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2021年9月から量産開始

佐川急便とASFの共同発表会は、神奈川県綾瀬市にある佐川急便の教習所で開催されました。発表会では佐川急便の本村正秀代表取締役社長、ASFの飯塚裕恭代表取締役社長がそれぞれ挨拶、佐川急便の宅配用軽自動車を共同開発でEV化し、脱炭素社会実現に向けて協力していくことなどが発表されました。

佐川急便は1990年代から環境対応車を導入していて、現在までにハイブリッド車やEVのトラックを運用してきました。とはいえ数は限定的で、今回のように大量導入をするのは初めてのことになります。

今後の開発スケジュールは、2021年3月から約半年間の実証実験、走行テストや検証を経て、2021年8月には内外装の仕様を決定。2021年9月中には量産を始める予定になっています。ただし、ASFの説明では「生産に少し時間がかかる」ので、納車開始は2022年9月頃になる予定です。

佐川急便の本村社長によれば、現在、佐川急便では集配用に7200台の軽自動車を運行していて、このすべてを2030年までにEV化することを目指すそうです。通常は1年に1000台ほどを新車に入れ替えているので、同じようなペースでEVを導入していくと約7年で全てが入れ替わることになります。完了すれば全体の1割程度のCO2排出量削減になると言います。

その後は、協力企業や個人事業を含めると佐川急便全体で約2万1500台の車があるので、可能であればEV化を進めたいとのことです。

本村社長は質疑応答の中で、新型コロナの影響もあって「EC貨物がここ1年で増加していて(集配車が)一般の目に触れる機会が多くなっている。そうした中で(EVを導入することで)CO2削減になることが見てもらえるというのは意義があることだと思う。配送に一番最適な車両を導入してカーボンニュートラルに向けてしっかりと取り組んでいきたい」と脱炭素への前向きな姿勢を示しました。

運輸業界ではヤマト運輸や日本郵便なども集配車のEV化を進めています。佐川急便が実際に軽自動車のEV化を進めていくと、業界全体のEV推進の流れが一気に広がることになりそうです。

【関連記事】●佐川急便が小型電気自動車をベンチャー企業と共同開発する理由とは(2020年6月7日)●ヤマト運輸がDHL傘下企業とEVトラックを共同開発、の「謎」を解く!(2019年3月31日)●日本郵便が集配車に電気自動車1200台導入「その先」を考えてみる(2019年3月28日)

ドライバー7200人のアンケートで使いやすい機能を導入

公表された軽自動車規格のEVの特徴は、発表によれば約7200人のドライバーにアンケートを実施して、ドライバーが使いやすいEVを目指したことにあります。例えば運転席を助手席より約10cmほど幅広にしてドライバーのスペースに余裕をもたせたほか、助手席にパソコン台を設置して仕事場としての機能を付加しています。外回りが長いドライバーのために1リットルの紙パック飲料を置けるホルダーを設けたり、荷室が暗いという声が多かったことに対応してLEDランプを設置するなどの工夫も実装されています。

また荷積み、荷下ろしの作業を軽減するために通常の車より荷台を高くし、荷台の下には台車などを置くスペースを確保しました。

注目の車両スペックについては、以下の内容が発表されました。

全長/3395mm全幅/1475mm全高/1950mm定員/2人航続距離/200km以上

ただ、バッテリーについてはメーカー、素材、搭載容量は未定なので発表できないそうです。充電は普通充電のほか、V2Hも可能なCHAdeMO(チャデモ)規格に対応する計画です。

一充電航続距離は200km以上とすることが明言されました。集配車の1日の平均走行距離が80km程度なので、200km走ることができれば十分に実用になるそうです。

車両を製造するのは、中国の柳州市にある五菱汽車の工場になる予定であることも明示されました。ASFは自社では工場を持たないファブレスメーカーです(正確にはファブレスメーカーを目指していると言った方が適切かもしれません)。ASFの飯塚社長によれば、中国国内の複数メーカーと交渉した結果、企業の規模やスピード面などを考慮して五菱汽車を選択したということです。

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五菱汽車と言えば、GMなどとの合弁会社である上汽通用五菱汽車(Shangqi Tongyong Wuling Qiche)が2020年に発売した格安の小型EV『宏光Mini EV』が大ヒットしています。AFPは2021年1月7日の記事で同社の年間累計販売台数が117万台を超えたことを報じています。

累計販売台数は内燃機関の車を含めた数ですが、小型NEV(新エネルギー車)も17万4000台が売れているようです。

【関連記事】●45万円で9.3kWh~中国の電気自動車『宏光MINI EV』が発売早々大ヒット中(2021年9月2日)

中国で製造されたEVといえば、上海のギガファクトリーで製造されるテスラ『モデル3』がヒット中です。佐川急便とASFの共同開発の車が計画通り日本に入ってくることになれば、中国発祥の自動車メーカーが製造した自動車が日本に本格導入される先駆的なケースともいえます。そうなれば、EVへの理解がまだ浅い日本の市場に変化を促す起爆剤になったり、日本メーカーへのいい刺激にもなりそうです。

雨の教習所を走る姿から妄想してみた

発表会当日はあいにくの小雨でした。そのため、発表会の途中で一度「雨が降っているので予定していた屋外での走行を中止する」という説明がありました。その後しばらくして、幸いにも雨がやんだため、実際に走る様子を見ることができたのですが……。

