世界初の自動運転レベル3試乗でわかったこと 【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第1回】 中古車や新車情報、業界ニュースなど最新情報はグーネットマガジンで!
車の最新技術 [2021.04.09 UP]
世界初の自動運転レベル3試乗でわかったこと 【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第1回】
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この記事の目次- システムがクルマを「自動運転」するのは、レベル3から上
- 自動運転ではドライバーの代わりにシステムが「認知」、「判断」、「操作」を行う
- 自動運転レベル3を搭載する新型レジェンドを試してわかったこと
- 自動運転レベル3を体験した感想と問題点
文●石井昌道 写真●ホンダ、宮門秀行 3月4日発表、翌日発売となった新型ホンダ・レジェンドは世界初のレベル3自動運転システムを搭載したことで話題となっている。 レベル3とは言っても高速道路(都市高速含む)での渋滞時に限るという、限定的なものであるから、最近の高度化されたレベル2で十分では? という声も聞かれ、コストパフォーマンスを含めて考えればそれも頷けるところではあるのだが、失敗すればたいへんなことになるかもしれないというリスクを背負いつつ世界初へ挑んだ姿勢に本来のホンダらしさを感じるとともに、実際に試乗してみたところ、限定的なレベル3と高度レベル2の組み合わせはかなり有用であることも確認した。
オールジャパンで挑む「SIP自動運転」の現状【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第2回】
システムがクルマを「自動運転」するのは、レベル3から上
国土交通省による「自動運転のレベル分けについて」(国土交通省発表資料より)
自動運転化レベルは、もともとは米国のSAE(ソサエティ・オブ・オートモーティブ・エンジニア)が提唱し、日本でもこれを採用。レベル0からレベル5まであり、これまで市販されているのはレベル2までだった。 別表のとおり、レベル2までは運転の主体が運転者であり、レベル3になると一部ではあるものの、運転主体がシステム、つまりクルマ側が受け持つというのが大きな違いになる。 近年ではレベル2も大いに高度化されており、機能的にはほぼレベル3に近いものも現れているが、そう簡単にレベル2からレベル3に移行できないのは法整備があるからだ。だからいくら高度なレベル2のクルマでも、あくまで「運転支援」と呼ばれていた。 ところが、日本では2020年4月1日に警察庁が管轄する道路交通法と国土交通省が管轄する道路運送車両法が改正され、レベル3が認可される環境が世界に先駆けて整った。以前の日本では、自動車メーカーの技術は先進的なのに、縦割り行政の悪影響や慎重すぎる考え方によって、実用化は世界に遅れをとってしまうことが多かった。衝突被害軽減ブレーキなどでもそういった面が見受けられたが、現時点の自動運転の技術に関しては、法整備が先で一年近く経ってから実装したクルマが発表・発売されるという逆転現象が起こっている(これについての考察はまた別の機会に)。だからレジェンドは世界初レベル3と名乗れたわけだ。
自動運転ではドライバーの代わりにシステムが「認知」、「判断」、「操作」を行う
ホンダ 新型レジェンドが搭載する自動運転に必要なセンサー。従来のカメラやレーダーセンサーに加え、対象物までの距離と形状を認識するライダーセンサーが加わっている
自動車の運転は、ドライバーが「認知」「判断」「操作」を連続的なサイクルで行っている。これを自動運転ではクルマ側のシステムが代わる。 ドライバーは「認知」を主に目で、「判断」を脳で、「操作」を手によるハンドル、足によるアクセルやブレーキで行っている。 自動運転は「認知」をカメラ、ミリ波レーダー、ライダー(LiDAR)などといったセンサーで、「判断」はセンサーから得られた情報をもとにコントロールユニット(コンピューター)が、「操作」はデジタル化された(ドライブバイワイヤ)ハンドル、アクセル、ブレーキを用いる。 このうち「操作」はすでに人間に近かったり、超えていたりするほど高度になっている。ACC(アダプティブクルーズコントロール)では足によるアクセルやブレーキをシステムがかわりに行うが、これをもって「フットオフ」、日産スカイラインやBMWなどステアリング操作を限定的な条件下でシステムが行うことを「ハンズオフ」などと呼ばれるが、新型レジェンドが搭載した「ホンダ・センシング・エリート」のレベル3では、ドライバーの前方監視義務から一部解放されるという意味から「アイズオフ」が実現されている。 ただし、レジェンドのレベル3は極めて限定的だ。「トラフィックジャムパイロット」と名付けられた渋滞運転機能だけが自動運転レベル3であるが、これを利用できるのは高速道路、都市高速(首都高速都心環状線など複雑に入り組んではいない箇所)に限られ、しかも渋滞時のみ。30km/h以下になると作動可能となり、いったん作動すれば50km/hまでは継続される。
ホンダが自動運転レベル3に到達するまでに開発してきた関連技術。これら技術の積み重ねのうえに自動運転レベル3が成り立っている
自動運転レベル3を搭載する新型レジェンドを試してわかったこと
高速道路での渋滞中に自動運転レベル3の機能が働き、前方から目を離す「アイズオフ」が許された状況
