カーボンネガティブなコンクリートをつくる:世界で進む「脱炭素化」の試み
わたしたちの暮らしと密接にかかわっている一方で、世界のCO2総排出量の4%以上を排出しているコンクリート。いま世界では、素材や製造方法、硬化の手法などさまざまな過程でコンクリートを脱炭素化する方法が試みられている。
TEXT BY OLIVER FRANKLIN-WALLISTRANSLATION BY MITSUKO SAEKI
WIRED(UK)
岩のごとき合成物、コンクリート。わたしたちはこの素材を土台にして教会や家、道路、橋、高層ビル、工場までも建設してきた。人類が1年間で消費するコンクリートは、実に41億トンを超える。これは水を除くほかのどんな素材よりも多く、いまこの瞬間もほとんどの人がコンクリートの上に立ったり座ったりしているはずだ。
これは問題である。なぜならコンクリートや、特にその主原料であるセメントが環境に甚大な害を及ぼしているからだ。
セメント産業の二酸化炭素(CO2)排出量は、毎年28億トンにものぼる。これは中国と米国以外のあらゆる国の年間CO2排出量を上回る量であり、人間によって全世界で排出されるCO2の4~8%に相当するのだ。
世界の気温上昇を1.5℃以下に抑え、2℃を決して超えないというパリ協定の目標を達成するには、セメントの生産によって排出されるCO2の量を2030年までに最低でも16%削減する必要がある。しかし現状では、中国でいくつも進行している大規模建築プロジェクトを主な原因として、CO2排出量は増え続けている。コンクリート業界はいま、時間との闘いのなかで非常に難しく先の見えない問題の解決を迫られているのだ。
コンクリートでカーボンネガティブ企業に
コンクリートのつくり方は19世紀以来ほとんど変わっていない。小石や砂利などの粒の大きい粗骨材、砂のような細骨材、接着剤の役割を果たすセメント、そして水を混ぜ合わせるだけだ。
「コンクリートの最大の問題点はセメントの製法にあります。セメントをつくるには、まず『クリンカー(焼塊)』をつくらなければならないからです」と、英国のブラッドフォード大学で構造工学の教授を務めるアシュラフ・アシャウアは言う。セメントの材料となるクリンカーは、石灰、粘土、石膏その他のさまざまな材料を混ぜ合わせ、窯で焼き上げてつくられるのが一般的だ。
「クリンカーは1500℃程度の極度の高温で焼成する必要があり、その際に大量のCO2が排出されてしまうのです」と、アシャウアは説明する。これに加え、窯の中でクリンカーの焼成が進むと石灰が酸化カルシウムに分解され、さらに多くのCO2が放出されるという。
コンクリートを脱酸素化する方法のひとつは、セメントをフライアッシュ(石炭を燃やす際に生じる飛散灰)やボトムアッシュ(炉の底に落ちた灰)、あるいは製鉄の際に生じる高炉スラグ(鉱滓)といった素材に置き換えることだ。セメントメーカー各社は何年も前からこうした廃物を利用してきたが、相次ぐ石炭火力発電所の閉鎖によってその供給が滞りつつあることから、多くの企業が代替策を模索している。
例えば、カナダのコンクリートメーカーであるCarbicreteは、セメントの代用品として鉄鋼生産の副産物である製鋼スラグを使っているという。「製鋼の際に生じるスラグの量は毎年2億5,000万トンにのぼります」と、Carbicreteの最高経営責任者(CEO)のクリス・スターンは説明する。「製鋼スラグは長年にわたり道路の舗装に使われてきました。道路工事のほか、粒の細かいものは土地の埋め立てに使われたり、肥料にされることもあります。しかし、いずれの用途でも大量に使われることはありません」
材料を混ぜ合わせたあとは、コンクリートを固める「硬化」と呼ばれる工程が必要になる。流し込んだばかりのセメントの土台に水をかける作業員の姿を見かけたことがあるだろうか。あれが硬化の作業だ。水を使う一般的な方法の場合、硬化には28日ほど必要になる。
一方、Carbicreteはコンクリートの硬化に二酸化炭素を使うという。産業現場から出たCO2を集めてコンクリートに注入し、化学反応によって炭化カルシウム、つまり石灰を生成させて固めているのだ。「現在、当社はCO2の吸収量が排出量を上回る『カーボンネガティブ企業』となっています」と、スターンは言う。「製品を販売することによって、CO2の回収にかかる実質的な限界費用をゼロにできています。コンクリート製品が注目を集めているのは、こうした背景があるからです」