「Apple Watch 7」を使ってわかった進化ポイント
今回のアップデートでは、身につけるテクノロジーとして「あるべき姿」をより追求した存在として、いくつかの未来を見せてくれた。
Apple Watchの現状
Apple Watchは2015年4月に発売されたスマートウォッチで、カテゴリーのトップランナーとなっており、50%のシェアを誇る。
独調査会社StatistaによるとApple Watchの世界でのユーザーベースは2020年までに1億200万人を数え、発売からの5年間で10倍に膨れあがった。2021年第2四半期だけで950万本が出荷されており、これまで最高出荷台数を記録した2018年第4四半期を上回った。例年第4四半期は最も販売台数が伸びるが、それを上回った背景には、コロナ禍からの復帰で人々が活動を再開する際のタイミングを捉えた、と見ることができる。
直近となる2021年第3四半期決算(2021年4〜6月)では、Apple Watch購入者の75%が新規ユーザーだとの情報が明かされた。それでもアップルのティム・クックCEOは「Apple Watchはまだまだ普及の初期である」との見方を示しており、ユーザーに受け入れてもらうことの難しさと市場性の両面を見出している。
ではなぜコロナ禍からの復帰でApple Watchが売れるのか。その答えはApple Watchでできることでそのまま説明できる。
Apple Watchは現在も、iPhoneとのペアリングを前提としたスマートウォッチだ。Apple Watchからいろいろな設定を行う手間を省いてくれるうえ、データ連携なども自動的に済ませることができるようになる。
Apple WatchをiPhoneと連携させる非常に大きなメリットは、iPhoneの顔認証「Face ID」の回避だ。
Face IDは顔でiPhoneのロックを解除できる仕組みを提供してきたが、マスクが前提の日常生活になり、マスクをずらすか外さなければ、顔認証が通らなくなり、とくに外出時には極めて不便になった。
Apple WatchをiPhoneとペアリングすると、ロック解除状態のApple Watchを装着しているだけで、Face IDを回避してiPhoneのロック解除が行えるようになる。これは非常に快適で、交通機関を使って移動する人には必須の機能といえる。
新色となるグリーンアルミニウムケースは、非常に深い緑となっており、光が強い環境でようやく緑に見える(筆者撮影)
またSuica・PASMOといった交通系ICカードを設定できるApple Payでは、定期券も読み込み、もしくは新規購入・継続購入できるため、改札を手首で通過したり、コンビニなどで買い物をする際にも手首だけで済ませることができる。チャージすら、Apple Watchの画面の中で行えるため、チャージ機に並ぶ必要もない。
iPhoneをカバンやポケットから取り出す必要もなく、決済を手首だけで済ませられるため、電車のつり革を触った手でiPhoneに触れてしまう心配もない点も、極めてストレスが軽減される。
マスク前提、接触や密をできるだけ避けたいアフターコロナの都市生活において、Apple Watchは確実に快適さと効率性をもたらしてくれる存在として評価できる。
改善された充電サイクル
筆者は夜寝る際にもApple Watchを装着しており、睡眠の質と寝ている間の脈拍、血中酸素濃度の計測が自動で行われている。血中酸素濃度は、新型コロナウイルスの蔓延で注目された重症化を察知する指標となっている。
あくまで医療用の計測ではないため「血中酸素ウェルネスアプリ」とされており、また安静にして15秒と計測に時間がかかるが、手元のパルスオキシメーターと比べても同等の数字を出してくれるため、個人的には信頼を寄せている計測機能だ。
朝起きると身支度をしながら1時間弱の充電を行う。これで1日分のバッテリーは十分確保できる。Apple Watch Series 7では、新たにUSB-C接続の急速充電器が付属するようになり、45分で0%から80%までバッテリーを回復することができる。
また寝しなには8分間で8時間分の睡眠計測のためのバッテリーを充電できるため、寝る前に少し充電し、起きてから出かけるまでの充電で、丸1日をカバーできる電力が確保できる。明らかに充電に取られる時間は減っている。
