工場安全対策の基礎知識

労働災害の発生状況は、長期的には減少傾向です。しかし工場安全の最終目標は、作業者が毎日けがをすることなく家に帰ること。管理者には全ての部下を無事に帰す責任があり、全員で労働災害ゼロ・死傷者数ゼロの実現を目指さなければなりません。この連載では5回にわたり、工場での発生頻度が高い労働災害を取り上げ、対策方法を解説します。第1回は統計データの解析を基に、工場の事故原因を確認していきます。

もくじ

第1回:工場の事故の原因

1. 統計からひもとく労働災害

まずは厚生労働省の統計から、死傷事故の実態を読み解きましょう。休業4日以上の死傷者数は、2003年頃からほぼ横ばいの12万人程度で推移していることが分かります(図1)。

図1:労働災害発生状況の推移(引用:厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課、平成28年労働災害発生状況、P.3。和暦を西暦に変更)

次に、休業4日以上となった死傷災害の発生状況を示す円グラフ(図2)を見てみましょう。発生件数の多い方から、つまずきなどによる「転倒」が27,152人、高所からの「墜落・転落」が20,094人、腰痛などの「動作の反動・無理な動作」が15,081人でした。なお、この2016年のグラフでは発生件数4番目の機械などによる「挟まれ・巻き込まれ」は、前年の2015年は3番目でした。これらのデータから、全体として発生件数上位の4つの事故がかなりの割合を占めており、特に注目すべき対象だといえます。

図2:2016年事故の型別労働災害発生状況(確定値)より休業4日以上の死傷災害の円グラフ(引用:厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課、平成28年労働災害発生状況、P.2。和暦を西暦に変更)

1:転倒事故

転倒でけがをするのは、高齢者だけではありません。転倒事故の原因には、通路が水や油で滑りやすくなっている、不要な段差や障害物がある、体調が悪いのに出勤している人がいる、ながらスマホをしている、工場内を走るなどがあります。化学工場の中には、緊急時以外は走ることを原則禁止にしているところもあります。走ることは転倒の確率、また転倒時のけがのリスクを高めます。学校の廊下を走ってはいけないという規則を思い出しましょう。

2:墜落・転落事故

墜落事故の大半は、高所作業で適切な墜落防止をしていなかったために発生しています。安全管理のしっかりした工場では、墜落事故はほとんど起きません。しかし工事現場などでは、……

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2. 個別に分析するべき事故とは

転倒事故や転落事故など、工場で発生した事故は、分析し、再発しないように対策を取るべきです。しかし、工場の事故は、生死に関わるような大きな事故から、ニアミスと呼ばれるような小さな事故まで発生し、全て分析していてはきりがありません。何を分析すべき事故と見なすかは、その事故で深刻な結果がもたらされるか否かによって判断できます。

例えば、1984年にインドのボパールで発生し、市街地でも多数の死傷者を出した毒性物質放出事故のような大事故は、誰もが原因分析や検証をすべきだというでしょう。身近な例では、……

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3. 安全対策と人材教育

安全性を考慮して設計された設備で、安全な操業を行っていれば、事故は起こらないはずです。まずは工場やラインの設計の段階で安全対策を十分に組み込み、できる限り安全な設備を作ることが重要です。多くの化学工場では、設計する際に危険源を特定して、それが事故につながらないように対策を講じています。

また、どれだけ安全な設備を作っても、作業方法や工程に危険が潜んでいては意味がありません。安全教育により、安全に関する知識を工場で働く全ての人で共有することが不可欠です。安全教育には、これさえやっておけば大丈夫というものはありません。しかし、必ず押さえるべきポイントがあります。教育する側が、……

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4. チェックリストのカスタマイズ

事故の未然防止策として、チェックリストの有効性はよく知られています。しかし、職場の状況に合っていないために、使いづらいものもあるようです。図3に、転倒防止のチェックリストを一例として載せました。これを参考に、自分の職場に適したチェックリストを同僚と一緒に作成してみてください。何度か試すうちに、良いアイデアが出てきて、より有効なチェックリストに仕上がることでしょう。職場の改善点も、見つかるかもしれません。

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第2回:反復的負荷障害とエルゴノミクス

前回は統計データの解析から、工場において発生頻度の高い事故と対策を確認しました。今回は、身体の一部に物理的な負荷が反復してかかることで起こる腱鞘炎、椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群などの疾病を、エルゴノミクスの観点から解説します。