試乗は首都高速を中心に、混雑が予想される夕方に行った。 交通情報をチェックしながら渋滞している箇所を目指すという、普段ならなるべく避けたシチュエーションに突入していく嫌なマインドのドライブになるが、致し方ない。 首都高速にのってしばらくはスムーズに流れていたが、そこでは従来のホンダ・センシングにはなかったハンズオフ機能付車線内運転支援を試した。 車線と自車位置をきちんと把握できる条件になれば、ステアリングから手を離してもOKのハンズオフは、渋滞時ならBMWも実用化、スカイラインは高速走行でも可能にしており、レジェンドのそれは高速走行ハンズオフもできる。 ホンダのLKAS(レーンキープアシストシステム)は、フィットなどリーズナブルなコンパクトカーでもフィーリングがいいが、さすがに高価でセンサやダイナミックマップ(高精度3次元地図)を搭載するレジェンドはさらに上を行く。首都高速・湾岸線や東京外環自動車道(C3)など比較的に流れの速い交通のなかでもリラックスしてドライブできる。 ただし、スカイラインでも感じていたことだが、ステアリングから離した手の置き場をどうすればいいのか、困惑することもある。あくまでドライバー主体の運転支援であり、即座に運転に戻れるよう構えておかなくてはならないので、手を遊ばせているわけにはいかない。ステアリングから手を離していると、意外や自分の手って重たいのだなとも思う。 左腕はセンターのアームレストに預けていれば楽だが、右腕は支点となる肘をドアハンドルに預けようとするとちょっと距離があり、長時間だと疲れてくる。これは、ACC使用時に足をどこに置いておくべきかを含め、高度なレベル2以上を搭載するすべてのクルマの課題であり、今後はコクピットのデザインなどを根本から考え直していく必要があるだろう。 ハンズオフのまま車線変更を支援する機能もある。ウインカー操作によって自動的に車線変更していく機能は、そう珍しくないが、システムが周囲の状況を判断し、ウインカー操作も含めて車線変更と追い越しを支援するのは珍しい。今回も、スムーズに流れていたのに出口渋滞が本線上まで伸びていたシチュエーションで、自動的に左から右に車線変更してこれを避けていく賢い制御を体験。右と左の車線ではそれなりに速度差があったが、上手く安全な隙間を見つけて適切に車線変更および加速していくことに、大いに感心させられた。 6号三郷線の上りでいよいよ渋滞に突入。30km/h以下になったところでトラフィックジャムパイロットが作動した。 それまでも「フットオフ」「ハンズオフ」状態だったが、「アイズオフ」が可能になる。ただし、レジェンドのホンダセンシングエリートは、視線を前方から外し、センターディスプレイを見ることだけが許されている。通常走行時は、TVやDVDなどの映像は写されないがオートジャムパイロット作動時は可能となるので、これを視聴するぐらいは、いわゆるセカンドタスクとして許容するというものだ。 法律的には前を見ていなくてもいい、だけれど、ただちに運転に戻れる状態にしておかなくてはならないというルール。 つまり、寝てしまうなんていうのは論外だが、解釈次第ではスマートフォンを操作する程度なら許されるかもしれない。丁寧に置かないと中身が散乱してしまいそうなお弁当を両手を使って食べるのはアウトか。細かい規定はなく、曖昧とも言えるのだが、レジェンドは最初の一歩として、ごく限られたセカンドタスクのみに絞ってあるのだ。 ルールではシステム側がドライバーに運転交代を要請してから10秒経っても応じない場合はクルマが自動的に緊急停止することになっている。レジェンドではまずメーターやHUDの表示、シートベルトを締め上げるなどでドライバーに伝えるとともに、緊急停止が必要ならばハザードの点灯やクラクションを鳴らすことで周囲にも注意を促しながら、路肩、それが無理ならば走行車線上に停止する。
自動運転レベル3を体験した感想と問題点
自動運転レベル3を実車、実環境で体験した自動車ジャーナリストの石井昌道氏
約2時間半の試乗のなかで合計20分ほど渋滞にはまっていたが、そこでリラックスさせてくれるだけでもドライバーの疲労はずいぶんと軽減され、快適にも思えた。 ただし、トラフィックジャムパイロットが解除されるときに備えて、ただちに運転に戻れるよう身構えている必要はある。あまり気を緩めすぎると運転開始直後の注意力が散漫になってしまわないか心配でもある。 また、システムが便利になるほどドライバーが過信したり頼りすぎたりするのも問題。悪意がなくても、心理的にそうなりすぎる傾向はあるだろう。 じつは、そういったことを理解することが、かなり限定的でありながらもレベル3を上市する意味なのだ。急ぎすぎてもいけないが、一歩を踏み出さなければ何も始まらない。自動運転の歴史がいままさにスタートを切ったのだ。
執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)
自動車ジャーナリストの石井昌道氏
自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。
【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。次回のテーマは「政府の自動運転戦略のいま」です。どうぞお楽しみに!
ライタープロフィール
グーネットマガジン編集部1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。グーネットでは軽自動車から高級輸入車まで中古車購入に関する、おすすめの情報を幅広く掲載しておりますので、皆さまの中古車の選び方や購入に関する不安を長年の実績や知見で解消していきたいと考えております。
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