何より、後述の新しいディスプレーはより省電力性が増しており、いつでも表示されていて時間が確認できる常時点灯ONはもちろんのこと、常時点灯OFFで使うとカタログ値以上のバッテリー持続時間を実感することができる。
Apple Watch Series 7(左)とSeries 6(右)。対角の画面サイズとしては44mmから45mmへの拡大ながら、表示領域がぐぐっと広がっているのがわかる(筆者撮影)
Apple Watch Series 7の最大の特徴は、ディスプレーだ。2度目となるサイズの拡大で、シリーズ構成は対角41mmと対角45mmの構成となった。
登場時のApple Watchは38mmと42mmだったことを考えると、小さなサイズの画面サイズが、大きいサイズに迫っていることがわかる。しかし今回も引き続き、バンドの互換性は維持され、38mmのバンドを41mmモデルに、42mmのバンドを45mmモデルにそれぞれ利用できる。
Appleによると、今回のディスプレーでは限界に挑んだと結果だという。前述のように、バンドやケースといったサイズを大きく変えず、画面を最大化することを目指しており、Series 6と比べ、Series 7の画面の縁取りは40%細く、画面サイズは初代Series 3(初代と同じデザイン)より50%拡大した。
数字以上に見た目の変化が大きい。Series 6と比較しても、明らかに画面領域が拡大しており、縁取りの黒い部分が減っている。
実は筆者は、Series 6ですら、縁取りが気になっており、あえて黒い文字盤にすることで、その縁取りの厚みを感じさせないようにしてきた。より細い縁取りになり、今後は積極的に、色がついた文字盤を選べるようになり、Apple Watchの楽しみが増した。
これまでで最も丈夫なApple Watch
正面から見てより印象が強くなった全面ディスプレーだが、実は側面から見ても表示が見える不思議なカバーガラスが装着されている。ガラス側面の膨らみの部分に、画面のエッジ部分の表示が見えるため、縁取るように数字が配置された数字が側面に浮かび上がるのだ。
これは前面ガラスで光を屈折させ、エッジ部分の側面にも光を伝える仕掛けを用意したから。今までデジタル文字盤は正面の表示をどうするかがテーマで、側面から見た場合はプロダクトデザインの世界となり、デジタルの介入はできなかった。
しかしこの新しいカバーガラスによって、デジタルが時計の側面のデザインに及ぶようになる点は、デジタルとアナログの融合でスマートウォッチらしい演出と言える。
このカバーガラスは耐亀裂性を高めた割れにくい素材を採用。光学的な透明性を失わず、50%厚い前面クリスタルを用いたという。だから光の屈折で側面に表示を浮かび上がらせることができたとも言える。
また防塵は初めて認定されており、これまでで最も丈夫なApple Watchといえる。
Apple Watchを毎日身につける動機は健康トラッキング機能だ。ただ装着しているだけで、1日に何歩、どれくらいの距離を歩いたのか? 早歩き以上の運動をどれだけしたのか? 1時間に1度立ち上がっているかどうかを計測し、記録を残し続けてくれる。
個人個人で1日のアクティブな消費カロリーを設定できる。例えば筆者は初め運動による1日の消費カロリーを350kcalに設定していたが、だんだんアクティブになり、現在では500kcalがゴールになっている。普段のデータを見て、毎週目標の見直しを通知してくれるため、自然と活動量が増えていく習慣が得られる。
加えて、Apple Watchの場合は日常がスポーツになる点も面白い。
たとえば駅までの徒歩の時間、「屋外ウォーキング」のエクササイズを設定すると、時間・距離・ペース・脈拍数などを計測してくれる。同時に高低差や気象条件も記録し、GPSで歩いた経路まで地図に残る。
「今朝は11分台でホームまで着いた」「今日は信号のかみ合わせでタイムロスした」「雨だとスピードが落ちる」など、いろいろな気づきもあり、ちょっとした時間が楽しく演出できる。
