盛り土による土石流、頻発する子どもの事故...命を守る知られざる闘い:ガイアの夜明け
10月1日(金)に放送された「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)では、新たな「まちづくり」に取り組む自治体や研究機関、ベンチャー企業に密着。崩れた安全神話を取り戻そうと奮闘する人々と知られざる現場を追った。
死傷者が続出する「魔の7歳」
今年6月、千葉・八街市で飲酒運転のトラックが下校中の小学生の列に突っ込み、7歳と8歳が幼い命を奪われた。八街市には、国道409号線の片側1車線で渋滞が頻繁に起きる特殊な交通事情があり、狭い脇道を抜け道にする車が後を絶たない。住民の証言では、かなりの速度で通り抜ける車もいるという。国が緊急的に予算を補助し、事故があった道にガードパイプを設置。そのほか、制限速度を落とす、道路をわざと狭くして1台ずつしか通れないようにする、段差を設けるなどの対策がとられた。八街市では、事故現場のほか約150ヵ所の危険な場所が見つかり、解決策の目途がつくまで、小学校の一部でスクールバスが導入されている。
一方、石川・金沢市にある金沢大学では、装置がついた帽子を子どもに被せ、歩く視野を記録する実験が行われていた。指揮を執る金沢大の藤生慎准教授は、「(子どもが)行きたい方向ばかり見て、反対の車が来る側に興味がいっていない」と指摘。周囲の危険を確認せず、目標物に向かう子どもの視野の狭さについて警鐘を鳴らす。歩行者の年齢別死傷者数(令和2年)をデータで見ると、高齢者が多い一方、"7歳"が突出している。小学生になると、親の手を離れて一人で行動するようになるからだ。ドライバーからすると子どもの体が小さく、視野に入りづらいことも関係している。これは「魔の7歳」と呼ばれ、大きな課題を突きつけている。藤生さんの研究室に「こくみん共済 coop」の北村秀俊さんが訪れる。保険商品も扱う「こくみん共済 coop」は、藤生さんとともに、子どもの事故を減らすプロジェクトに取り組み始めたのだ。9月中旬、藤生さんは金沢大学附属小学校の通学路に"あるもの"を設置した。学校から約300mに位置する2つの交差点に置いたのは、小型無線通信機「ビーコン」に反応するデジタル標識。「ビーコン」を持った小学1年生らが、通学途中にどんなリアクションを示すのか、効果を確かめようというのだ。無線機を持った1年生は全部で30人。子どもらが通学中に近づくと、標識は動くイラストや音で注意喚起を促す。多くの子どもが看板の前で立ち止まり、周囲の安全確認をしていた。その様子を見た藤生さんは、「いいじゃない」と笑顔を浮かべる。藤生さんはこのデジタル標識を、全国の通学路の危険な場所に設置したいと考えている。
災害を招く、ずさんな盛り土の実態
7月3日。静岡・熱海市を襲った土砂災害は、死者26人、行方不明者1人(※9月末時点)を出す大惨事となった。その原因は、盛り土。住宅地の上に作られた違法な盛り土の崩壊が土石流の引き金になり、128棟の民家を押しつぶした。国土交通省によると盛り土は、全国に5万ヵ所以上あるという。成田空港からほど近い千葉・多古町もその一つで、町内には大きな盛り土が、13ヵ所以上点在している。多古町は、「多古水」や「多古米」など、大切な特産品の品質を守るため、2018年、条例で「盛り土の規制」を強化。500㎡以上の盛り土はすべて町が管理し、事業者の届け出基準などを厳しくした。熱海の土石流の原因の一つと考えられているのが、盛り土の「排水」だ。多古町役場・生活環境課の椎名秀木環境係長は、「より一層、排水については厳しくチェックしなければいけない」と話す。しかし、規制を強めたにも関わらず、今年6月に町内の盛り土が崩れ、けが人が出る事故が起きた。奇しくも熱海の土石流が起きる約1ヵ月前。盛り土の造成工事中に崩落が起き、流れ出た土砂が県道を塞いだのだ。崩壊した盛り土の現場で何が起きたのか...。取材すると、ずさんな盛り土の実態が浮き彫りになる。
産業廃棄物を有効活用
岐阜・八百津町。中部縦貫自動車道の建設工事現場では、現場担当者らがトンネル工事で出た残土の処理に悩まされていた。残土は道路の土台部分に転用するつもりだったが、想定していたより含水比が高く、大量の雨などで崩れてしまう可能性があるという。踏みつけると、土がブヨブヨと上下するほどだ。そこに一人の男性が車で駆けつけた。ベンチャー企業「HSS」の竹中照明社長だ。竹中さんは、土を掘り出した後、岐阜県内にある自身の工場で成分を分析。データをもとに土を固くする改良材を作る。パウダー状の改良材の名は土壌固化材「ドクトール」で、竹中さんは名前の由来を、「毒を取るドクター。土の医者になりたいから」と話す。この固化材を土に混ぜると最大50倍の固さになるという。竹中さんは高校卒業後、地元の建設会社「大日本土木」に就職。トンネル工事などで残土の問題と向き合う中、独自に処理方法の研究を始めた。「ドクトール」の原料は、製紙原料や石こうボードの灰、石灰石など、工場から出る産業廃棄物などを再利用した環境に優しいものだという。「汚泥・産業廃棄物・土を再利用できないかという中で、固化材の研究を進めてきた」と話す竹中さん。今では北海道から沖縄まで、さまざまな土木の現場で「ドクトール」が使われるようになり、去年の年商は約8億円。番組は、固化材が使われるいくつかの現場を取材する。果たして、「盛り土問題」解決の助けとなるのか。
デジタルの力で子どもを守る
子どもの安全に大きな不安を抱える地域はまだある。幹線道路があり、交通量が多い東京・世田谷区では、区立の小学校から約200m離れた場所にある交差点で、頻繁に交通ルールが破られていた。交差点はスクールゾーンで朝7時半から9時まで通行禁止のはずが、ルールを無視するドライバーが続出。設置されたバリケードをわざわざどかし、その抜け道に侵入する車もいるという。小学校のPTA会長・桑原ふさみさんは「結構な勢いで飛ばしてくる車も多い。学校の区域中で一番しんどい所」と話す。さらに下校の時間帯は、通行規制がない。大人の見守りが必要だが、コロナ禍の影響でこれまで見守ってくれていたお年寄りが出てこられなくなってしまった。保護者だけでの見守りでは限界がある。そこでPTAが頼ったのが、福岡に本社を置くITベンチャー「otta(オッタ)」の山本文和社長だ。山本さんは子どもの行動を可視化し、見守り機能を備えた端末「otta」を開発。福岡市では2015年から運用が始まり、今や全国16都市で10万人が利用している。半導体ロボットのエンジニアだった山本さんが、子どもの見守りに特化した今の会社を立ち上げたのは、当時住んでいた街で起きた誘拐事件がきっかけだった。「自分の娘にそういうことにあってほしくないという思いでスタートした」と話す。 「otta」は、発信機を内蔵したホイッスル型の端末を子どもが持ち、見守る側がスマホで位置を確認するシステム。学校の昇降口付近など、あらかじめ設定しているチェックポイントを通過するとスマホに記録される。 あちこちに設置した基地局が半径約20m以内に近づいた発信機をキャッチし、保護者に位置情報を伝える仕組みで、子どもがどこにいるかがすぐにわかる。番組では、全国のタクシーと基地局を連携させた"驚くべき取り組み"も明らかに。この放送が見たい方は「テレ東BIZ」へ!
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