「徳島市の民主主義のプロセスに対する挑戦だ」 内藤市政への市民らからの疑問の声相次ぐ 遠藤前市長に対する4.6億円損賠請求議案受け

 徳島市が前市長の遠藤彰良氏に約4億6千万円の損害賠償を求める訴訟を起こす議案を開会中の市議会12月定例会に提出したのを受け、議案の問題点について話し合う「民主主義を考えるオンライン市民会議」が13日に開かれた。企画したのは吉野川の第十堰(ぜき)可動堰化計画を巡る同市の住民投票に関わった元市議の村上稔さん(55)=同市、会社経営。徳島大助教授時代に第十堰の住民投票運動を支援した武田真一郎・成蹊大教授(行政法)がゲスト参加し、市民ら25人と意見を交わした。参加者からは内藤佐和子市政に対する疑問の声が相次ぎ、民意をより反映した政治を実現するための方策が議論された。

 徳島市は新町西地区再開発事業からの撤退を巡り、再開発組合に支払った和解金などを遠藤氏に請求した。遠藤氏は「市が負担すべきだ」として、支払いを拒否。これを受けて内藤市長は市議会12月定例会に遠藤氏に対して損害賠償を求める訴訟を起こす議案を提出した。

■「徳島市の民主主義のプロセスに対する挑戦だ」

 会議の冒頭、村上さんは今回の議案について「自分たちの民主主義のプロセスが踏みにじられたと感じる」と発言。政策の在り方が選挙の争点となり、選挙結果によって政策を変更することは民主主義では「極めてノーマルな手続き」とし、「和解金など約4.6億円は徳島市の有権者約20万人が負担するのが筋。それが民主主義のプロセスだ」と話した。また、「市民の暮らしを守るべき行政が一市民に巨額の請求書を送付したことに恐怖を感じる」とも述べた。

 「徳島市の民主主義のプロセスに対する挑戦だ」 内藤市政への市民らからの疑問の声相次ぐ 遠藤前市長に対する4.6億円損賠請求議案受け

 武田教授は国家賠償法1条1項や最高裁の判例(昭和30年4月19日)を引き、「公務員個人が賠償責任を負うことはない」と強調。民意を反映して政策を変更した首長に対して請求書を突き付ける行為を「徳島市の民主主義のプロセスに対する挑戦だ」と表現し、厳しく批判した。

内藤市長が遠藤氏に送付した納付書

 参加者からは「市民目線の政治になっていない」という懸念や、議案が可決されると訴訟費用に公金が支出されることへの疑問が呈された。

 会議には扶川敦県議や饗場和彦徳島大教授(政治学)も参加。扶川県議は「二元代表制の地方議会では議員は首長に対して野党的な立場を取るのが本来の在り方。しかし、市議会も県議会も(議院内閣制を採用する)国会のように権力の奪い合いをしている。こんなことをしていたら健全な議会にならない」と問題提起し、「『敵』を排除するような姿勢ばかりだ」との見方を示した。元全国紙記者である饗場教授は、内藤市政について「報道に対する過剰な反発があったほか、記者クラブとの関係でも管理しようとする姿勢が見えた」と振り返り、「報道の自由への理解も薄く、民主主義という観点から問題が多い」と指摘した。

■間接民主主義を直接民主制で補完 常設型住民投票の条例を

 民意を反映した政治に近づけるための方策についても議論が交わされた。第十堰の住民投票にも関わった市民は「市民が『ちょっとおかしいんじゃない』と表現できる普段の場をもっとつくればいい」と提案。「政治家に手紙を送ったり、事務所を訪ねたりして、有権者は『見ていますよ』という姿勢を伝えるのが重要」という意見も出た。

 武田教授は「選挙に当選すればそれが免罪符となり、何をしてもいいと言わんばかりの振る舞いをする政治家がいる。政治の基本的な在り方を見直していかないと、日本は民主主義国家でなくなってしまう」という危機感を表明した。その上で「市民は選挙で投票して、首長や議員に任せているだけではだめ。おかしいと思ったら声を上げないといけない」とし、間接民主主義で民意が反映されない場合、直接民主制で補完する必要性を指摘。「その一つの有力な方法が住民投票だ」と話し、常設型住民投票の条例を制定しておくことが重要だとした。第十堰住民投票を振り返り、「徳島市民には民主主義を大事にする熱い力がある。それをいろんなところで示してほしい」と呼び掛けた。

 議案の審査を付託された市議会建設委員会は10日、議案を否決した。議案は16日の市議会本会議で採決される。市民会議の参加者から出た意見は声明文としてまとめ、16日までに井上武議長と市長に提出する。

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