手首で計測するため、荷物を持っていたり、ベビーカーを押していたりすると、正しく歩行が計測されないこともある。屋外ウォーキングは、GPSも活用して計測するため、距離や活動量がより正しく計測できる。
そのほかにも、自転車やテニス、水泳といった主要なスポーツの計測モードが用意されているほか、もしお子さんがいるなら、週末の公園での追いかけっこやサッカーなどでも計測をONにしておくと、意外と動いていることに気づけてモチベーションにつながる。
まだまだ外出を思い切り楽しめる状況ではないからこそ、数少ない機会をApple Watchで計測し、アクティブさを感じるチャンスに変えていきたい。そんな理由も、Apple Watchがアフターコロナに受け入れられている理由かもしれない。
Apple Watchの選び方
Apple Watchは、iPhoneと異なり、自分の好きな組み合わせで購入することができる。裏を返せば、きっちりと自分で選ばなければならない。
基本的には、まずコレクションから選ぶ。通常のApple Watchに加えて、ナイキとエルメスのコラボレーションモデルが用意されている。
ナイキモデルはアルミニウムのスターライトとミッドナイトの2色、バックルがあるスポーツバンドかバックルがないスポーツループの2種類となり、画面表示とバンドはナイキモデル専用となる。
エルメスモデルはステンレススチールのシルバーもしくはスペースブラックの2色と、ナイロンもしくはレザーのバンドの組み合わせで、文字盤や背面の刻印もエルメス仕様となる。
とくに、エルメスモデルではレザーバンドとの組み合わせが売りとなっており、今回のシリーズではチェーンを模したレザーのグルメット・ドゥブルトゥール(手首を2周するタイプ)などが追加された。
通常のApple Watchでは、・ サイズ(41mm / 45mm)・ ケースの素材(アルミニウム / ステンレススチール / チタン)・ 色(アルミ5色、ステンレス4色、チタン2色)・ バンド(7種類のスタイル)
を組み合わせて自分好みのApple Watchを購入する仕組みで、その選択肢は膨大に存在する。アップルのウェブサイトで好みの組み合わせの写真を見ることができるため、参考にしてみてほしい。
ただ、今回のラインナップで注意すべきは、シルバーとゴールドの選択肢についてだ。
これまで、価格を最も抑えたアルミニウムモデルにも、シルバーとゴールドが用意されていた。しかしSeries 7のアルミニウムケースにはゴールドの設定はなく、シルバーに代わって新しい色となるスターライトが追加された。
スターライトはやや黄色が入った色温度が低いシルバーという印象で、はっきりと白っぽいシルバーを期待していた人にとっては、選びにくい。かといって、ゴールドほど色が入っているわけでもない。
もしシルバーやゴールドのケースを選びたい場合は、価格が上がるステンレススチールのケースが選択肢となってしまい、色で選ぼうとすると価格が上がってしまうため、注意が必要だ。
さりげない手首の情報端末として
Apple Watchは登場から6年、7世代目を数えなお普及の初期にいる製品と位置づけられている。
iPhoneに届く通知を手首だけで確認したり、メッセージに対して音声で返信したり、声で情報を確認・検索するなど、画面が大きく操作しやすいスマートフォンとは異なる情報の使い方をもたらしてくれる。
iPhoneからの設定で文字サイズを最大化した。表示領域の拡大で、大きな文字もある程度文章として読める長さが一度に表示される(筆者撮影)
とくにコロナ対策が前提となった社会においては、いろいろなモノに触れずに素早くコミュニケーションや決済する手段として認識されているが、これはコロナ以前からのApple Watchに備わっていた機能であり、偶然社会の状況の中で重要性が増した結果とも言える。
工業製品としてのフォームファクターを変えずに、同時にデジタルも駆使して見た目やデザイン、印象を変えていくチャレンジを続ける理由も、身につけるものだからこそ。スマートフォンのように、無闇に画面サイズごと端末のサイズを拡大できない。
そうした意味で、Apple Watchには、現在のAppleのデザインとエンジニアリング、配慮が最も込められており、日々の生活を楽しいものにしようとする演出を感じることができるのだ。