自動運転の車内にバーチャル女子高生…アイシン精機、マルチモーダルエージェントを開発
自動車部品大手のるアイシン精機は3月2日、車内でのコミュニケーションに最適なマルチモーダルエージェントを開発したと発表した。アイシンはこのエージェントを活用し、自動運転バス車内のみならず、街や社会全体をさらに住みやすく快適にするための展開をめざす考えだ。
インターフェースには3D・CGのバーチャル女子高生「Saya」を使用
このエージェントを開発するにあたってアイシンは、MaaS など新たな“移動”のかたちが求められる社会の中で、「人々の一歩先の期待」や「新しい価値観」に着目。これまで同社が培ってきた技術の応用と、産学およびパートナーとの協業によって多角的な視点から開発を行うことで実現したイノベーションとして開発したとしている。協業したのはHarmonized Interactions(本社:徳島市)、GarateaCircus(東京都渋谷区)、Idein(東京都千代田区)、豊橋技術科学大学等。
今回の開発では将来的に普及が見込まれる自動運転バス車内を想定。アイシンが強みとするカメラ画像認識技術(ドライバーモニターシステム、車室内監視システム)を活用して乗員の顔や体の動きを検知し、AIを用いて画像、音声、蓄積されたデータなどを統合的(マルチモーダル)に判断する。その最大のポイントは、判断した情報を元に「TELYUKA(テルユカ)」が制作したバーチャル女子高生「Saya」をインターフェースとして活用することだ。
「TELYUKA」は、バーチャル・ヒューマン制作を専門とする3D・CGのアーティストユニットで、謎の女子高生「Saya」を開発してその存在が広く知られるようになった。実はCGはリアルに近づけば近づくほど細かな違いに不自然さを感じ、場合によってはそのギャップから“不気味さ”を生んでしまうこともある。Sayaはそのギャップを初めて乗り越えた3Dキャラクターとして評価されているのだ。
髪の毛10万本を1本ずつ再現するリアル感に驚き
そのSayaによるデモを見ると、その自然な動きに本当に驚かされる。目や口の動きだけでなく、10万本もの髪の毛の動きまで1本ずつ表現。中でも対話している時は視線を時折外すしぐさを見せるなど、その動きはまるで目の前にいる人間と話しているかのようだ。
個人的にはもう少し表情に大きな動きがあても良いのではないかと感じたが、Sayaのキャラクター決定に関わったアイシン精機/走行安全第一制御部主席技師の大須賀 晋氏によれば「子供や高齢者でも接しやすいAIインターフェースとしてSayaを設定している。子供にとって“お姉ちゃん”、高齢者にとって“孫”との設定で、誰でも親しめるような存在を目指した」と話す。
今回のシステムでは自動運転バスに乗ってSayaが案内/サポートしてくれることを想定し、3つのステップを踏む。まず、ディスプレイ前と天井に設置した2つのカメラで対話する相手をセンシングし、そこで年齢や性別などから個人認証を行う。続いて認証した内容がデータとして手許にあるかどうかを判断。その結果をSayaに伝えてCGによる自然な振る舞いで応えるという流れだ。
アイシンによれば、Sayaを動かすに当たって目指したのは「人との自然なコミュニケーション」にあったという。その実現のためにSayaというキャラクターの活用は欠かせなかったわけだ。
お世辞を交わす中で対人への対応力を自然とアップしていく
注目はカメラによって得た画像や音声、記憶を統合して判断するマルチモーダルな対応を果たしていることだ。たとえば車内に入ってきた人がマスクやサングラスをしていると、認証のためにSayaが外すことを促す。その上で個人認証をしてそのデータを手許にあるデータと照合し、データがあれば知り合いだと理解して名前を呼んで挨拶。なければ知らない人なので、名前を聞いて「○○さん、初めまして」となる。
また、Sayaとのコミュニケーションでは年齢推定に基づく会話も交わせる。これは個人認証には年齢を推定する認識によって行われるもので、たとえば、推定した年齢よりも若かった時は引き算をして「若く見えますね」と話し、逆に「貫禄ありますね」といったお世辞も交わす。まさに人間味あふれた対応がSayaを通して行われているのだ。
車内の状況を判断して適切な対応も果たす。車内にベビーカーや車椅子の人が乗り込んできた際は乗車中の人にそのスペースを空けるよう促し、乗車中の人が下車する際はその荷物をチェックして忘れ物があれば声掛けする。こうしたコミュニケーションを通す中で自然に車内での対応力向上につなげていくわけだ。
アイシン精機/ボデー先行開発部チームリーダーの藤井宏行氏は、「車内の遠隔監視はあってもなくても対応は可能だが、緊急事態では人がすべてに最優先となる。(乗車中の)不安解消ではSayaが間に入ることで解消できると考えている」と話す。
今回のデモでは自動運転バス内での活用例を通して実施されたが、無人で走行する自動運転車が一般化すれば、車内でのコミュニケーションはますます重要度を増すのは間違いない。その上で、アイシンではこのインターフェースが社会全体で活用できるよう改良を加え、幅広い社会実装へ向けて開発を続けていくとしている。