笠松競馬、再生へのファンファーレ高らか

 ここは不祥事続きで「ゴーストタウン」のようだった笠松競馬場。長いトンネルをようやく抜けて、「再生」を告げるファンファーレの音色が高らかに鳴り響いた。勝負服姿の騎手と競走馬がゲートインし、ゴールを目指して力強く駆け抜けた。

 9月8日からのレース再開に向けた笠松競馬の「開催演習」が4日間の日程で行われた(全て1400メートル戦)。出走準備からゴールまで、不正防止策が手順通りに運用されているかを確認。長期休養明けとなる競走馬の能力審査を兼ねており、制限タイム突破し「合格」を目指した。

 大逃げあり、豪快な差し切りあり。模擬レースだったが、実況アナの名調子も復活し、本番並みの実戦モード。馬券不正購入の「黒い霧」を一掃し、国やNAR、そしてファンに「公正な競馬」を少しでもアピールし、失った信頼を取り戻そうと、懸命に騎乗馬を追った。

 ■ライブ配信「再出発する笠松を応援」

 馬券は販売されず、ファンも入場できなかったが、ユーチューブでライブ配信。再開を信じていたファンは、各馬の走りっぷりや騎手たちの騎乗ぶりに熱視線。ネット上では「うみは出し切れたかな? 頑張れ笠松競馬」「再出発する笠松を応援」といった温かいメッセージが寄せられた。競馬組合では「NARのお墨付きをもらって、レースを再開させたい」と前を向き、ファンが安心して馬券を買える競馬ができるようにしていく。

 報道関係者への公開初日(11日)には、大勢の取材陣が詰め掛けた。レース運営は本番を想定。誘導馬のウイニー君に先導された各馬は、笠松名物「内馬場パドック」に入場し、周回を重ねた。マイクロバスで到着した騎手たちは整列して一礼。田畑が広がり、のどかな笠松ならではの景色が戻ってきた。7カ月も実戦から遠ざかっている出走馬は太めが目立ち、プラス43キロの馬もいた。パドック解説者の懐かしい声も響き、馬体や動きなどを入念にチェック。返し馬に向かう騎手たちも気合が入り、引き締まった表情だった。

 ■本番モード、C級で1分26秒4の好タイム

 2日目11R(C級16組)では、オープン馬並みの好タイムも飛び出した。森山英雄厩舎のヤマニンパジャッソ(牡3歳)で大原浩司騎手が騎乗し、2着馬を3秒も引き離して大差勝ち。1分27秒2をたたき出した。タイムはもっと詰められるだろうし、再開後の走りが今から楽しみな1頭だ。1月7日には、吉井友彦元騎手が「地方通算1000勝達成」で騎乗していた。

 8月13日現在の笠松在籍馬は426頭で、4日間の計47レースに約300頭が出走。休養明けでも攻め馬はこなしており、力強い走り。ゴール前をにぎわす熱戦も相次ぎ、まずまずの再スタートとなった。最終日1Rではオープンクラスの馬が始動。逃げたナラ(深沢杏花騎手)を、シゲルグリンダイヤ(藤原幹生騎手)が差し切った。2Rでは、昨年の岐阜金賞優勝馬ダルマワンサ(加藤聡一騎手)が先行し押し切った。1分27秒3の走りを見せ、吉田勝利オーナーも「1年ぶりの1着入線。4頭立てで、1分27秒台で来なくても良かったが、長期休養明けでホッとしました」とコメントを寄せ、愛馬の復活に手応えを感じていた。5RはC級1組だったが、元JRA2勝のヒルノデンハーグ(向山牧騎手)が後続を引き離し、1分26秒4の好タイム。重賞戦線でも活躍できそうな動きだった。

 騎手は笠松の9人と、名古屋から応援に駆け付けてくれた5人。清流ビジョンでは着順も表示。4日間トータルで、1着は藤原幹生騎手、大原浩司騎手、渡辺竜也騎手が9回で、向山牧騎手が6回で続いた。名古屋勢では加藤聡一騎手が1着5回、加藤利征騎手が2回。騎手不足が深刻な笠松競馬の助っ人として、再開後も多く参戦してもらえれば、ありがたい。

 ■大原騎手会長「ようやくここまで来たんだと実感」

笠松競馬、再生へのファンファーレ高らか

 競馬組合の平井克昭管理者代行は「公正な競馬の実施と信頼回復に関係者が一丸となって取り組んでいきます。楽しくて、わくわくするような新生・笠松競馬を開催します。応援をお願いします」とファンに呼び掛け。

 県調教騎会の後藤正義会長も「ファンの皆さんからの信頼を取り戻せるよう、演習での馬の能力審査も含め、良いレースが提供できるよう、日頃の調教に一生懸命に取り組んでいきます」と。大原浩司騎手会長は「開催演習で実際に騎乗していると、ようやくここまで来たんだと実感しました。今後も関係者が一丸となって再発防止策に取り組み、頑張っていきたいです」と意気込みを示した。

