高まる防犯意識を追い風に 自動車盗難防止装置の販売増加
自動車盗難に対するユーザーの防犯意識が高まっている。ハンドルロックやタイヤロックなど物理的に施錠する防犯機器の販売が増加傾向にある。デジタルキーの信号解析で鍵を解錠する「CAN(キャン)インベーダー」と呼ばれる新たな盗難手口が登場し、高級車などの被害が相次いでいるためだ。自動車盗難件数は年々減少しているものの、新しいセキュリティーの解除方法が生み出され手口が巧妙化しつつある。今後、物理的な盗難防止機器とともに、デジタルデバイスを組み込んだカーセキュリティーも販売が伸長する見通しだ。
(前野 翔太)
オートバックスセブンによると、防犯用品の売り上げが9月は前年同月比15%増、10月は同20%増と伸長した。それまで、同分野の商品は目立った動きはなく堅調な売れ行きを推移していたという。そうした中、兵庫県警察が8月、高級車など195台を盗んだとして男2人を逮捕。この事件に関して、キャンインベーダーなど自動車盗難の対策に物理的な盗難防止機器の有効性を複数のメディアが報じたため、販売増の契機になったとの見方だ。
同社によると、価格帯が3千~4千円前後の商品の人気が高いと言う。ステアリングにアームを固定するステアリングロックや、シートベルトソケットとハンドルを固定するワイヤーロックを中心に、販売が好調だ。車両に組み込むセキュリティーシステムも、盗難手口によっては解除が可能だという。それに対して物理的な盗難対策用品は、コストパフォーマンスに優れている点がユーザーから評価され、「車を盗もうとしても、対策を施していることが目で見て分かり、犯罪の抑止力になっているのではないか」(担当者)と推測する。
カーセキュリティー用品を手掛ける加藤電機(加藤学社長、愛知県半田市)によると、これらの物理的な盗難対策商品は2年ほど前から伸長が見られるという。ユーザーからは、防犯の効果が分かりやすく取り付けが簡単である点が購買につながっている。一方で、電子的なセキュリティー機器も堅調だ。キャンインベーダーによる盗難が多発していることから、ドライブレコーダー対応の「ホーネット」シリーズや、スマートフォンアプリ連動の「バイパー」シリーズの問い合わせも増加している。
高級車など特定車種の盗難が多発していることに関して、「電子カーセキュリティーと合わせて、物理的に防犯できるハンドルロックを装着するなど、二重の対策を推奨している」(担当者)と話す。
自動車の盗難件数は、年々減少している。自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチームによると、2020年の自動車盗難認知件数は5210件で、14年の1万6104件と比較するとおよそ3分の1にまで減少している。しかし、神奈川県警察が公表する自動車盗難発生状況によると、今年1~9月累計の盗難発生被害件数は前年同期比で64件多い213件が発生し増加の動きもみられる。算出年度が異なるため一概には比較できないが、特定の地域での発生も依然として多発しているため注意が必要だ。
20年に公表した日本損害保険協会のデータによると、トヨタ自動車「プリウス」「ランドクルーザー」「クラウン」、レクサス「LX」「LS」が盗難被害の上位を占めた。こうしたことから、盗難対策に独自の補助制度を設ける地域もある。愛知県自動車盗難等防止協会は、レクサスLXに限定して自動車盗難対策機器を無償で進呈する取り組みを開始した。加藤電機との協力で実現し、対策機器を装着・活用することで、盗難被害の減少につなげたい考えだ。
自動車盗難の手口が巧妙化し、対策の難易度が年々高まっている。愛車を犯罪から守るアイテムとして、盗難対策機器の注目がさらに高まりそうだ。