Apple Watch Series7は買いなのか? 時計専門誌編集長が絶賛する理由
実は初代からずっとApple Watch着用し続けているクロノス日本版編集長の広田雅将。高級時計専門誌の編集長にとってApple Watchはどのように映っているのか。10月に発売された最新Series 7は以前にも増して老眼に優しくなり、さらに急速充電に対応したことから、間違いなく歴代モデルと比較してもベストバイな存在と評する広田編集長のレビューを紹介する。
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
2021年11月14日公開記事
市民権を得たApple Watch、その最新作
2015年以来、筆者はずっと右腕にApple Watchを巻いている。Appleファンだからではなく、スマートウォッチがどのように進化していくかを見たいためだ。初めてこの「時計」を時計関係者に見せたとき「お前はデジタルの世界に行ってしまったのか」と冗談っぽく言われたことを覚えている。しかし、最近は聞く言葉は「使い勝手はどう?」「やっぱりいいの?」と変わりつつある。専門家の反応が示すとおり、わずか数年で高い認知どころか、市民権を得たスマートウォッチ。マーケットを開拓してきたApple Watchの新作が、10月15日に発売された「Series 7」だ。
Apple Watchが他のスマートウォッチと別物になったのは、セルラーに対応し、スタンドアローンで使えるようになったSeries 3からだろう。7世代目に当たる本作も、基本的な構成はやはりSeries 3から大きく変わっていない。しかし、ハードウェアとして見ると、現時点におけるスマートウォッチの完成形、と言ってよいほどの進化を遂げた。分かりやすい変化があるわけではないが、細部の成熟が印象を大きく変えたのである。
新Apple Watchは文字盤に注目
Series 7最大のウリが、相対的に大きな文字盤である。ケースサイズが縦41mm/45mmと、Series 6に対して1mmずつ大きくなったことに加えて、ベゼル(ガラスを留める枠)と風防の「縁」を絞ることで、文字盤の面積はSeries 6に比べて約20%、Series 3に対しては約50%増えた。
ちなみに、ベゼルを細く絞って風防と文字盤を広げるのは、今の高級時計に見られるトレンドだ。かつては細いベゼルで大きな風防を支えるのは難しいとされていたが、接着剤やパッキンの進化がそれを可能にした。詳細は不明だが、Apple Watch Series 7の改良も、おそらくは同じ理由ではないか。
文字盤の拡大に伴い、Series 7は文字盤の表示要素が増えたほか、文字を拡大しても画面が見やすくなった。今までのApple Watchは、文字のサイズが6段階から選べた。対してSeries 7は9段階に増えた。またボタンの面積が最低10%以上大きくなったため、誤操作も起こしにくい。理由はユーザーの増加だろう。15年の時点でApple Watchを選んだのは、あくまでAppleファンや、一部のテック好きだった。しかし、今やApple Watchは、普通の人にとって、ひとつの選択肢となった。Appleが「世界最大の時計メーカー」と語ったのも納得だ。あくまで筆者の私見だが、最新版のSeries 7からは、幅広い年齢層のユーザーに対する、Appleの配慮が見て取れる。
老眼にも優しい? スマートウォッチ
この10年でスマートフォンが大きくなった一因には、ユーザーの高齢化がある。もちろん全てではないにせよ、ユーザー層の変化は無視できない。ドイツのオンラインサービスであるStatistaは、毎年スマートフォンユーザーの年齢調査を行っている。イギリスにおける、12年から18年までの推移は興味深い。12年に、45才から54才までの年齢層でスマートフォンを使っているのが48%しかいなかった。しかし、2018年には87%まで増えた。55才から64才までの年齢層では、その割合は9%から71%に急増した。タブレット市場が巨大なアメリカは別として、他の国も、同じような傾向にあると言えそうだ。筆者は、遅れて普及しつつあるスマートウォッチも、同じ道をたどると思っている。イギリスの事例が示すとおり、デジタルデバイスが市民権を得るとは、使う年齢層が広がるということだ。つまり、今後のスマートウォッチは老眼になった人でも当たり前に使う存在となっていくだろう。ヘルスケアに注力するAppleが、年齢層の広がりを無視しているとは考えにくい。
・時計の比較。左はチェコ製の機械式時計プリム「スパルタク 34」。直径は34mmしかない。右はApple Watch Series 7の45mmサイズ。スペック上は右のほうが明らかに大きいが、ラグを含めた全長はあまり違わない。ケースを大きくすれば、必然的に文字盤も大きくなり、結果として老眼に優しい時計になる。しかしスマートフォンと異なり、腕に載せるデバイスにはサイズの制約がある。筆者は、Apple Watchの物理的な拡大はSeries 6で限界と考えていたが、今回Appleはケースサイズをほぼ変えないまま、視認性を大きく改善した。腕時計として使えるサイズを保ちながら、文字盤を広げた手腕は非凡というほかない。ベゼルを絞ると風防は固定しにくくなり、重いサファイアガラスならなお支えるのは難しくなるが、Appleはついにこの問題を解決したようだ。最も厚い部分でApple Watch Series 6の2倍以上もある「重い」サファイアガラスは、地味ながらもハードウェアとしての進化を象徴している。
ちなみに、ベルトを留めるラグを持たないApple Watchは、ケースサイズに比して全長がかなり短い。そのため腕上での印象は、45mmサイズでも、38ミリ程度の腕時計に近い。一般論を言うと、ケースが大きくなると装着感は悪くなる。しかし45mmモデルを腕に乗せた印象を言うと、Series 6以前とほぼ変わらないし、重心の位置もやはり同様だ。