『メトロイド ドレッド』レビュー。ボス戦が超面白い! 2周目(ハードモード)からが本番
発売から1か月近く過ぎてしまいましたが、Nintendo Switch用『メトロイド ドレッド』のレビューをお届けします。
本作は19年ぶりの2Dメトロイド完全新作(2003年の『メトロイドフュージョン』以来の)……と言われても、ピンと来ない人たちも多いはず。かくいう筆者もその一人で、「メトロイド」シリーズのプレイは皆勤賞ではありません。おそらくシリーズ作を飛び飛びにはやっているものの、一番最近やったのがNintendo Switch Onlineの『スーパーメトロイド』(スーパーファミコン用)だったかなあ、という具合です。
メトロイド ドレッド(Amazon)
いちおう「メトロイド」シリーズを振り返っておくと、初代はファミコンの外付け機器「ディスクシステム」の専用アクションゲーム。ファンタジー系のゼルダに対してハードSFの世界観を持っており、主人公サムスは強化スーツに身を包み、新たな能力を「アイテムを入手」や「ボスを倒す」といった条件を満たすことで追加(ないし封印を解放)していき、少しずつ可能なアクションが増えていくというもの。
ダンジョンを進んでルートを開拓したり、アイテムを見つけるなど「探索」に重きを置いた作りはシリーズ共通となっています。
序盤に覚えるべき操作やボタン多すぎ
さて久しぶりに触ったメトロイドの完全新作は、ほとんどチュートリアルがないことに驚き。任天堂のゲームならばステージ進行こそが操作の説明であり訓練であり、触って覚えろはいつものことですが、本作は最初っから「やれること」や使いこなすべきボタンが多いのです。
直近のメトロイドが「スーパー」だった自分には、スライディングするためのZLってどこ?そんなボタン、スーファミにはなかったよ。しかも敵を狙い撃つときのフリーエイムはアナログスティックで照準を合わせねばならず、なかなか定まりません。弾数に制限があるミサイルを外し続け、あっという間にダメージソースが底を尽きることもしょっちゅうです。
そんな操作の戸惑いに輪をかけたのが「ダウンロード版を買った=手元で見られる紙のマニュアルがない」ということ。ポーズメニューから各アクションの操作ボタンは確認できますが、ここまで「基本操作をどうやるんだっけ?」と原点に立ち返りまくるゲームは長らくやっていませんでした。
しかし、設定的にサムスは歴戦の強者であり、新たな惑星(新作)のたびに最弱状態からスタートするのも「敵が警戒して装備を没収する」ためです。そんなベテランに対して初年兵のように基本から教えるのは設定的にもおかしく、逆に突き放すのが礼儀でしょう。
ですが、苦労がご褒美……というマインドセットを持っていないと、序盤は相当に辛いものがあります。特に今回の「ドレッド」では攻略に必須と言っていいメレーカウンター(敵の攻撃にカウンターを当てて強烈な攻撃を入れる)は、練習ステージがあってもいい気がしました。
「新しさ」と「昔ながら」のすごいギャップ
かたや、メトロイドや『悪魔城ドラキュラ』の系譜を汲んだ今どきの「ローグヴァニア」探索アクションゲームを数多く嗜んでいる人たちにとっても、初めの手触りがそういいとは思えない印象があります。なぜなら新たなパワーアップや移動手段の入手にともなう「マップを探索する自由」の広がりが感じにくいためです。
たとえばワイドビームを手に入れればそれに対応したドアが、ディフュージョンビームを身につければ開けられるドアの種類が1つ増える……という風に、パワーアップの段階が細かく区切られ、1つずつロックが解除されていくというもの。
それは過去のメトロイドも同様ですが、ストーリー進行と足並みをそろえるようルート管理がしっかりしており、結果的には「ほぼ一本道」となっています。正解ルート以外はすべて外れで無駄足(ごくたまにミサイルタンク追加などはあるが)。
さらには、すでに通過した地点から別の地点、セーブポイントから別のセーブポイントに飛ぶファストトラベルもなし。およそ今どきのローグヴァニアに備わっている便利機能もなく、正しい道筋からはぐれたときは全体マップを開きつつ、実距離を走って戻るほかありません。
グラフィックが恐ろしく洗練され、サムスの動きも滑らかになっているだけに、数時間ほど遊んだ時点では「新しさ」と「昔ながら」のギャップがすごいことになります。
E.M.M.I.が強すぎるため「恐怖」がゼロに
