のバイオプラスチックが苦手としていた細かな造形にも対応できることを解説。
石澤氏は「電通テックはクライアントのプロモーション活動の一環でスプーンやフォークなどのカトラリーを作る機会も多いので、そういったものをできる限り環境対応していくことに大きな意義があるのではないでしょうか」と述べました。
最後に、サーキュラーエコノミーに向けて環境対応素材が果たす役割について、茄子川氏と虎渡氏がそれぞれコメントしました。
「日本のように高いリサイクル率を実現できている国ばかりではないので、リサイクルできない場合も土や海の中で分解して天然のものに戻る素材を作ることは、サーキュラーエコノミー社会をつくる上で非常に意味があると思っています」と茄子川氏。
虎渡氏は「PLANEO™️は100%植物由来の生分解性プラスチックなので、一度プラスチックになっても自然に戻すことも可能ですし、石油由来プラスチックに比べCO2排出量の削減にもつながります。素材自体がまさに循環型であり、サーキュラーエコノミーの実現に向けて大きな可能性を秘めていると思っています」と語りました。
PLANEO™️について詳しく知りたい方は、下記の記事もご参照ください。・植物由来プラスチックの開発って、どこまで進んでいるの?
食品残渣と生分解性素材を組み合わせた、新しい地域循環のカタチ
続いて紹介するのは、NTTビジネスソリューションズ バリューデザイン部 部門長・宮奥健人氏、三菱ケミカル サステナブルポリマーズセクター 市場開発セクション マネージャー・小林哲也氏によるトークセッション。電通・堀田峰布子氏がMCを務め、「食品残渣(さ)と生分解性素材を組み合わせた新たな地域循環」の取り組みについて語り合いました。
NTTビジネスソリューションズは、地域社会の発展に貢献する活動の一環として、2019年から地域食品資源循環ソリューションを提供しています。地域の食品関連事業者に食品残渣を発酵分解する装置をサブスクモデルでレンタルして、そこから生まれた一次発酵物を各拠点のリサイクルセンターで完全堆肥化。地域の契約農家に堆肥を提供することで農作物へ還元していくという“リサイクルループ”を構築しました。従前の廃棄物の処分費用より安価にソリューションを提供することでコスト削減と環境負荷低減、さらに地域経済の活性化を実現しています。
三菱ケミカルは、1990年代から生分解性樹脂を開発。2017年から「BioPBS™️」の生産販売をスタートし、この樹脂は堆肥化可能なごみ袋や使い捨て食器、包装材などに活用されています。他の生分解性樹脂に比べ、成形性や耐熱性、自然環境での生分解性に優れており、環境負荷も低減する素材です。
こうした地域食品循環や生分解性樹脂の取り組みをさらに発展させる手段として、電通はスポーツ・イベント分野でのコンタクトポイント創出や、社内外への発信とブランディング、アプリを含めたUX設計に強みを持っています。
この3社が協働することでコレクティブインパクト(多様な企業・自治体との連携)を創出すべく、食品残渣と生分解性素材を組み合わせた新たな地域循環の取り組みを開始。省庁や自治体などへのB to G、外食産業や食品関連産業などへのB to B、そしてスポーツやイベントなど、幅広い分野を対象にソリューションを提供しています。
例えばJリーグのギラヴァンツ北九州と連携した実証実験では、「BioPBS™️」の紙コップをスタジアムで使用し、使用済み紙コップを回収して堆肥化。その後、堆肥の一部を地元の高校で野菜の栽培に活用し、さらに収穫された野菜をスタジアムで2022年春から販売する予定です。
三菱ケミカルが開発した生分解性プラスチックを使用した紙コップを、ギラヴァンツ北九州のイベントで提供。回収した使用済み紙コップを、NTTビジネスソリューションズとウエルクリエイト社が「食品残渣発酵分解装置(フォースターズ)」で食品残渣物などと一緒に堆肥化。その後、堆肥の一部を地元の高校で野菜の栽培に活用し、収穫された野菜をスタジアムで販売する。このサッカースタジアムを起点とした地域食品資源循環型システムの実証実験には、他にも、飲料メーカーや自治体など、15の企業・団体が参加している。ギラヴァンツ北九州の実証実験について詳しく知りたい方は、下記の記事をご参照ください。・紙コップが野菜に!?北九州市発、コレクティブインパクト
このソリューションは拡張オプションとして、「移動式循環リサイクルカー」を展開しています。NTTビジネスソリューションズでは、静岡県浜松市で学校給食で残った食品残渣をリサイクルカーで回収し、装置で一次発酵が進む様子を子どもたちに見てもらいながらSDGsの重要性を伝える“出前授業”を行いました。
NTTビジネスソリューションズの宮奥氏は「子どもたちが非常に興味を持ってくれましたし、先生からも“SDGsの具体的なイメージができるので生徒だけでなく保護者の方にも参加してもらいたい”という声を頂きました」と振り返ります。
リサイクルカーは食品残渣を回収しながら分解を行い、同時に堆肥で作られた野菜の移動販売も行うことができます。「一般家庭やスーパー、レストランなどで残渣を回収する際に野菜も買っていただく。一つの地域で、堆肥を使って野菜を育てている農家の方と、生活者やお店をつなぐことで、地域の食品循環をつくることを目指しています」と宮奥氏。電通の堀田氏は「期間限定のイベントにも活用できそうですね」と期待を込めました。
もう一つ、B to Bの展開として、NTT西日本グループも含めた企業の社食や、外食チェーンなどでの食品循環の仕組みを取り入れています。例えば、御殿場プレミアム・アウトレットでは、モール内の残渣を堆肥化し、それを花壇に活用してモールの緑化を目指しています。三菱ケミカルの小林氏は、「今後は、食べ物だけでなく、フードコートの紙皿やカトラリーにも生分解性樹脂を採用することで、食品残渣と共に堆肥化できます」と取り組みのポイントを解説しました。
