運送会社のスマホ活用を支える「CLOMO MDM」とは
話題スマートフォンの普及は、私たちの日常を大きく変えた。これは、運送会社にとっても同様である。以前は高価だった専用機器や必要なシステムが、今やスマートフォンを利用することで、より安価に、そして使いやすく進化している。トラック用のカーナビゲーション、動態管理システム、ハンディターミナルなどは、その一例である。
だが同時に、会社としてドライバーにスマートフォンを支給することには不安も尽きない。最も大きな懸念は交通事故だ。ドライバーが会社から支給されたスマートフォンを運転しながら利用し、最悪の場合、死傷事故でも起きたりすれば、会社自体の存続に関わる危機になる。
MDM(モバイルデバイスマネジメント)とは、スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイスに導入することで、その利用をコントロールもしくは監視し、利用者による適正な利用を促すシステムである。ファッション物流大手の浪速運送(大阪市西区)が、アイキューブドシステムズの「CLOMO(クロモ) MDM」を導入した事例をひもときながら、運送会社がMDMを用いて、適正にモバイルデバイスを利用するためのポイントを考えていこう。(坂田良平)
MDMで何ができるのか
運送会社がドライバーにスマートフォンを支給することには、さまざまな理由が考えられるが、いずれにせよ業務外の利用は避けたいはずだ。YouTube(ユーチューブ)などの動画コンテンツを視聴した結果としての高額な通信費請求の発生や、SNSなどを閲覧しながらの運転による交通事故の発生などは、運送会社にとって絶対に免れたい事態である。
MDMは、会社が支給したモバイルデバイスを健全に利用・運用するための仕組みを備えている。具体的には、(1)利用できる機能やアプリを制限し、許可外のアプリ利用を禁止する仕組み、(2)利用者がどのように使っているのかを、管理者用画面によって随時確認できる仕組み、(3)設定や仕様をあらかじめ定めておくことで初期設定などの手間を省き、アプリやOSのアップデートなど運用上必要なメンテナンスを、複数端末で一括管理・実施できる仕組み――で、このほかにも万が一の紛失時に、管理者がリモートで端末内の情報を削除したり、端末ロックをかけたりすることなどができる。
大勢の人がスマートフォンを利用している現在では、会社から支給されたスマートフォンとはいえ、手にすればあれやこれやと設定を変更し、好みのアプリをインストールしたくなるのは人の性と言えよう。だからこそ、会社から支給するモバイルデバイスなどにはMDMを導入し、業務外利用をできなくする仕組みが必要となるのだ。
浪速運送が業務用スマホを必要とした理由
取材に応じたシステム開発部マネージャーの森脇穣氏(左)
浪速運送は1924年に大阪で創業した、洋服などのファッション物流の第一人者である。洋服をハンガーに吊るした状態で運送する「ハンガー輸送」は、同社が初めてビジネス化した。
同社は40年前から情報システム部門を備えていた。先代の社長(現会長)は、自社でシステム部門を備えることの必要性について当時から強調していたというから、先見の明があったのであろう。
業務システムをはじめとする、社内で利用するシステムは、フルスクラッチで構築することを原則としてきた。業務改善に伴うシステムのアップデートを考えた場合、外部のシステムベンダーに頼るのではなく、社内の人材で対応できる体制を構築しておくことで、ビジネススピードの優勢性を保つためで、キャッシュアウトを防ぐ効果もあるのだという。
まさに、現在のDX(デジタルトランスフォーメーション)が求める「IT人材の内制化」を40年前から実践してきたのだ。ドライバーには以前からハンディターミナルを持たせ、商品の検品や伝票の印刷などに活用してきた。使っていたのは国産メーカーのハンディターミナルだが、2018年頃に老朽化によってリプレイスが必要となった時、同社に31年間勤務するシステム開発部マネージャーの森脇穣氏は、「これからは、Android(アンドロイド)のスマートフォンを選択すべきではないか?」と考えた。
国産メーカーのハンディターミナルは高性能だが、本体価格が高いことが悩みの種であった。結果として、浪速運送はAndroidのスマートフォンを700台導入し、今期中にはさらに130台追加する予定だ。これだけ台数がまとまれば、本体価格のコスト削減効果はとても大きい。