1. エルゴノミクスとは

エルゴノミクス(Ergonomics、人間工学)とは、あらゆるハードウェアやソフトウェアを、人間が快適に、より少ない疲労で使えるように、工学的アプローチから設計・デザイン・研究する学問です。イギリス生まれのエルゴノミクスは、出発点や内容が厳密には違うものの、アメリカで生まれたヒューマンファクター(Human Factors)、万人が使いやすいデザインを目指すユニバーサルデザイン(Universal Design)と相通じる考え方です。

1:労働環境におけるエルゴノミクス

労働現場における安全対策分野で、エルゴノミクスは、人間が無理のない自然な動きで効率的に作業できる環境を整えることに活用されています(図1)。これは、事故やミスを減らすことにつながります。人間が仕事に合わせるのではなく、人間(身体)に仕事を合わせるという発想です。現在はエルゴノミクスを活用したマンマシン・インターフェースを持つ設備や機械が設計され、身体にかかる負担軽減と同時に、安全性や作業効率を高められています。特に身体に負荷がかかり続ける作業、身体に無理な動きを強いる作業が改善され、反復的負荷障害の防止につながることが期待されています。マンマシン・インターフェースとは、人間と機械とのやりとりを媒介するキーボード、タッチパネルなどの入力装置のことです。広義では、そのプログラムや仕組みを指すこともあります。ヒューマン・インターフェースと呼ばれることもあります。

図1:正しい作業姿勢のイメージ(デスクワーク)

2000年前後の米国では、事業者に対し、反復的負荷障害についての情報を労働者に提供し、問題発生リスクの改善を義務付けるエルゴノミクス規制案をめぐって議論が起こりました。結果的に規制案は否決されましたが、反復的負荷障害を予防する観点からエルゴノミクスの考え方が産業界に広く浸透し、多くの企業が自主的な改善に取り組む契機となりました。業務に起因した疾病・傷病のうち、突発的な要因ではなく、負荷のかかる作業の反復によって発生した疾病を「エルゴノミクス的な疾病」、「エルゴノミクス関連の疾病」などと呼ぶケースもあります。2010年に米国で取られた統計によると、建設現場での休業災害の25%は、エルゴノミクスに関連する傷害だったそうです。

2:設備設計での注意点

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2. 反復的負荷障害の主な疾病

長時間、繰り返し体の一部に負荷がかかる作業が原因で引き起こされる反復的負荷障害は、多岐にわたります。今回は、症例の多い代表的な疾病を紹介し、対策法を紹介します。

多くの方が苦しんでいる症状が、腰痛でしょう。椎間板ヘルニアは、その中でも代表的な症例です。仕事で傷めることが多い手にも、腱鞘(けんしょう)炎、手根管(しゅこんかん)症候群、胸郭(きょうかく)出口症候群など、さまざまな疾病があります。また、大きな音による難聴も、エルゴノミクスで対策可能な疾病です。

1:胸郭出口症候群

胸郭出口症候群とは、長時間腕を上げるなど無理な姿勢を続けることで、腕や胸などにしびれや激しい痛みが起こる疾病です。胴体(首)から腕へとつながる神経や血管は、骨や筋肉の隙間を通っています。このうち、前斜角筋と中斜角筋の間、鎖骨と第1肋骨の間の肋鎖間隙、小胸筋の肩甲骨烏口突起停止部の後方の3カ所に、長時間の締め付けや圧迫が起こると、発症する可能性があります(図2)。しびれや痛みの他に、肩こり、血行不良、さらに悪化すると耳鳴り、ふらつき感などを起こす人もいるようです。女性に多いとされていますが、胸の筋肉を鍛えている男性の発症もしばしば見られます。最近では、アミューズメントパークで働いていた女性に労災が認められたニュースで話題になりました。

図2:胸郭出口症候群、圧迫により発症原因となりうる3カ所

工場安全対策の基礎知識

長時間腕を上げる作業として、天井の張り替えや照明器具の取り付けなどがあります。適切な休憩を取り、腕を上げずに作業できる器具の使用を検討しましょう。特になで肩の女性は胸郭出口症候群になりやすいので、管理者は作業方法や時間などに十分な配慮をすべきです。

2:手根管症候群

手根管症候群(図3)は、手の酷使によって発症します。手根管は手首に近い部分にあり、腕から指先に通じる神経や伳が通っている管です。ここで正中神経が圧迫されると、しびれや激しい痛みの症状が現れます。症状の特徴としては、夜中から明け方にかけて痛みが出ること、人差し指・中指と親指にしびれが出やすいこと、悪化すると親指と人差し指で輪を作るOKサインができなくなることなどが挙げられます。また、手の酷使がなくとも、妊娠・出産期や更年期の女性に発症することもある疾病です。

図3:手根管症候群(引用:日本手外科学会、代表的な手外科疾患 1.手根管症候群、2017年、P.3)