最後に、宮奥氏と小林氏が今後の展望を述べました。
「三菱ケミカルの生分解性樹脂とつながることで、飲食店やフードコートなど、これまでは紙皿やカトラリーが混ざってしまってリサイクルが難しかった食品残渣のリサイクルに大きな可能性が生まれたと思っています。このように、今後も一緒に課題解決に取り組んでくださる仲間の輪をどんどん拡大し、サーキュラー・エコノミーの実現に向けて取り組んでまいりたいと思います」と宮奥氏。
「社会課題が複雑化し、一企業や一業態では解決しにくい課題があるからこそ、多様な方々が強みを持ち寄り、より大きな輪で取り組んでいきたいと思っています」と小林氏は述べました。
自治体×地域住民×企業の共創による食資源循環モデル
最後に紹介するのは、自治体×地域住民×企業の共創による食資源循環モデル「eco-wa-ring Kawasaki(エコワリング川崎)プロジェクト」に関するトークセッションです。川崎市環境局 生活環境部 減量推進課・安川宏太氏、ローカルフードサイクリング代表取締役・たいら由以子氏、電通・口羽敦子氏が登壇しました。
「eco-wa-ring Kawasaki」は、川崎のフードサイクルプログラム。家庭の生ごみをコンポスト化容器などに入れて堆肥を作り、野菜を育てて食べるという循環の輪を都市部でつくることに挑戦しています。
事業は大きく「自活型フードサイクル」と「共助型フードサイクル」に分けられ、前者は企業が主体となって地域住民と一緒にコミュニティガーデンを運営するもの。武蔵小杉東急スクエアの展望デッキや、大型施設のヨネッティー王禅寺でコミュニティガーデンで実施しました。後者は地域農園が主体となり、住民が持ち込んだ堆肥を使って野菜を育て、地域住民に買ってもらうという地産地消型のフードサイクルを目指すもの。現在、市内9カ所の農園と連携しています。
さらにアプリを通じ、個人のエコ活動(堆肥を持ち込む、イベント参加など)に応じてポイントが付与され、連携企業からのインセンティブを受けられるプラットフォームを構築し、実験しました。個人のアクションが可視化、評価され、次のアクションを促す仕掛けを作っています。
同プロジェクトは川崎市が責任統括し、コミュニティガーデンの運営やコンポストなど、生ごみ循環のエキスパートとしてローカルフードサイクリングが参画。プロジェクト運営・推進業務を電通が担当し、エシカル系メディア「ELEMINIST」などを運営する株式会社トラストリッジが広報業務を担う、多様なプレイヤーで構成された共同プロジェクトとなっています。
トークセッションでは、それぞれの立場からプロジェクトの意義を語りました。
川崎市の安川氏は、「SDGs未来都市として、さまざまな地域課題に率先して取り組んでいくことはもちろん、川崎の循環コミュニティを創出し、地域コミュニティを活性化させることで、生ごみのリサイクルだけでなく他の部門の課題解決にもつながっていくと考えています」と発言。
ローカルフードサイクリングのたいら氏は、「私はもともと自分の娘が将来安全に野菜を食べ続けることができるのか?という疑問から活動をスタートし、都会でも簡単に生ごみを循環できるコンポストを開発しました。今回のプロジェクトは、有機物を土に戻して循環させる暮らしを都市部で設計することに、チャレンジの意義があると感じています」と述べました。
電通の口羽氏は、「私としては、電通の強みである、いろいろなプレイヤーをつないでゼロから活動をつくって継続させていく力。それを社会貢献・環境貢献のど真ん中でやりたいという思いがまずありました。そして、多くの企業の方々がサステナブルな取り組みをしたいと思っていても、実際はお金も手間もかかって続かないという課題がある中、“サステナブル活動ほど、サステナブルであるべきだ”という考えから、地域の企業や自治体が無理なく参加できて、個人もエコアクションが“与信”になることで次のアクションを生み出すような仕組みを作ることにしました」とプロジェクト開発の経緯を語りました。
プロジェクトはまだ始まったばかりですが、参加者からの反響はもちろん、興味を持った住民からの問い合わせも多数あるそうです。安川氏は、「若い世代は生ごみ堆肥を使ってガーデニングをする、野菜を育てるといった部分にモチベーションを感じる方が多いので、そこからリサイクルやごみの分別などに興味を持っていただけるのではないかと期待しています」と述べました。
たいら氏も、「都市部に住んでいる方がこのプロジェクトを通じて農園の方々とつながることで、普段スーパーで買い物するときの買い方や選び方が変わるといいなって思います」と波及効果への期待を語りました。
口羽氏は「すでに多くの企業や自治体からもお問い合わせを頂いており、社会に貢献する機会を探していらっしゃる方々は多いのだと感じています。今回のように、今日参加している3社と広報担当のトラストリッジが集まって物事を進めるのはそんなに簡単なことではありません。それでも共通のビジョンを持って協力し合い、何よりもユーザーが楽しめる体験を設計することが、活動を継続させるための原動力になると思っています」と、プロジェクト実現のポイントを述べて締めくくりました。
サーキュラーエコノミーについて、企業が目指す方向性や、消費や社会がどう変わるのか、さらには現在の取り組み事例などについて幅広く紹介し、さまざまな意見が交わされた本ウェビナー。サーキュラーエコノミー実現の動きは世界で加速し、国内でもさまざまなアクションが生まれています。電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通TeamSDGsはこれからもウェビナーや本連載で、サステナブルな社会実現のための知見を伝えていきます。