ニュース 中国の「経済安保戦略」で確実に押さえておくべき3つのポイント

中国が推進する経済安全保障政策には、論ずべき3つのポイントがある。第1は、米国の対中制裁措置で痛打されたサプライ・チェーンを強化するための産業政策。第2は、最近急激に「進化」しつつある法規制の動き。そして第3は、経済安全保障政策が経済的強要(economic coercion)外交に転化しそうなリスクについてだ。

ニュース 中国の「経済安保戦略」で確実に押さえておくべき3つのポイント

サプライ・チェーンの安全確保

昨年11月15日(米国時間)に行われたオンライン首脳会談に臨むバイデン米大統領(左)と画面上の習近平国家主席。新疆ウイグル自治区、チベットにおける人権問題、台湾問題に加えて、中国による不公正な貿易・経済慣行も協議のテーマとなった。AFP=時事

中国は「ハイテク冷戦」と呼ばれる米国の対中制裁を受けてサプライ・チェーンの脆弱(ぜいじゃく)性に直面した。2019年5月にファーウェイ社が、その後も中国ハイテク企業が続々と、米商務省が輸出管理法に基づいて指定した取引制限リスト―いわゆる「エンティティ・リスト」―に掲載されて、米国製品の調達ができなくなった。この結果、世界一を争うスマートフォン・メーカーだったファーウェイ社は大きな打撃を受けた。国内に膨大なユーザー産業群を擁する中国は、これまで半導体を大量に輸入してきた。その半導体を一部とはいえ禁輸対象とされて、中国は「糧道を断たれる」に等しい衝撃を受けた。中国は、この弱点を解消するために、第14次五カ年計画(2021-25年)において、創新・科学技術の振興と並んで、サプライ・チェーンの安全確保を重大テーマとして取り上げた。習近平主席はこの五カ年計画策定作業の冒頭、2020年4月に行った講話(※1)の中で、「中国の産業安全保障と国家安全保障を守るために、自主的でコントロールできる、安全かつ信頼性の高い産業チェーンとサプライ・チェーンを構築すること」の重要性を訴えている。中国政府はそれ以前から「中国製造2025」計画に基づいて半導体チップの国産化を推進してきたが、この五カ年計画策定と前後して、「新時代の集積回路産業とソフトウェア産業を促進する高品質な開発のための若干の政策通知(※2)」(2020年8月国務院)を発表。税制優遇、地方政府の投資基金による投融資、国家重点研究開発計画によるR&D推進など、多方面にわたる産業政策を打ち出している。半導体国産化を巡る中国国内のムードは「準戦時体制」と評されるほど高まっているが、前途は多難だ。地方政府の投資基金から出融資を受けた工場の建設が各地で相次いでいるものの、重複・過剰・低レベルな投資で無駄金になることが懸念されている。また、大胆なM&Aで半導体産業の雄を目指した国有企業・紫光集団は、政府から多大な助成を受けてきたにもかかわらず、経営が行き詰まり、2021年12月に企業再生(破産重整)手続きに入った。西側が技術を独占する最先端露光装置やチップ設計ソフトの入手が困難な中で、線幅数ナノメートルのハイエンド・チップを国産化できるまでには5年以上かかるだろうとも言われている。しかし、線幅数10~100ナノメートル以上のミドル/ローエンドの半導体に関しては、中国企業が相当な実力をつけ、関連する素材・装置産業も育ってきている。このため、やがて整ったバリューチェーンと膨大なユーザー産業を国内に擁する中国半導体産業が、世界のハイエンド半導体市場に攻め上がってくる日がやって来る可能性はある。中国を猛然たる半導体国産化政策に走らせた米国のチップ禁輸政策は、5年後、10年後に西側で大きな後悔をもって振り返られるかもしれない。(※1) 詳細はページ下部の【関連記事】リンク参照。(※2) 新時期促進集成電路産業和軟件産業高質量発展的若干政策

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