労働の現場では、作業に適さない小さな工具を長時間使用して、手に負担をかけると起こります。工具は、作業への適否はもちろんのこと、作業者の手の大きさに合わせて選びましょう。また作業が長時間になる場合は、電動工具を使用するなど、手にかかる負担を軽減させることも大切です。

3:腱鞘炎

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3. 反復的負荷障害を防ぐには

反復的負荷障害に共通していえることは、症状が悪化してしまうとなかなか治らないということです。まず、自分の身体は、自分で守るという意識が大切です。日頃から適度な運動をして、筋肉の衰えを防ぎましょう。体の柔軟性を保つことは、反復的負荷障害の予防だけでなく、突発的なトラブルの防止にもなります。一人一人が一定期間ごとにストレッチや軽い運動を心掛け、管理者はそれを促すような職場環境を作りましょう。もし身体に違和感を覚えたら、作業を中断して早めに管理者に相談し、……

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第3回:手と指先の安全対策

前回は、腱鞘炎や手根管症候群など、エルゴノミクスに関連する疾病を解説しました。今回は、発生頻度の高い手と指先のけがの防止策を説明します。米国労働省労働統計局の統計によると、米国内で手にけがを負って手当てを受ける作業者は、毎年10万人を超えています。手は、工場での作業中に最もけがをしやすい部分です。正しい安全対策を身に付け、手や指先のけがを防ぎましょう。

1. 手袋の安全使用に関する注意点

米国労働省労働統計局(Bureau of Labor Statistics)の統計では、手にけがをした人のうち、70%が手袋を未着用でした。残りの30%の手袋をしていた人たちも、ほとんどの人が作業に適していない手袋や、傷んだ手袋(図1)など、不適切なものを着用していました。自らの手を守るために、まずは正しい手袋の知識を身に付ける必要があります。

図1:親指の腹に穴の開いた手袋

1:作業ごとに適した手袋を付け替える

何でもいいから手袋をすればよいというわけではありません。作業に適さない手袋の着用で、けがをするケースは後を絶ちません。特に溶剤や酸・アルカリなど、危険な化学物質を扱う場合には、薬剤の性質に合った専用の手袋を使用する必要があります。

手袋の種別は、その都度、自分で責任を持って確認しなくてはいけません。とある手を薬傷した作業者は「薬剤容器の脇に、使用済みの手袋が置いてあった。その薬剤専用の手袋だと思い、着用して作業した」と言いました。しかし実際には、その薬剤に適していないと判断した人が、特に意図もなく置いた手袋だったのです。勘違いと確認の不備から、この手袋で作業した人は、手を薬傷してしまいました。

刃物やガラスの破片など、切創(せっそう:切り傷)の危険性がある作業には、適した専用手袋があります。しかし切創を防ぐ効果はあっても、突き刺しには防護効果が弱いものもあるので、注意が必要です。その他、製造作業用の手袋は、高温や低温から手を守るもの、振動から手を守るもの、感電を防止するものなど、多種多様です(図2)。作業に適した手袋を使い分けて、常に安全に作業できる人が、真のプロフェッショナルです。

図2:用途が異なる、さまざまな手袋の例

2:手袋着用が危険を招くこともある

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2. ピンチポイントの事前把握

身体の一部、特に指が何かに挟まれるリスクのある場所を、ピンチポイント(Pinch Point)と呼びます(図3)。機械・設備の設計時には、ピンチポイントを作らないように気を付けましょう。どうしてもピンチポイントができてしまう場合には、指などを入れられないよう、カバーを取り付けましょう。この対策は、1994年に施行された製造物責任法(PL法)でも義務付けられています。

図3:蝶番のある扉のピンチポイント(指を挟む危険性がある場所)

私たちの身の回りには、ピンチポイントが至るところにあります。……

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3. 弾丸の通り道とは?

英語の安全スローガンに、ライン・オブ・ファイヤーに身を置くな(Keep yourself out of the line of fire.)という言葉があります。ライン・オブ・ファイヤーとは、弾丸の通り道(図4)のことです。銃が向いている方向を見れば、弾丸が通る線を予測できます。その線上にいれば、命がなくなる可能性があるということです。安全の標語として使用する場合は、死亡リスクだけでなく、けがをする可能性までを含んでいます。

図4:弾丸の通り道(ライン・オブ・ファイヤー)

機械のピストンが、高速度で上下運動している空間は、一目でライン・オブ・ファイヤーだと分かります。他にも、クレーンで重量物をつり上げている場合、つり荷の下もライン・オブ・ファイヤーとなります。ワイヤが切れ、つり荷が落ちて来る可能性がゼロではないからです。通電している電線も、ライン・オブ・ファイヤーの一種です。