また今作のテーマは「探索」とともに「恐怖」。その象徴として導入された無敵の追跡ロボット「E.M.M.I.(エミー)」ですが、少なくとも「恐怖」としては失敗というほかありません。
特定のゾーンを徘徊するE.M.M.I.はサムスを襲うよう再プログラム(元々は調査ロボット)されており、捕まればほぼ死あるのみ。一般的なステルスゲームと違うのは敵たるE.M.M.I.が場所に縛られず自由にうろつき、視界内にいなくとも遠くからこちらの位置をとらえ、主人公よりも圧倒的に高い機動性を持っていることです。
これが実際にプレイすると、非常にうざい。こちらはゾーン内のマップ情報を持たず、E.M.M.I.の方が耳も足もスペックが段違いに高いため、何度も何度もすぐに捕まってしまいます。サムスが身を隠せる「ファントムクローク」も速度が下がりアクションも制限され、よけいに手足を縛られる印象が強い。
1分ごとにくりかえされる「死」からは恐怖なんて蒸発して、ただ面倒なだけです。ただリロード時間が短くなっているため、「死」の重さが限りなくゼロになっていることはいい……やはり恐怖から遠ざかっていますね。
PDCAサイクルが回せるボス戦の面白さ
しかし、ボス戦は目の覚める面白さ。全身にやられ判定を持つボスなんて(おそらく)1体もいない本作は、他の任天堂アクションと同じく「敵の攻撃を凌ぎつつ、攻撃パターンを見極め、弱点に対して有効な特定の攻撃を的確に当てていく」ことが基本となっています。ただ、その組み立て方がバツグンに(少なくとも筆者がプレイした中では)上手いのです。
たとえば水中に棲む、大型生物のドロギーガ。まず破壊可能なものを含む泡を3つ吐き、ムチのような触手でも攻撃してくる。泡を破壊するうちに上部の光る器官にダメージが通ると分かり、ダウンさせると左右のボタンが押せるようになる。それを押してから天井の移動装置に捕まり、反対側のボタンを押して水を抜くと本体を攻撃できる……というぐあい。
最初のうち、プレイヤー側は必死にあがいて何か有効な手がないかを観察する。そうして正解にたどり着けば、次はそれを戦いの中でタイミングよく次々とこなしていくように練習を重ねる。対してボスらは決められた法則に従って動き、不意に行動パターンを変えたりランダムな動きをすることもない。つまり「信頼できる敵」なのです。
そうした戦いを通じて「観察」「学習」「反復」のPDCAサイクル?を回し続けるうち、不慣れだった各種アクションの操作も身についていきます。ラスボスとの決戦は、磨き上げたそれらを全て出し尽くすところです。クレイド師匠、ドロギーガ師匠、エスキュー師匠……と鍛えてくれた中ボスたちの姿がまぶたに浮かんできたものです。
「メトロイド ドレッド」の本番は2周目(ハードモード)から
俺たちの本当の「メトロイドドレッド」はこれからだ!的に(打ち切りではなく)、本作が凄いのは「2周目以降が超面白い」ということです。なにしろラスボス戦にいたって、真のアクションの面白さが理解できたところから再スタートが切れるのですから。
1週クリア後にメニューに出現する「ハードモード」を選んで再出発。また強力な武装が没収されているというのに、10時間前(クリア時間は個人差があります)には怖々、ぎこちなく歩いていた序盤ステージがスイスイと猛スピードで進み、中ボスもたちまち撃破。どこがハードモードかなと首をひねり、ああ自分が上手くなったんだと思えるのは快感です。
そうした快進撃も、再び中盤にやって来ると緩やかにブレーキがかかります。敵の攻撃によりダメージが倍になっている上に、まっすぐ突き進んで体力やミサイルを増やすアイテムを回収せずに来ているために、陪乗でキツくなってしまうというわけです。
すでにYouTubeなどでは、シリーズ恒例のスピードラン(早解き競争)が大ブーム中です。一般的なメトロイドヴァニアでは1周目が面白さの頂点、クリア後は残りアイテム回収など消化作業に終始しがちですが、本作は2周目からが本番。何度も繰り返し、末永く遊ばれることを前提にできる任天堂ゲームであり「メトロイド」ブランドだからこそ、初見の印象は多少悪くなっても、トータルの完成度を高めることを目指したと思われます。
ただE.M.M.I.、オメーはダメだ。2周目でもストレスでしかない……というのも筆者が未熟なだけで、スピードラン世界の頂点から見ればE.M.M.Iの理不尽さもほどよいスパイスにすぎないのでしょうね。
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