 騎手たちは、地方競馬教養センター時代には、プロの馬乗りを夢見て、模擬レースを経験してきた。今回の笠松競馬での異例の競馬演習は、そういった騎手候補生時代の真っすぐな気持ちを思い起こし、ひたすら馬を追うことができたことだろう。貴重な体験を9月以降の再開につなげてもらいたい。

 ■不正の温床だったエリアでの監視強化は万全か

 笠松競馬に所属する関係者は騎手9人、調教師15人、厩務員87人で、開催執務委員は延べ53人、委託業者等従事者は87人(8月10日現在)。競馬組合では、馬券不正購入など一連の不祥事を受けて、再発防止策を進めており、不正の温床となった調整ルームや業務エリアでの監視強化が最大のポイントになった。万全にできるのだろうか。笠松競馬を去った馬券不正購入グループの「作戦会議」は、主に調整ルーム2階の娯楽室(こたつがあった場所)で行われていた。携帯電話の持ち込みは禁止だったが、厳格な取り締まりはなく、容易に持ち込めた。騎手らは外部の協力者と連絡を取り、インターネットで馬券を購入させていた。業務エリアの騎手控室でも、調子の悪い馬などの情報を集め、メモを手渡したりもしていた。

 このため、調整ルーム内では監視カメラを9台から33台に増設。携帯電話など通信機器の通信抑止装置を新設。騎手の入室時間は、ネット馬券販売の開始時刻前に前倒し(19時から17時30分に)。通信機器の持ち込みの抜き打ち検査も実施。装鞍所がある業務エリアでは、騎手控室、調教師控室および携帯電話等使用可能エリアの監視カメラを29台に増設した。

 携帯電話等の使用可能エリアは、昨年8月の開催から、騎手控室棟横と調教師控室の計2カ所に限定。競馬開催中は、監視員による常駐監視を実施(調査員1人=警察OB、業務エリア監視員2人)。調教師と騎手の接触機会を抑制するため、待機エリアを分離した。

 ネットによる馬券購入の防止では、親族を含めたネット投票会員の加入状況を確認。新規厩務員のネット投票会員の有無なども確認。SNS犯罪等への対応では、インターネット、SNS上の投稿などを、専門業者が監視するようにした。このほか、内部通報制度、セクハラ専門の相談苦情処理窓口、税務相談窓口を新設した。

 今回の演習日には、装鞍所がある業務エリアでの取材はできなかった。これは、事件発覚後の昨年8月から今年1月までも同様。レースの合間に、エリア外へ騎手らを呼んでもらうことはできたが、次のレースに騎乗する騎手も多く、取材は難しかった。馬券販売が完了した最終レース後に、ようやく業務エリアに入り、話を聞くことができた。昨年来、コロナ禍と不祥事のダブルパンチで、笠松競馬場での取材規制は「日本一」と思えるほど厳しさを増した。

 ■騎手、調教師以外も意識改革を4日間の演習期間中、業務エリアでの危機管理はどうだったのか。ファンからは「業務エリアで撮影した画像が、ネット上にアップされている」といった指摘もあった。世話をする愛馬の姿(レース前)や、待機所からの風景(演習後)で、厩務員や委託の従事員が投稿したとみられる。これらは監視カメラの目をくぐり抜けているようにも思えるが、「セーフ」なのか。騎手との会話内容も翌日投稿されているが、問題ないのか。

 業務エリアでの携帯電話など通信機器の使用は昨年8月以降、2カ所に限定されたはず。調教師が厩舎など外部と連絡を取る際も、監視員らの立ち会いで行うと聞いていたが、装鞍所がある一帯は広く、監視カメラが届かない場所もあるようだ。画像のアップは、笠松競馬愛があふれての何げない行為だろうが、スマホなどの使用はルールを守っていただきたい。

 笠松競馬ではかつて、競走馬脱走による乗用車の運転手死亡事故や、通称「ババヲナラスクルマ」がレース中に進入したアクシデントも発生。委託の警備員や運転手らの気の緩みによる「うっかりミス」が原因だった。ここで重要なことは、競馬再開を発表した管理者の言葉通り「廃止への危機感」を持って、場内で働く全ての人が公正さと安全性を確保したレース運営に携わることだ。

 馬券もネットで売る時代で、SNSなどの影響力は大きくなった。公正競馬を貫く上で、疑念や誤解を与えるような画像、つぶやきなどをネット上で公開しないよう、監視の目を光らせて危機管理意識を高めてもらいたい。騎手や調教師だけでなく、笠松競馬の業務に関わる全てのホースマンが再生への意識改革を図っていくべきだ。9月8日の再開に向けて一丸となって、クリーン化に努めていきたい。

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