プレス機のように、作動中に手を挟まれるリスクが高い装置には、ライン・オブ・ファイヤーが必ず存在します。しかし、危険な箇所に手を入れなければならない作業もあります。その場合は、……

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第4回:工場における工事の安全対策

前回は、技術者が最もけがをしやすい、手と指先の安全対策について解説しました。今回は、工場内で工事をする際の安全対策を説明します。工事の安全対策は、準備段階、作業中、工事完了後の3つに分けられます。各ポイントを押さえることで、工事中の事故発生を防ぎましょう。

1. 工場工事の準備段階の安全対策

まずは工場内で工事する際の準備段階における安全対策を解説します。工事を依頼する時の注意点、依頼者と請負側の協力、工事計画書の策定、クレーンの選定・設置計画の4項目です。

1:工事を依頼する時の注意点

工事を依頼する場合、複数の業者から見積もりを取り、同じ条件であれば安い業者を選ぶのが定石です。この時、見積仕様書に、安全上の注意事項や要求事項を明確に書いたかを、確認していますか?

工場での工事で安全上注意すべきことを、お互いに把握できているかを確認しましょう。例えば、可燃物のタンクが近くにあることや、高圧電線が通っているなどの危険源です。この段階で依頼者側の提供するものと、請負側が用意するものを明確にしなかったために、工事当日、安全用具が現場にないというトラブルもしばしば起きています。見積仕様書に安全養生などの明細が書いてあれば、請負側が安全対策をどこまで具体的に想定できているかチェックできます(図1)。見積額は少々高くても、安全対策をしっかり考慮している業者を選ぶ方が、安心して工事を任せられます。

図1:見積書に安全対策費の項目はありますか?

2:依頼者と請負側の協力

工場で工事を行う際、作業者は2つの立場に分かれます。工事の依頼者と請負側です。両者は、金銭面などでは利害が対立するかもしれません。しかし、安全面での利害は一致します。依頼者側は、自分の工場で事故を起こしてほしくありません。請負側は、作業者にけがをさせたくありません。両者は安全については全面的に協力する立場にあるのです。

3:工事計画書の策定

事前の工事計画書の策定は、非常に大切です。特に重機が絡んだ事故が起きると、大事故になる場合があります。例えば、2004年に米国カリフォルニア州ウォルナットクリークで起こった事故では、掘削用重機の先端が地中のガソリン用パイプラインを破壊してしまいました。漏れたガソリンに引火して爆発が起こり、5名の作業者の命が失われました。

このように大きな危険を伴う重機作業では、重機の搬入から作業、搬出までの作業フローを、具体的に決めておくことが大切です。掘削機を使用する場合、地中に何が埋まっているのかを把握していれば、危険を回避することができます。しかし、敷地内の全ての埋設物を正確に図面に残している工場は、ほとんどないのが実情です。自然のままの荒れ地に一から工場を建てる場合を除き、どこかに何かが埋まっていると考えた方が無難です。配管や電線が埋設されている場合は、工事中はできる限り使用を停止しましょう。

4:クレーンの選定・設置計画

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2. 工場工事の作業中の安全対策

準備段階を終えたら、いよいよ工事に入ります。工事前に押さえるポイント、工事中の変更対策の2項目を取り上げて説明します。

1:工事前に押さえるポイント

ある程度大きな工事の場合、各専門業種の人たちが、工事請負会社の監督下で作業します。このような場合には、当日初めて現場に来る作業者もいます。作業前に、現場で安全上の注意点を、彼らに確実に伝えなければなりません。現場で着用が必要な保護具のルール、緊急時の対処方法、喫煙ルールなども説明が必要です。一番重要なメッセージは、けがをせず、無事に家に帰ることが作業者の一番重要な仕事だということです。これらの説明を誰がいつ行うのか、事前に決めておきます。作業者も、自分や仲間がけがをしないことが一番大切だという気持ちで、作業に取り掛かりましょう。

経験豊富な作業者は、誰かから安全上の注意を受けた場合に、やり慣れた作業にとやかく言われたくないと感じるかもしれません。しかし、自分の身を案じてくれたのだと広い心で受け止め、身を引き締めるきっかけとしましょう。

工事を依頼する側も、作業をする側も、工事を始める前に安全上何が問題かを把握して、その対策を持って作業に取り掛かるようにしましょう。

2:工事中の変更対策

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3. 工場工事の完了後の安全対策

作業が全て終了しても、工事完了とはいえません。依頼者からの当初の要望を全て満たしていても、出来上がってから安全上の問題が見えてくることもあります。

設備の工事であれば、その設備の運転員たちにとって使いやすく、安全であることが大切です。安全な操業のためには、安全な設備を、安全に運転することが絶対条件です。工事の段階で安全な設備を提供できていなければ、その設備は、いつか事故を起こします。工事を請け負った側は、……