Androidスマホを本体保証なしで導入
CLOMO MDMをインストール済みの端末の画面。「機器は組織によって管理されています」と表示される
OSにAndroidを選んだことは、自社で業務システムを開発する同社にとって、システム開発が行いやすくなる効果があった。また、ドライバーが普段から使い慣れているスマートフォンに変更することで、レクチャーも楽になり、運用サポート工数も軽減することができたという。
同社が選んだのは、米国のゼブラ・テクノロジーズのスマートフォンである。森脇氏はスマートフォンが世の中に普及しだした頃から、バーコードとQRコードをスキャニングできる業務用のスマートフォンを探していたこと、格安SIMの普及が進んだことについて述べた上で、「今さらテンキーが付いたハンディターミナルは不要だろう、という思いがありました。また、保守費用が大幅に削減できることもポイントでした」と語る。
国産メーカー製のハンディターミナルを利用している物流企業の多くは、本体保証を含めた保守メンテナンス契約を締結していることだろう。契約金額は高くなるが、ハンディターミナル本体の価格が高いため、いざという時のことを考えると本体保証契約は欠かせない。
だが、同社は本体保証を省き、故障時のメンテナンス契約だけを締結した。理由は「本体が壊れたら買い換えれば良い」とのことで、価格の安いAndroidのスマートフォンならではの発想である。
スマホの業務外利用を大きく制限
CLOMO MDMで利用できるアプリを制御した状態
同社がドライバーたちに支給したスマートフォンでは、貨物追跡、連絡用の「LINE WORKS」(ラインワークス)など、業務で必要なアプリしか利用できないように、CLOMO MDMで制御している。カメラはもちろん、Gメールやウェブブラウザも利用できず、データ通信専用SIMを使っているため通話もできない。
MDMを導入した背景には、かつての苦い経験がある。森脇氏は「今から20年ほど前でしょうか。当社でもドライバーに携帯電話を支給したことがあったのですが。いくら『仕事以外では使わないように』と言って渡しても、私用の通話をしたり、好き勝手に使い始めるドライバーが出てきました」と語る。
当時はまだ通信方式がMOVA(ムーバ)で、カーナビゲーションすら普及途上の頃に、浪速運送は巨額の費用を掛けて、全車両にGPSと車速センサーを取り付け、運行管理・配車管理システムを構築した。携帯電話はこのシステムのデータ通信運用のために必要だったが、当時はMDMなどはなく、好きに使っているドライバーを見つけても、口頭で注意することくらいしかできなかった。
森脇氏によれば「今回もスマートフォンを支給したら、早速、壁紙を変更しようとしたドライバーがいました。もちろん、CLOMO MDMのおかげで未遂に終わりましたが」とのことで、時代は変われど、人の本質はそうたやすく変わるものではない。だからこそ、会社が従業員に支給する端末には、MDMのように業務外利用を防ぐ仕組みが必要なのだ。
ITリテラシーを問わないCLOMO MDM
そもそもMDMは「紛失盗難時のセキュリティ対策とともに、業務外利用を制御するなど効率的に端末を管理する仕組み」であり、各社の機能に決定的な違いがあるわけではない。あるのは使いやすさとサポートの差だ。まず、CLOMO MDMの使いやすさについて考えてみたい。
「当社で最初にCLOMO MDMの初期設定と運用を担当したのは、システム経験のない派遣社員でした。ITリテラシーが特別高いわけではなく…というより、むしろITリテラシーは乏しい方でした」(森脇氏)
しかしその派遣社員は、初期導入した200台のキッティングから、その後追加された500台のすべてのキッティングをほぼ一人で行ったという。具体的にどのような工程を必要としたのか、挙げてみよう。
キッティング工程(1)スマートフォンにSIMカードを挿し、個別識別用のラベルを貼る(2)電源を入れて言語とAndroidOSの設定(3)Google(グーグル)アカウントの設定(4)CLOMO MDMのインストールとアカウントの設定(5)CLOMO MDMによる必要なアプリのインストールと制御の設定(6)端末のPIN(パスワード)の設定(7)モバイル通信の設定(8)貨物追跡アプリのテスト(ログイン、起動、バーコード読み込み)ポイントになるのは、(5)の「必要なアプリのインストールと制御の設定」だ。CLOMO MDMはインストールすべきアプリを指定し、制御条件をプロファイル設定しておけば、自動的にインストールと設定を行ってくれる。そのため、1台あたりのキッティング所要時間はわずか10分程度だったという。また、1台の設定につきっきりになる必要はなく、複数を同時に設定することが可能だ。