そもそも自分で運転するのでも乗るのでもなく、走るのを外から見るだけでは何かがわかるものではありません。むしろ個人的には「雨で走行中止になる」ことに驚き、アナウンスがあった時には「テレビ局は困るだろうなあ」と思いました。車が走る映像はニュースの目玉になるので、それがなくなってしまうと大変、なのです。もしかすると、まだ雨中を走れるような防水装備ができていないのかな、と想像してみたりして。

何はともあれ、走行シーンの披露や質疑応答のあと、屋外で車両を撮影したり、車の内装などを確認する時間がとれました。まず外観はすでに実用的な宅配用車両に仕上がっている印象でした。ただ、今回の発表車両はあくまでもプロトタイプで、量産時には外観デザインなどは変わる可能性があるとのことです。(編集部注:エクステリアデザインの意匠は、ASFへの出資企業で日本の電気自動車ベンチャーである FOMM が担当したそうです)

車内を見ると、荷室の床がかなり上がっているのがわかります。荷室から前席下部まで高くなっています。

発表会では、荷室の高さを上げることでタイヤハウスを避けて凹凸がなくなることや、荷積み・荷下ろしの負担軽減になるという説明がありましたが、それだけでなく、スペースに余裕がない軽自動車の床下をあけてバッテリーを搭載できるようにする意味もありそうです。ここに積まずにどこに積む、と思えるほど、スペースがありました。

けれどもワンボックスタイプの車ではよくあるように、エンジンルーム(モータールームと言うのでしょうか)は運転席下なので確認はできませんでした。

ところで、EVsmartブログの寄本編集長がフロントグリルをのぞき込み、大きなラジエーターが付いているのを見て不思議がっていました。EVにエンジン用のラジエーターが付いているのはヘンなので、何を冷却しているのか気になるのですが、詳しい説明は得られませんでした。エアコン用のコンデンサーなのかも知れません。ただ、今回発表された車はプロトタイプということなので、内燃機関の車をベース車両にした可能性も考えられます。つまりコンバートEVです。お披露目だけだし、ラジエーターを取り外さずに残っていた? と、これはまあ、妄想です。

また2022年9月に量産開始という計画が発表されたのでそれまでに型式認定を取得するのかとも思ったのですが、当初はそこまでの対応はしないそうです。ASFの飯塚社長は、型式認定は「ハードルが高く取得までに2年ちょっとかかるだろう」と話し、それまでは輸入車の特例を利用する方針を明らかにしました。

国土交通省は現在、海外で販売されている車を日本に輸入する場合、年間販売台数が5000台以下なら簡易な書面審査で手続きが済みます。飯塚社長はこの特例を利用して導入し、並行して型式認定の手続きを進めると述べました。

【参考資料】●輸入自動車特別取扱制度(PHP)の年間販売予定上限台数を引き上げました

でも、特例扱いとはいえ、日本の保安基準に適合しているのが最低条件です。つまりお金のかかる衝突安全のテストも必要で、こうした基準の適合性を書面審査で確認するのが輸入車の特例制度です。つまり特例扱いが有効なのは、海外ですでに販売していて、日本の保安基準もクリアしていると見なされる車を入れる場合ですね。だから今回の場合は、佐川急便の新型車と同型のモデルが日本の保安基準も満たす国で先に量産、販売されていれば有効な手段になりそうで、もしそうならどんな車なんだろうかとか、などといろいろな妄想が浮かんできました。軽自動車規格は日本特有なので、海外での先行販売はほんとに妄想なのですが……。

200kmという航続距離を確保するのも容易ではなさそうです。60km/hの定速走行で200kmならともかく、普段使いで200kmを確保するとなるとEPAやWLTPのテストサイクルに準拠してもそのくらい走れる性能が必須です。だとすると30kWh程度のバッテリーが必要と思われます。この量を搭載する物理的なスペースをどのように確保するのでしょうか。荷室の床を上げても軽自動車だと面積に限界があるのでデザインに苦労しそうです。それに30kWhの電池を積めばコストも上がります。

車両の導入価格について、質疑応答の中でASFの飯塚社長は「佐川急便が現在使用している車のコストを下回る価格で提供したい」と述べました。つまり、200万円は確実に切ってくるということでしょう。ひょっとしたら100万円~150万円か、と期待してしまいます。一充電で200kmの航続距離を実現し、太陽光発電パネルによる充電システムやV2H対応のチャデモ規格で急速充電機能を搭載、100V/1500WのACコンセントもあって、運行管理システムなどの付帯機能はオプションとして価格は別計算としても「現在使用している車のコストを下回る価格」が実現するのであれば、これはもう、驚天動地です。

発表会で、ASFは佐川急便への新型EV納入とは別に、リースやサブスクによるEV販売への意欲も表明しました。一充電で200km走行できる軽商用EVが現在のエンジン車を下回る価格で買えるようになれば、EVの普及が後手に回っている日本市場の雰囲気が一気に変わる可能性があります。開発が現在進行中なので詳細を明らかにするのは難しいでしょうが、ASFには改めて取材をオファーしたいとも思います。

何があるのかわからないのが世の中です。現状を冷静に考えると佐川急便とASFの共同開発EVには厳しい道のりが待っていそうですが、くじけずに課題をクリアしたら、画期的な出来事になります。販売価格150万円以下で航続距離200kmという夢のような軽規格EVが出てくるかもしれません。このコスパを実現できれば、既存大手メーカーと勝負する破壊力も十分で間違いなく売れます。

そんな不安と期待を一緒に抱えつつ、次の展開に注視したいと思います。

(取材・文/木野 龍逸)

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