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第5回:ロックアウト・タグアウトとは

前回は、工場における工事の安全対策を解説しました。今回は、発生件数が多い挟まれ・巻き込まれ事故の防止策を取り上げます。設備の清掃・保守・点検などの作業中に、確実に設備を止める方法として、ロックアウト・タグアウトをご紹介します。

1. 挟まれ・巻き込まれ事故の防止策

厚生労働省の労働災害の統計(2016年)によると、挟まれ・巻き込まれ事故は、死傷災害の発生件数で第4位(14,136人が死傷)でした(参照:第1回)。前年の2015年(図1)でも、挟まれ・巻き込まれ事故は第3位(14,513人)でした。挟まれ・巻き込まれ事故は、労働災害の死傷事故の中でも、発生件数が多い事故です。

図1:2015年事故の型別労働災害発生状況(確定値)より休業4日以上の死傷災害の円グラフ(引用:厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課、平成27年労働災害発生状況、P.2。和暦を西暦に変更)

これらの事故は、設備の清掃・保守・点検・調整・設定などの作業中に多く発生しています。その原因は、……

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2. エネルギー源の確認

想定外の設備作動を防止するには、エネルギー源を断つ必要があります。多くの設備のエネルギー源は、電気です。大きな設備では、電源が複数あることも多く、全てを遮断する必要があります。また、電気以外のエネルギー源がある場合、遮断の確認が抜けないように特に注意しなくてはいけません。

袋詰め装置の保守・点検時の話です。担当者が事前に電源を遮断して装置内に入り、作業を開始しました。しかし、しばらくするとエアシリンダが突然作動し、身体を挟まれてしまいました。原因は、……

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3. ロックアウト・タグアウト

電気がエネルギー源である場合は、電源を切ることでエネルギーを遮断します。一般家庭でも、電球の交換など、電気器具に作業を施す場合は、コンセントを抜いたり、スイッチを切って作業をします。工場で作業をする場合は、それだけでは十分とはいえません。複数人で作業することもあるので、誰かが作業中であることに気付かずに、電源を入れてしまう可能性があります。ここで有効な方策が、ロックアウト・タグアウトです。電源と圧力エネルギーのロックアウト・タグアウトについて説明します。

1:電源の遮断

ロックアウト・タグアウトとは、第三者の介入を防ぎ、電源が遮断された状態を確実に維持できる手法です。作業者が作業をしている間に、それを知らない人が電源を入れてしまわないように、電源に南京錠などで鍵を掛け、タグ(荷札のような紙片)に自分の名前、作業内容、予想作業時間などを記入し、南京錠などにつるしておきます(図2)。大きな化学工場では、各設備に電気を供給するモータ・コントロール・センター(MCC)があり、電源供給盤にブレーカーが付いています。最近のブレーカーには、南京錠を直接掛けられる構造が増えています。そうでない場合は、後付けの器具を使用して南京錠とタグを掛けます。南京錠の鍵は作業者自身が保管します。こうしておけば、その作業者が作業をしている間は、誰も電源を入れることができません。また、タグを見れば誰が鍵を掛けたのか分かるので、電源を入れる必要がある場合には、スケジュールを確認したり、作業者に直接連絡を取ることが可能になります。

図2:配電盤の扉にタグアウトする作業者(さらにロックアウトするには、黄色い器具に南京錠を掛け、錠にタグを吊るします)

2:圧力エネルギーの遮断

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4. 遮断の確認

ロックアウト・タグアウトで、エネルギー源(電源)や圧力源を遮断し、第三者の操作を防ぐために伴を掛けました。しかし、もし間違えて別の設備の電源に伴を掛けていたとしたら、何の意味もありません。本当に目的の設備の電源が切られているのか、必ず確認しましょう。大型設備の場合、電源の他に、起動用スイッチが別の場所に用意されているので、それをオンにすれば確認できます。ロックした電源が間違っていたら、設備が作動します。設備に身体を入れている人がいないことを確認してから、オンにしましょう。

海外でロックした電源を間違えた事例を紹介します。……

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5. グループロック

これまで紹介した方法は、少人数の作業で、ロックアウトする設備が少ない場合には非常に有効な方法です。しかし大勢が参加する作業で、多数の設備をロックアウトするとなると、設備の電源ごとに南京錠を掛ける方法は、現実的ではなくなります。その場合は、……

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