給湯器供給遅延で、官民を挙げた対応が加速
家庭用給湯器の供給遅延問題を受け、官民を挙げ対応が加速している。(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と東京都は連携し、五輪選手村に設置されている給湯器を業界団体へ無償譲渡する方針を固めた。給湯器メーカーでは不足する部資材の新規調達ルート開拓を急ぐ。
大手ハウスメーカーは代替品などで対応長期化すれば新築引き渡しへの影響も
ベトナムのロックダウンや半導体不足などを要因とする、家庭向け給湯器の供給遅延問題が深刻化している。新規受注の納期は、リンナイで2~3か月先、ノーリツは計画的な供給の見通しが立たず、パロマも先の状況が読めない状況だ。多くの住宅供給者では、ガス給湯器、エコキュートで欠品や納期の遅れが生じており、「特に寒冷地の一部においては給湯器の仕様が特殊という事情もあり手配に時間を要している」(三井ホーム)という。
今のところ、多くのハウスメーカーで、代替品や仮設品(採用機器の入荷後交換)などで対応し、新築の引き渡しに影響が出ないようにしているが、現在の状況が長期化すれば、「引き渡しへの影響も懸念される」(積水化学工業 住宅カンパニー)、「年度内引渡に向けて影響が出る可能性がある」(旭化成ホームズ)と、新築の引き渡しが遅れることも考えられる状況となっている。
選手村の給湯器を一時的な仮設置で活用給湯器メーカーは代替ルートで部品確保へ動く
こうした状況に対し、官民を挙げ対応が加速している。
12月27日、(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と東京都は、選手村に設置されている給湯器1400台を、(一社)日本ガス協会、(一社)日本ガス石油機器工業会に無償譲渡する方針を固めた。(一社)日本ガス協会では、「具体的な活用の仕方については今後検討していく」としているが、一時的な仮設置などでの活用が見込まれる。
選手村は大会後に新築マンションとして分譲・賃貸する予定だが、給湯器などの設備は大会時と新築分譲時では仕様が異なることや、分譲時までの機器の劣化で継続利用が難しい。そのため、他の公共施設などでの転用・再利用を検討していたが、給湯器不足の問題を受け、組織委員会と東京都は無償譲渡を決定した。無償譲渡の時期については「2022年1月中を目途にできるだけ早くしたい」(組織委員会)としている。
給湯器メーカーも供給遅延の解消に向け対策を急ぐ。
その一つが、従来は取引関係がなかった事業者からの部資材の調達だ。リンナイは「可能な限り代替ルートの検討を行っている」としており、ノーリツも「国内も含めて代替ルートを検討」。パロマも「部材調達の間口を広げる」としている。
また、給湯器は冬に凍結や積雪による排気口閉塞などで故障件数が増える傾向にあり、現在の供給遅延状態では交換の対応は困難だ。特に年末年始にかけて全国的に寒波が到来する見通しであり、故障の増加が懸念されるだけに、給湯器メーカーは故障予防のための注意喚起を強化している。ノーリツはホームページで、冬季における給湯器の破損・故障の予防・対処方法の注意喚起を強化。パロマも水抜きするなど、ホームページでの注意喚起に力を入れる。
ベトナムのロックダウン解除も今後の見通しは不透明
今回の給湯器の供給遅延の大きな要因は、ベトナムのロックダウンで電子基板に使われるコイルなどの部品供給が滞ったことだが、それ以外にも複数の要因が絡む。
現在、ロックダウン解除でコイル不足は解消に向かっている。しかし、半導体やワイヤーハーネスについては、コロナ禍のテレワーク拡大や巣ごもり需要で電子機器などの需要が増加したことなどから世界的に供給不足が深刻化している。自動車など、他業界との調達競争が激化しており、今後も給湯器の安定供給へ向けた見通しは不透明だ。
サプライチェーンの見直しや商品開発への影響も
今回の事態を受け、給湯器メーカー各社は、中長期的な対策に取り組む。
その一つがサプライチェーンの見直しだ。リンナイは、当面の対策としての代替ルートの確保から一歩進め、「生産プロセスの見直しなど、長期的なサプライチェーンのリスク対策をバランスよく考えた取り組みを行っていく」としている。
ノーリツはこれまで“必要なものを、必要なときに必要な量だけつくる”というジャストインタイム方式を採用した生産体制を敷いてきたが、「一定の在庫を確保するなど、今回のようなリスクに対応できる体制に見直していきたい」としている。また、部品の調達先を海外だけでなく国内も含めて広げていきたい考えだ。
給湯器メーカー各社は商品開発の方針の見直しも検討している。部材の供給不足に対応できるよう、ノーリツは「できるだけ部材の共通化を図ることを念頭においた商品開発も検討したい」とし、パロマは「国内製品と海外製品の部材の共通化を図り、部材が不足した時に海外製品の部品を国内製品に振り分けられるような商品開発も検討していく必要がある」としている。
住宅設備の供給遅延問題は給湯器だけではない。コンロ、食洗機、浴室暖房、衣類乾燥機、トイレなども供給が遅れている。やはり海外からの、半導体をはじめとした部品不足が大きな要因となっており、今後、住宅設備メーカーでサプライチェーンや商品開発の方針が大きく見直されていきそうだ。