カーチェイスの撮影に250台以上を破壊! 映画『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』の舞台裏
「セットでの爆発が100回目か1,000回目かは関係ありません。何かを爆発させるときは常に、CGIでは再現できない本能的なつながりが生まれるのです」とリンは語る。「いまは素晴らしいツールがありますが、それぞれの要素をどう使うか戦略が必要になります」
いくつか首都を破壊するようなカーチェイスを成功させるべく、リンはスパイロ・ラザトスの力を借りた。頼りになるハリウッドのスタントコーディネーターのひとりだ。『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のセカンド・ユニット(主役や主要な俳優が登場しない場面を撮影するチーム)とアクション・ディレクターを務めたラザトスは、取材時には莫大な予算を投じたルッソ兄弟の次回作『The Gray Man』にとりかかっていた。
ラザトスが担当したのは、雨季のタイでジャングルを爆破すること、そして全長100フィート(約30m)の装甲車「アルマジロ」をジョージアの首都トビリシの街中で走り回らせ、「ルノー・クリオ」をハエのように蹴散らすことだった。
トビリシのシーンでは、スタントの95%がリアルに実施されたという。このためトビリシは1週間のあいだ「都市への“鍵”を撮影チームに渡して」くれて、撮影チームがメインストリートで何十台ものクルマを破壊できるようにしてくれたと、ラザトスは語る。
だが、その前にすべてのシークエンスを“破壊的”にリハーサルする必要があった。クルマの軌跡を確かめるために、映画に登場するものと同じ重量のクルマを空の駐車場でひっくり返し、サイドターンを何百回も繰り返した。「(撮影中は)1回のミスが建物や人に取り返しのつかないダメージを与える可能性があります。とてつもないプレッシャーですよ」と、ラザトスは言う。
撮影用に250台超を破壊
リンによると、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』で破壊されたクルマは250台を超える。2009年の『ワイルド・スピード MEGA MAX』のあとは、ちゃんと数えていないのだという(なお、この作品で壊したクルマの数は200台前半だった)。
「映画で1台のクルマが衝突していたら、実は同じクルマが6~8台は用意されているんです」と、リンは説明する。「ひっくり返すクルマの台数を増やす必要がある場合は、用意するクルマの数を増やします。新しいクルマを壊すことは気にしませんが、古いクルマはつらいところですね」
クルマの爆破を追求するとコストがかかる。映画に登場する2020年式「トヨタ・スープラ」の標準モデルの販売価格は、“ワイルド・スピード仕様”が施される前で46,000ポンド(約700万円)だ。『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』に登場したこのクルマはターボチャージャー付きのBMW製3.0ℓエンジンを搭載しており、0-60mph(時速約97kmに達するまでの加速)は3.8秒である。
その他のクルマはコレクターズアイテムものだ。例えば、未改造の1968年式「シボレー・ノヴァSS」は、10,000ポンド(約152万円)から25,000ポンド(約380万円)する。
ヴィン・ディーゼル演じるドミニク・トレットは、真っ黒な1968年式「ダッジ・チャージャー」に乗っている。このクルマは、トビリシのシーン用だけで9種類のヴァージョンがつくられた。
このうち2台には、808馬力をたたき出す「ダッジ・デーモン」のエンジンが運転席の後部に積み込まれている。おかげで約1.8Gものパワーを引き出せるが、実際のところカメラ映えする。この2台は派手な演出のためにパワーを絞り出す必要があったことから、高出力のトランスアクスルとマフラー、ブレーキで強化された。
“破壊用”のクルマを製作
『ワイルド・スピード』シリーズでクルマのコーディネーターを務めているデニス・マッカーシーは、わずか3秒のシーンのために大枚をはたいてクルマを壊さなくていいように、想像力を発揮する必要があった。マッカーシーによると、実は“ポンコツ”と呼ばれるダッジ・チャージャー5台が用意されていたという。その用途は基本的にただひとつ、衝突されて跳ね飛ばされることである。