サポートを重視、ユーザーからも高評価
では、特に大切なサポートについてはどうなのだろうか。
「もちろん、MDMを選定する際には複数のMDMを比較しました。その結果、価格が手頃であることに加えて、サポートも充実しているCLOMO MDMを選択しました」と森脇氏は語る。CLOMO MDMの管理画面はユーザーインターフェイスも分かりやすく、マニュアルを参照することなく直感的に操作することが可能だが、加えて、使い方に関するサポートも丁寧だったという。
CLOMO MDMの管理画面。UIもシンプルで分かりやすい(クリックで拡大)
「サポートを重視することは、アイキューブドシステムズが掲げるポリシーであり、プライドなんだと思います」と、森脇氏は評価する。MDMに限らず、最近のシステムベンダーは代理店を活用するところが少なくない。販売とサポートを代理店に委ねることによって、システムベンダーは製品の開発に注力することができる。しかしその反面、ユーザーとの距離は遠くなり、サポートの質は落ちてしまう。
対して、アイキューブドシステムズは自社サポートにこだわり続けてきた。サービス開始以来、ユーザーの声に接しつづけた蓄積があるからこそ、サポートも充実し、またシステムのユーザビリティも向上を続けているのであろう。実際、アイキューブドシステムズがユーザーに行っているサポート対応満足度調査では、およそ90%の満足度を獲得しているという。
浪速運送がスマホやCLOMO MDMと目指す将来
バーコードのスキャニングからラベルの出力・貼付までも迅速に行える
浪速運送がAndroidのスマートフォンをドライバーに支給したのは、ハンディターミナルのリプレイスに伴う必要性だけからではない。同社には次代を見据えた、進化した運送サービスのプランがあるのだ。
例えば、運送には欠かせない伝票へのサインも、顧客が望む時に、素早くスマートフォン上で提示できるシステムを考えているという。サイン済みの伝票をスキャンし、電子保存するところまではすでに実現できているが、これをさらに発展させて「顧客に見せる」ために、スマートフォンが必要となる。
同社はアパレル配送を主力事業としているが、広い百貨店や商業施設などでは、商品を届けたものの施設内で行方不明となり、売場まで届かないことがある。このようなトラブルを防ぐために、売場までの配送システムと、売場に商品を届けたことを情報公開できる「館内配送システム」も構築予定だという。これが完成すれば、筆者の知る限り、国内初の快挙のはずである。
また、同社のドライバーは配達先や集荷先の顧客から「●●県●●市に荷物を届けることができますか?」という質問を受けることが多い。現在はドライバーが紙資料を参照して答えているが、これもスマートフォンから検索し、結果を顧客に示すことができるシステムの構築を予定している。
「大切なのは、私たちが日々活動していく過程で得ている、さまざまなデータをどのように活用し、業務改善、そして企業価値の向上へと活用していくのかです。単発的なシステム構築や改善では、効果は知れていますから。3年後を見据え、すでにビジョンは描いていますので、後は最終形に向かって確実に歩んでいくだけです」(森脇氏)
これぞまさにDXの体現であろう。最新のデジタル技術を用い、業務とビジネスを変革し、そして運送業界での確固たる地位を創り上げていく。浪速運送が目指す将来は、多くの運送会社にとって手本となるものである。
そして、同社が数あるMDMの中から、なぜCLOMO MDMを選択したのか、その過程と経験も、きっと多くの運送会社にとって参考となるはずだ。ドライバーや従業員による業務外利用を懸念して、スマートフォンの導入に二の足を踏んでいる運送会社は多いと思うが、実にもったいないことだ。「CLOMO MDM」さえあれば、そんな心配はすべて杞憂と化すのだから。
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